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第二部
1章-2
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馬車の扉が外から開けられると、エルファーレン王宮の外観が現れた。
門の前には城に仕えていると思われる人々が並んでいる。皆、一見すると人間と何ら変わりがない。
カテリアーナは先に馬車から降りたフィンラスにエスコートされて、半日ぶりの地面に足をつける。
ルゥナの森からは猫たちが危険な目に遭わないように、強行軍で馬車を走らせたのだ。
「おかえりなさいませ。陛下」
「ジェイド、遅れてすまない。少し事情があってな」
「それは連絡がございましたので、支障はございません。そちらの方がカテリアーナ姫ですな?」
「そうだ。カテリアーナ、こちらはジェイド。我が国の宰相だ」
ジェイドと呼ばれた白い髪の宰相は紳士の礼をとる。カテリアーナが名乗るのを待っているのだ。
ラストリア王国では身分が上の者から名乗るのが礼儀なのだ。人間の国からきたカテリアーナに合わせてくれているらしい。心遣いをカテリアーナは嬉しく思う。
カテリアーナはカーテシーをする。優雅なカテリアーナの所作を見た城の人々はほうと息をつく。
「ラストリア王国第二王女カテリアーナ・ラストリアと申します。皆様、これからどうぞよろしくお願いいたします」
「お初にお目にかかります。私はジェイド・フェアフィールドと申します。エルファーレンの宰相を務めております。こちらこそよろしくお願いいたします。カテリアーナ姫」
フェアフィールドという姓には聞き覚えがある。
「フェアフィールドと申しますともしや?」
「ジェイドはカルの父だ」
「まあ、カルス様の父君なのですね」
顔を上げたジェイドはむすっとしている。いかついが整った顔立ちはカルスと似ていた。カテリアーナは少し親近感を覚える。
「左様でございます。愚息が迷惑をかけませんでしたかな? カテリアーナ姫、人間の国と妖精の国では……ん? 人間?」
鼻をひくっとさせたジェイドはまじまじとカテリアーナを見つめる。
「ジェイド、無礼だぞ」
ジェイドの行動を見咎めたフィンラスが注意をする。
「申し訳ございません。ですが、陛下。カテリアーナ姫は人間と伺いましたので……」
言いかけてジェイドは耳に違和感を覚える。飛び出たジェイドの猫耳をカテリアーナがくいくいとしているのだ。知らないうちに耳が飛び出していたことに気づく。
次の瞬間、ジェイドは思い切り後退る。
「カカカ……カテリアーナ姫! 何を!?」
「あ。申し訳ございません。猫耳が可愛くてつい」
一連の流れに耐え切れなくなったフィンラスは「ぶっ! あははははは……」と盛大に笑いだす。つられて城の人々も笑い出した。
ひとしきり笑った後、にやにやとしながら顔を真っ赤にしているジェイドに目を向ける。
「ジェイド。皆も聞け。カテリアーナはもふもふが好きだ。明日からはもふもふな部分を出すことを命じる。耳でも尻尾でも構わぬぞ」
「陛下!」
異論を唱えようとしたジェイドの声は城に仕える者たちの「はい!」という歓声にかき消された。
◇◇◇
フィンラス自らカテリアーナを部屋へと案内する。
「カティ、疲れただろう? 晩餐の時間までゆっくりするといい」
「ありがとう。フィル、あの、イアンたちはどうなるの?」
馬車で別れたイアンたちのことが気になったカテリアーナはフィンラスに彼らの処遇を聞く。イアンたちはカルスにどこかに連れられていった。
「心配はいらない。しばらく保護するだけだ。イアンたちは騙されたらしいからな。情状酌量の余地はある」
「そう。良かった」
イアンたちに対して、フィンラスは厳罰を与えるつもりはないようだ。カテリアーナはほっとする。
「さあ、着いたぞ。ここだ」
カテリアーナに用意された部屋に着いたようだ。フィンラスが扉を開けると、その中に広がっていたのはまるで庭園のような部屋だった。
シフォンのような柔らかいカーテンがかかった窓の向こうには広いバルコニーが見える。壁には不思議な光を帯びた花が蔦にからまって、部屋のいたるところに咲いていた。
ソファにもカーテンと同じ素材のカバーがかかっており、装飾には生花のような花飾りがついている。サイドテーブルは大きな木の切り株がそのまま使われていた。木の年輪は数えきれないほどだ。樹齢は何年くらいなのだろうとカテリアーナは思った。
「素敵だわ。それに広い」
部屋の中に入ったカテリアーナは広さを確かめるようにくるくると回る。何せ今まで暮らしていた塔の部屋は数回転回っただけで壁にぶつかってしまっていたからだ。
「気に入ったか? 成婚の儀が終わるまではこの部屋で過ごしてくれ。結婚後は王妃の間に移ってもらうことになるが、足りないものがあれば用意させよう」
「すごく気に入ったわ」
「それは良かった。俺は執務があるのでこれで失礼するが、後ほど侍女をこちらへこさせる」
「そうね。フィルは国王だもの。忙しいわよね。時間をとらせてごめんなさい」
ふっと微笑むとフィンラスは退室しようと踵を返す。その背中にカテリアーナがもう一度呼びかける。
「フィル、ありがとう。あと、途中で抜け出してごめんなさい」
ルゥナの森で逃げ出そうとしたことを謝罪する。フィンラスは振り返るとカテリアーナにアメジストの瞳を向け、優しく細めた。
「さて、何のことかな? カティには我が国が抱えていた問題を解決に導く手助けをしてもらっただけだが?」
