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一章‐終『贖罪』(前編)
しおりを挟む1章‐終「贖罪」(前編)
ー少女は目を覚めた。
えりなはむくりと起き。少女が今まで見た事が無い天井。目を擦りながら辺りを見周した。
えりなの布団の隣には、丁寧に畳まれた布団が有り、えりなが寝ていた"その"寝室からは食欲を湧かす匂いがしていた。
「裕太!起きてー!ご飯だよー」
えりなの耳に落ち着く声が響き渡っていた。少女は、昨日裕太から貰った"にゃんころ"を包み込む様に握り、その声のするほうへ歩み寄る。
部屋のフスマが開き、少し驚いてる美留が居た。
「おッおはよう!えりなちゃん。早起きなんて偉いね!朝ごはん出来たからおいで♪」
「おばちゃん…お、おはよう。」
美留は、微笑みながらえりなの頭を撫でるとリビングへ向かった。
リビングのテーブルの椅子には裕太が居た、
「えりなちゃん…おはよう…。」
「ゆうたちゃん…おはよう…。き、きのうは"にゃんころ"さん、ありがとう…」
「う、うん…」
裕太は顔を赤くした後、頭をかいた。美留は二人の光景を微笑みながら、えりなを椅子に導く。卓上には目玉焼きにウインナー、トーストが置いてあった。美留はえりな、裕太の眠そうな顔を見てクスリと笑い。
「ささっ。手を合わせてーっ!」
裕太は手の平を音が出るよう合わせて、えりなは昨夜、茉莉花が教えてくれた事を思い出し手を合わせる。
「いただきます!」
えりな、裕太は息が合うように言った。それが嬉しかったのか、えりなは笑顔になった。
少女の笑顔を初めて見た美留も笑い、裕太は照れているのかそっぽを向いたが内心嬉しかった様で、口元が上がっていた。
ひととおり、食事を食べ終えたあと美留は食器を片付けながら、えりなに話かける。
「そうだえりなちゃん!」
「おばちゃん…?」
話掛けられたえりなは呆然とし、首を傾けた。
彼女は微笑みながら続けた。
「今日、おうちにえりなちゃんを送ったあと、15時頃お迎え行くからね!それと、えりなちゃんにお洋服プレゼントするね♪」
えりなは、瞳を輝かせながら彼女を見つめた。
しかし、視線を落とし美留の裾をつかみ首を振った…。
「おばちゃん…いいの…えりなおうちに帰りたくない…。」
少女は首を上げ美留を見つめた。彼女は悟ってるのか、
「えりなちゃん…?昨日、茉莉花お姉さんの言う通り。怪獣さんが現れたらやっつけてあげるからね!大丈夫…安心して。」
「……うん。わかった……。」
えりなは一瞬躊躇したが微笑みながら美留に答えた。
美留には解らなかったが、裕太はえりなの表情は本当に笑ってるとは思えなかった。
裕太は喫茶店KEyの扉を開け、美留は喫茶店のガラスのドアに「本日はお休みです🐱」と張り紙をした。
冬の朝は冷え込んでいた。日差しと澄んだ冬の"匂い"。吐く息は白く、えりなはまぶたを閉じ呼吸をし、少女は美留の裾をきゅっと握った。少年は母親とえりなを牽くように先頭で歩いていた。
そして、三人から離れて後ろの方から、自転車のベルの音がした。美留が振り向いた時、
「お疲れ様でーす!おはようございます!"KEy"のオーナーさん!」
「あ、おはようございます!お巡りさん!」
彼女が振り返るとそこには二十代ほどの若い警官が自転車に乗って近寄った。美留が笑顔で挨拶する。
そして、"警官"は笑顔で敬礼したあと裕太に話しかけた。
「やぁ!ボウズおはようさん!ん、隣のかわいらしい女の子は?カノジョかなぁー?」
「お巡りのお兄ちゃん、違うもん。僕の"お友達"だもん。んでもって"坊主"じゃない…。」
「おっと!ごめん、ごめん!へー…でも、近所にこんなかわいらしい女の子居たかな…」
若い警察官は首を抱え、考えていた。えりなは警官の顔が見える様に頭を上げたが、警官の顔は太陽の逆光でぼやけて見えた。
笑顔だった警官は次第に神妙な顔になり小声で美留に話しかけた。
「KEyのオーナーさん。実は、最近この辺りで"とある"事件がありまして…」
「事件…ですか?」
美留は眉間にシワを寄せ、少し前のめりになり警官の話を聞いた。裕太は興味が無いのか、美留の足元で昨日えりなにあげた"にゃんころもち"の話を少女と一緒になって話していた。
「実は、近所の小学校の教諭が被害に遭われまして…まだ犯人がうろついていると思われるので、戸締まり等をして、不審な人が居たら近づかないでください。」
「わかりました…。気をつけますね!」
美留は昨夜の"教諭"の事件を思いだし頷く。そして注意喚起が伝わったのが解ると、警官は笑顔になり美留に敬礼をした。
「ぼ…う、"少年"!お友達を守ってあげれる男になれよー」
「はい、はい。わかりましたー!」
裕太は口元を尖らせながら警官を見つめた。
それを見た美留は警官に会釈をし、警官は自転車に股がり三人の行く先を漕いで行った。
