亡夢

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亡夢

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自意識が瞼に働きかけ続けて経過した時間に思案を巡らせると、それはゆうに三時間を超えている様に思われた。暗闇の先、瞼の裏に見えるあの筋は、眼球についた汚れだというのは正しい認識なのだろうか。不毛な問いをいくつも考えながら、長らくの間、この闇に溺れて感覚を失うことを求めていた。今日という日から一刻も早く離脱することを望んでいた。闇に溺れたいと渇望すればするほど、浮力が力を増大させていく。思考は浮き具の役割を無意識のうちに果たしていた。また、そうしているうちに喉の渇きという要素も顕在化していた。眠ることは、無意識に入り込むことだとかつての偉人たちは述べていたが、意識と無意識の間で揺れるこの時間はどのように定義できるのだろうか。

喉の渇きはますます激しさを増していた。しばしば、鳥になり空を飛び回ることを夢に見た。鳥はあの青に浮かぶ白い雲の群れを切り裂くように飛び回るだけの幸福な生物だ。翼という武器を持ち、飢えや渇きに困難することもない。ただ、このようなとりとめもないことを考える時間こそが至福であったために、これは理想に過ぎず、現実化を求めるものではなかった。ただ、この時ばかりはいち早く夢の世界への逃亡を成立させようと奮闘していた。脳内回路は休まるどころか、その連結速度を速めていた。

喉の渇きに耐えかね、瞼に力を込めた。それは思っていたよりも軽かった。視界の先には無機質な白い天井が広がっていたが、その白の面積というものがなぜだか普段よりも狭く感じられた。また、首を傾け視線を移動させるが色彩的な感覚がこれまでのものとは異なっていた。抑揚のない楽曲のような、何か重要な要素が欠けてしまっている感覚であった。体を起こそうと力を込めるが、その関節の動きは奇妙なもので、傀儡を操っているときかのような他己性を想起するのである。身体の自己性というものは不思議なものであって、激しく現実を喚起させる媒体である反面、現実からの逃避を顕在化させる面も有していた。

「まるで自分の体ではない」という一文は身体の他者性を有する一文でありながらその意味で身体の自己性を強く認識させる表現に違いないのである。自分の身体というものの存在を認めたからこそ、その他者性に驚愕するというわけである。そしてこの時もまた、自分の身体であるとは到底思えない状況に置かれていた。そしてこの時初めて自分の体を捉えた。驚きのあまりにくちの辺りを押さえた。だがその途中で異質な物体と接触し、痛覚を刺激された。ただその痛みも皮膚を刺されるのとは違う何か不気味なものであった。そこには柔らかさが介在していた。毛布にでも触れているのかという類の柔らかさであった。視線をさらに移す。腕が伸び、手を押さえている。

そのはずの視界には、羽毛に覆われた翼があり、それは尖った嘴を押さえていた。それは鳥類に特有の特徴に違いなかった。ワタシはその事実を客観的に咀嚼することにした。意に解せぬように努めたのだった。私は周囲を見渡していた。部屋に唯一ある窓は固く閉ざされていた。その先で無数の星々が顔を覗かせているような気はしたが、その目には全てが一色に思え、そして私の姿を嘲笑っていたように思われた。この時、私は思考を排斥していた。もう一度天井を見上げ、さらには瞼を閉じる。すると忽ち暗闇が広がり、その黒は強大な引力でワタシを引き込んでいった。その力の先に何があるのかということに関して私は知識を有していなかった。その時、渇きはもう思慮の範囲を超えていた。引力に身を任せていると、いつしかその中心へと引き込まれていった。

私が眠りから覚めると、どういうわけか窓は開いていた。一方で、私を嘲笑った星は姿を消していた。代わりに、暖かい日差しが差し込んでいた。日差しはワタシのことを呼んでいらように思われた。そしてまた、ワタシはその呼びかけに応じなければならないように思われた。

そういえば。私は何かに気づき、そして無意識のうちに空へと飛び立った。広大な空は青かった。喉の渇きは微塵も感じられなかった。

静寂に包まれた部屋にはぽつり、体が一つ。
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