「え?」
「晩餐の時間にまた会おう」
手を振ると、今度こそフィンラスは部屋を退室していった。
門の前には城に仕えていると思われる人々が並んでいる。皆、一見すると人間と何ら変わりがない。
カテリアーナは先に馬車から降りたフィンラスにエスコートされて、半日ぶりの地面に足をつける。
ルゥナの森からは猫たちが危険な目に遭わないように、強行軍で馬車を走らせたのだ。
「おかえりなさいませ。陛下」
「ジェイド、遅れてすまない。少し事情があってな」
「それは連絡がございましたので、支障はございません。そちらの方がカテリアーナ姫ですな?」
「そうだ。カテリアーナ、こちらはジェイド。我が国の宰相だ」
ジェイドと呼ばれた白い髪の宰相は紳士の礼をとる。カテリアーナが名乗るのを待っているのだ。
ラストリア王国では身分が上の者から名乗るのが礼儀なのだ。人間の国からきたカテリアーナに合わせてくれているらしい。心遣いをカテリアーナは嬉しく思う。
カテリアーナはカーテシーをする。優雅なカテリアーナの所作を見た城の人々はほうと息をつく。
「ラストリア王国第二王女カテリアーナ・ラストリアと申します。皆様、これからどうぞよろしくお願いいたします」
「お初にお目にかかります。私はジェイド・フェアフィールドと申します。エルファーレンの宰相を務めております。こちらこそよろしくお願いいたします。カテリアーナ姫」
フェアフィールドという姓には聞き覚えがある。
「フェアフィールドと申しますともしや?」
「ジェイドはカルの父だ」
「まあ、カルス様の父君なのですね」
顔を上げたジェイドはむすっとしている。いかついが整った顔立ちはカルスと似ていた。カテリアーナは少し親近感を覚える。
「左様でございます。愚息が迷惑をかけませんでしたかな? カテリアーナ姫、人間の国と妖精の国では……ん? 人間?」
鼻をひくっとさせたジェイドはまじまじとカテリアーナを見つめる。
「ジェイド、無礼だぞ」
ジェイドの行動を見咎めたフィンラスが注意をする。
「申し訳ございません。ですが、陛下。カテリアーナ姫は人間と伺いましたので……」
言いかけてジェイドは耳に違和感を覚える。飛び出たジェイドの猫耳をカテリアーナがくいくいとしているのだ。知らないうちに耳が飛び出していたことに気づく。
次の瞬間、ジェイドは思い切り後退る。
「カカカ……カテリアーナ姫! 何を!?」
「あ。申し訳ございません。猫耳が可愛くてつい」
一連の流れに耐え切れなくなったフィンラスは「ぶっ! あははははは……」と盛大に笑いだす。つられて城の人々も笑い出した。
ひとしきり笑った後、にやにやとしながら顔を真っ赤にしているジェイドに目を向ける。
「ジェイド。皆も聞け。カテリアーナはもふもふが好きだ。明日からはもふもふな部分を出すことを命じる。耳でも尻尾でも構わぬぞ」
「陛下!」
異論を唱えようとしたジェイドの声は城に仕える者たちの「はい!」という歓声にかき消された。
◇◇◇
フィンラス自らカテリアーナを部屋へと案内する。
「カティ、疲れただろう? 晩餐の時間までゆっくりするといい」
「ありがとう。フィル、あの、イアンたちはどうなるの?」
馬車で別れたイアンたちのことが気になったカテリアーナはフィンラスに彼らの処遇を聞く。イアンたちはカルスにどこかに連れられていった。
「心配はいらない。しばらく保護するだけだ。イアンたちは騙されたらしいからな。情状酌量の余地はある」
「そう。良かった」
イアンたちに対して、フィンラスは厳罰を与えるつもりはないようだ。カテリアーナはほっとする。
「さあ、着いたぞ。ここだ」
カテリアーナに用意された部屋に着いたようだ。フィンラスが扉を開けると、その中に広がっていたのはまるで庭園のような部屋だった。
シフォンのような柔らかいカーテンがかかった窓の向こうには広いバルコニーが見える。壁には不思議な光を帯びた花が蔦にからまって、部屋のいたるところに咲いていた。
ソファにもカーテンと同じ素材のカバーがかかっており、装飾には生花のような花飾りがついている。サイドテーブルは大きな木の切り株がそのまま使われていた。木の年輪は数えきれないほどだ。樹齢は何年くらいなのだろうとカテリアーナは思った。
「素敵だわ。それに広い」
部屋の中に入ったカテリアーナは広さを確かめるようにくるくると回る。何せ今まで暮らしていた塔の部屋は数回転回っただけで壁にぶつかってしまっていたからだ。
「気に入ったか? 成婚の儀が終わるまではこの部屋で過ごしてくれ。結婚後は王妃の間に移ってもらうことになるが、足りないものがあれば用意させよう」
「すごく気に入ったわ」
「それは良かった。俺は執務があるのでこれで失礼するが、後ほど侍女をこちらへこさせる」
「そうね。フィルは国王だもの。忙しいわよね。時間をとらせてごめんなさい」
ふっと微笑むとフィンラスは退室しようと踵を返す。その背中にカテリアーナがもう一度呼びかける。
「フィル、ありがとう。あと、途中で抜け出してごめんなさい」
ルゥナの森で逃げ出そうとしたことを謝罪する。フィンラスは振り返るとカテリアーナにアメジストの瞳を向け、優しく細めた。
「さて、何のことかな? カティには我が国が抱えていた問題を解決に導く手助けをしてもらっただけだが?」
「え?」
「晩餐の時間にまた会おう」
手を振ると、今度こそフィンラスは部屋を退室していった。
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