花間の高手

きりしま つかさ

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第0096話 グラマラス美人

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風情万種、一喜一嗔に妖艶さを湛えるその女性像が柳飄飄の真実だ。

三言二語で干爹(義理の父)を悦ばせたのは言うまでもない。

黄富彦は哄々と笑いながら言った。

「お前は口先が良かろう。

人をほめるのが上手なんだよ」

柳飄飄は頬を膨らませて反論した。

「干爹、私は本当にあなた様のことを心配しています。

『ほめる』などという言葉は不適切です。

それにあなた様は世間を見抜く目が光っていますから、私が何かしらの手品を働かせようとしても、すぐに見破られてしまいますよ」

黄富彦は笑みを浮かべて頷いた。

「その通りだ。

干爹は人の本質を見極めるのが得意なんだ。

この子は?」

と、隣に立つしなやかな女性のほうへ視線を向けた。

林雪珊が丁寧に名乗った。

「黄老様、私は林雪珊です……」

柳飄飚は続けた。

「彼女は成祥グループの林社長の娘で、私の義理の妹です」

黄富彦がうなずいた。

「なるほど。

林成棟の娘か。

そのお父さんは私も存じ上げている。

江陽市の経済発展に大いに貢献された人物だよ」

林雪珊は慌てて否定した。

「黄老様、過分にお褒めいただき恐縮です。

あなた様こそが真の能者でしょう。

家父もよくおっしゃっていました。

江陽市を二十余年間支えてきたのは全て黄老様のお陰だと……」

実際、黄富彦は江陽市で長年にわたり地道に働いてきた人物だった。

地元出身の政治家として、経済活性化政策を推進し、市民からも支持を得たことが彼の最大の功績だ。

その後、数年間市長を務め、多くの幹部を育て上げたことで、退官後でもその影響力は衰えなかった。

林雪珊の言葉に黄富彦は満足げに笑った。

「いや、もう老いぼれちゃったよ」

柳飄飚が甘えた声で言った。

「干爹様、そんな謙遜はやめてください。

あなた様のご威厳があれば、どの機関も敬意を払うでしょう。

例えば陳局長や高政委のような方々ですら……」

その言葉に黄富彦の胸中が満足したように揺れた。

「では、陳と高に行ってみようか。

彼らは私のこの老体にもお目にかかりたいだろう」

ここでいう「小陳」と「小高」は公安局長の陳破虎(ちんはこ)と政委の高铁峰(こうてっぺい)のことだ。

二人とも江陽市の要人だが、黄富彦にとってはまだ若輩者に過ぎない。

三人が公安局本館に入ると、少し経験を積んだ警官たちはみな敬意を表して挨拶した。

元老はその寛大さで笑顔を返し、五階の局長室へと向かった。

やがて、既に退勤時間を過ぎていた陳破虎と高铁峰が慌てて駆けつけた。

黄富彦の要望を聞いた二人は即座に保釈許可を出し、事件を小さくするよう指示した。

目的を達成した黄富彦は先に退出し、陳破虎と高铁峰が送り出した。

「この子は成祥グループの林社長の娘で、私の義理の妹です」

「なるほど。

林成棟の娘か。

そのお父さんは私も存じ上げている……」

「いや、もう老いぼれちゃったよ」

「そんな謙遜はやめてください。

あなた様のご威厳があれば、どの機関も敬意を払うでしょう……」

柳ひらりが笑いを漏らした。

「陳局(ちんきょく)さん、褒めすぎですよ。

これじゃあ照れちゃいますわ」

高鉄峰は陳破虎より三つか四つ年上に見えた。

痩せた体格の彼は笑みを浮かべながら言った。

「陳局がおっしゃる通りです。

柳大弁護士は女傑そのもの。

彼女が手を回さないなら、どうしようもないでしょう」

「高政委(こうせいひん)さんも冗談を……本当に。

私は皆様を兄貴と見ていたのに、こんなふうに小娘をからかうなんて、あり得ませんわ」

名を知らぬ法律界の大弁護士は社交的なように公安の二トップと冗談を交わし、すぐに三人で検事局を出て、取り調べ室へ向かった。

公安のトップが直接出面したため、吴啓正(ごう けいちょう)は巨大な圧力に耐え切れず、仕方なく人質解放を許可した。

部下に秋羽の手錠を外させながら、内心で恨めしげに呟いた。

「この野郎、これで終わらないわ。

次回貴様が私の手にかかったときこそ、見物だ」

周小蕾(しゅう しょうれい)は驚きを隠せなかった。

「雪さん、能力がすごいですね。

こんな大騒動を簡単に解決してしまったなんて……」

他の警察たちはようやく悟ったように頷いた。

「なるほど、あの男がずっと態度の悪いのは、やはり裏があるんですね。

こんな重大な事件なのに、全く問題にならないなんて……」

深夜、秋羽は二女に従って公安本部を出る。

柳ひらりのおかげで解決したこの一件を記念して林雪珊(りん せっさん)が食事の誘いを出した。

「城東に新しくオープンした日本料理店『桜月舞』へどうでしょう?異国の味覚を楽しんでみましょう」

「いいわね。

今すぐ出かけようか」

三人はそれぞれ車に乗り込んだ。

秋羽は林雪珊の深青色のBMWの助手席に座り、車が動き出すと、後ろから赤い大型SUVが追ってきた。

柳ひらりの愛車である。

中国では女性がこのような豪華な大型SUVを運転することは稀だが、柳ひらりはその威圧的な存在感を好むようだ。

彼女の性格もまた男に征服されないタイプで、それが独身を続けている理由なのかもしれない。

30分後、両車が城東の料理店前に到着した。

この店は古風な装飾で異国情緒たっぷり。

門前には塔型木灯が二つ並び、揺らめく灯の中で歪んだ日本語が読み取れた。

「桜月舞料理店」

敷地は四角形の庭園で、全ての建物が昭和時代風に改装されていた。

周辺には既に車が停まっており、繁盛している様子だった。

柳ひらりが先導して三人を庭園内へ案内した。

そこには様々な花々が植えられ、色鮮やかに咲き誇っていた。

その香りは風に乗って漂ってきていた。

「あー……」

秋羽の視線が建物の二階にある窓際に向かい、そこで見覚えのある人物を見つけた。



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