花間の高手

きりしま つかさ

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第0186話 憾地弓

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少年が刀を手にし、天神下りのごとく叫んだ。

「死なきゃなら来いよ、おれ様は貴方たちの味方だぜ」

瞬時に追跡していた男たちは不自然にも足を止め、恐怖の色が目尻に浮かぶ。

ホール内は一気に沈黙となり、緊張と圧迫感が支配する。

ただ焼肉グリルと鍋から響く「バーッ」「ポトポト」という音だけが聞こえ、息苦しさを増すばかりだ。

この強引な態度に楚涼霸は拳を握りしめ、「おっ!」

と喝破した。

彼の部下たちも雷鳴のごとく歓声を上げる。

「秋少様万歳!刀で群魔を鎮めるぞ」

南宮雪乃の澄んだ瞳が畏敬の色を帯び、つい口走った。

「ほんとにカッコイイわね」

破天荒にも南宮燦は僅かに頷き、初めて孫娘の言葉に賛同する。

内心で「この類の人間、百年に一人もいないだろうな」とつぶやく。

楚雲萱は自分がこの少年をどれほど知っているつもりでも、眼前の光景に眩暈が走った。

彼が放つ威厳の気迫が電流のごとく全身と心臓を貫き、「もし生涯この人を夫にできたら……」とため息が出る。

仲間たちが刀を持った少年に圧倒されていた様子を見て、聞老七は顔を引き攣らせた。

「馬鹿な!関羽じゃないんだから、そんな重い刀を持てるわけないだろ?冗談じゃねえよ、武器を持ってこいや」

百余名の男たちが我に返り、十数人が壁際に走って懸けられた斬鉄刀や青鋼剣を手に取り、再び叫びながら突進する。

「虎が牙を剥かない限り、おれは猫だと思ってるのかよ」鬼頭刀を持った男が先鋒として近づくと、秋羽の目はさらに冷たくなった。

彼は双腕を振って青龍偃月刀を猛然と振り下ろす。

「フン!」

この古びた刀は錆で覆われ、刃も鈍っていたが、その重厚な刀身からは天を裂くような力が感じられた。

「アッ……」

男の肩から右腕ごと切り落とされ、血だらけの断片が床に落ちる。

「私の腕……!」

彼は激痛で震えながら地面を見つめ、信じられない様子で自分の切断された腕を見る。

意識を失いかけたその瞬間、秋羽は次々と男たちを蹴り飛ばす。

血みどろの光景に周囲が慄きつつも進もうとする者たちへ、秋羽は大刀を振り回して背中から殴打する。

肋骨を折るほどの衝撃で彼らは後退し、さらに五、六人も倒れる。

すると彼は猛虎のごとく群れに突入し、「一寸長ければ一寸強」という言葉通り、三メートルを超える大刀が有利に働く。

当然、その腕力も尋常ではない。

瞬間で十数人が敗北し、悲鳴を上げながら這うばかりだ。

大刀は鋭く舞い上がり、周囲の男たちを寄せ付けない。

仲間の惨状を見て彼らは恐怖に駆られ、「この野郎めっちゃ強いぜ」と囁き合う。

一方秋羽は敵を翻弄し続け、百余名もの男たちを四方八方に逃がすばかりだった。



聞家の父子の顔が白くなった。

この男を始末できなければ後悔しても後の祭りだ。

息子の目線を感じ取ると、老七は目で合図を送った。

文慕白はその意図を受け取り、父親も決断したようだと悟った。

彼は手をズボンのポケットに伸ばし、胸元から銃を取り出した。

冷たい重みが彼の心を支えた。

この男なら何とかなると、鼻で笑う。

その男はさらに凶悪さを増し、拳銃を引き抜き秋羽と戦っている大勢の男たちに向かって構えた。

状況が危急だったので、味方に誤射する可能性もあっても最後の一撃に出た。

しかし円卓の向かい側から楚雲萱がその男の卑劣さを見透していた。

彼女は時折目線を向けながら警戒していた。

文慕白が銃を取り出すと同時に、彼女の左腕に手を置き右小指で叩いた。

瞬間、黒い影が飛び出した。

「あーっ」

悲鳴と共に重い五四式拳銃が床に落ちた。

文慕白は痛みで顔をゆがめながら右手首を見やった。

そこには四寸ほどもある短剣が刺さり血が流れている。

彼は憤怒の声を上げた。

聞老七と南宮燦らがその光景を見て驚いた。

それは袖矢だったのだ。

誰もが驚きの表情を見せた。

楚雲萱は冷やかに笑った。

「これは私の袖矢よ。

あなたのような卑劣な男が暗殺しようとした罰です。

ちょうど私が挑戦を受ける時です」

彼女は円卓を回り込み軽々と飛び乗り、足で相手の顔面を蹴りつけた。

その速さと力強さに観客も息を呑んだ。

腕の激痛が文慕白を憤怒させた。

「くそったれな女め……」と叫びながら左腕で防御した。

しかし楚雲萱は空中で180度回転し、もう一足りて顔面に蹴りを入れた。

その一撃は凄まじく、文慕白の頭が鈍痛を覚え目眩みが走った。

これは災難のはじまりだった。

聞家の父子は紫髪藍目の少女を見誤っていた。

彼らは文慕白が数年間武術を修練していると信じていたが、楚雲萱の凄まじさに驚愕した。

文慕白が後退り始めた瞬間、楚雲萱は着地し駆け寄り敵の腹部に激しく蹴りつけた。

痛め入った文慕白は悲鳴を上げて屈み込み冷汗を流していた。

「死ねるわよ!あなたのような男が私の名前を汚すなど許せないわ」楚雲萱は憤怒の形相で拳脚を乱打した。

観客は呆然と見ていた。

数人の聞家配下が駆け寄ろうとしたが、劉葉虎は菜切り包丁を持ち屠夫のように突進し叫んだ。

「この女への干渉者は斬り捨てる!」

楚家の側の男たちは続々と集まり罵声を浴びせた。

「くそったれな連中め!群殴するなら言ってやるわ!誰が怯んでるか見せてみろよ!」



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