えりなは警官の後ろ姿を見送ると美留の裾をきゅっと掴んでまた、歩みはじめる。
歩きながら裕太はえりなの方をふりかえる。
「えりなちゃんのお母さんってどんな人ー?」
「………。」
裕太は悪気があった訳ではないが、えりなに母親の事について聞いた。少女は口を閉ざしたままであった。その光景を見た美留はすかさず。
「あ、そうだー!えりなちゃんが好きなご飯って何かしら?」
「…ん……。」
美留はえりなに気を遣ったつもりでも、えりなは黙りだった。それもそのはず、徐々に昨日のえりなの"家"に近づいて来ているのだから。少女の手汗は美留にも伝わるほどであった。
「………ついた。」
「……えりなちゃん。大丈夫…。」
少女は立ち止まる。昨日の4人での団欒だった出来事は、まるで夢でも見せられてるのだと感じた。美留は真っ直ぐとした視線で、悟られ無い様に息を飲む。
裕太も、一夜開けても尚変わらない廃墟と化したえりなの家を見て硬直した。
「裕太?あんたはここに居なさい…。お母さんはえりなちゃんのお母さんとお話してくるからね。」
「…う、うん。わかったよ。お母さん…。」
美留は前にかがみこみ、裕太とえりなの同じ目線になり裕太の頭を撫でると、少女に視線を向けた。
「えりなちゃん……大丈夫。おばちゃんを信じて?」
「……。」
えりなは、ひび割れたアスファルトのひびを一点に見つめ震えていた。
美留は、えりなの後ろから覆い被さる様に優しく抱きしめた。
洗濯したての匂い、朝の朝食の匂い。えりなにとってはたった1日過ごした"匂い"であったがその匂いは"母親"の匂いだった。
「お…おばちゃん…。」
「ん…えりなちゃん、大丈夫…。おばちゃんもついてるからね…。」
「うん…お、おばちゃん。ありがとう…。」
えりなは振り返ると、笑顔を"作って"美留に見せた。
美留は立ち上がり、微笑みながらえりなの手を優しく牽く。そして昨日の"張り紙"が無くなってる玄関の前に寄りドアチャイムを鳴らした。
「…たく!誰!?ほんっと!私が寝てるのに邪魔しないで!」
擦りガラスの引き戸の向こうから、床を鳴らしながらこちらに向かってくる女性のシルエットが見えた。
油を差していない車輪がこすれる様な音を立てて引き戸が開く。そして、恵理奈の母親の"イズミ"がそこに居た。彼女はあくびをし、頭を掻きながら、美留の事は眼中には無いのか、隣で萎縮していた恵理奈を睨み舌打ちをした。
「ん…!ママ、いた…い…!」
「えりなちゃん!!」
美留は少女の手を握ろうとしたが、イズミが無表情で恵理奈の細く白い腕を鷲掴みにし、自分の背後に追いやった。
「アンタ、誰なんすか?ウチの"ゴミ"を誘拐しといて…のこのこ面厚くして来て、なんのつもりなんすか?」
イズミの背後で恵理奈は硬直していた。彼女は美留の目を睨んだが、美留は真摯な眼差しで彼女の瞳を見つめた。
「あなたが、えりなちゃんの"お母様"ですか?えりなちゃんを虐めて、気持ちが苦しくないのですか…?」
イズミは、馬に念仏を唱える様に美留から目線をずらし、ネイルを見ていた。しかし、美留は諦めず。
「えりなちゃんのお母さん…。アナタがお腹を痛めて苦しんで、苦しんで。産まれて来てくれた"我が子"に対して物扱いして、大切に思えないんですか?」
「チッ…黙って聞いていれば、つか、おばさんに何がわかんの?それと…コイツなんかを風呂に入れさせて、髪型も変えさせて…?見返りでも求めてんの!?」
その場を空間を切り裂く様な音がし、美留はイズミの頬に平手打ちをした。美留の瞳は潤んでいた。
「ちょっと!おめぇ…なんなの!?」
イズミは美留の胸ぐらを掴んで睨んだが、美留は真っ直ぐな眼差しで彼女を見つめた。
「えりなちゃんのお母さん…。えりなちゃんの苦しみ、悲しみを早く気づいてあげてください。今の"彼女"は…」
「…ママ。お…お願い…。おばちゃんを、いじめないで…」
恵理奈は硬直から解け、イズミのスエットの端を握り絞めた。しかしその瞬間、少女の腹部に痛みと衝撃が走り、狭い廊下に敷き詰められたゴミ袋の上に倒れこんだ。
その頃、裕太は両耳をふさぎ、少女の家の門の影で震えて怯えていた。
しかし、裕太はまぶたを閉じ、昨日産まれて初めて好きになった少女の一際輝く笑顔を浮かばせた。
(ぼ、ボクがえりなちゃんや、おか、お母さんを守らなきゃ…)
少年はそう思うとまぶたを開き立ち上がってイズミめがけて突進した。
「おばさん!えりなちゃんやお母さんを虐めるのは辞めて!!」
「あんたんとこのガキぃ!?ホントになんなのよ!」
美留は大人になった息子を見つめて、罪悪感と共に涙が落ちた。
「ちょっと!何があったんですか!?喧嘩は辞めなさい!」
美留の背後から、今日聞いた声と共に自転車のベルの音が近づいてきた。彼女の胸ぐらを掴んでた手が緩み、解放されると。
「お姉さん、暴力はいけませんよ!」
「お巡りさん…!この人達からけしかけてきたのよ!?」
美留は振り返るとそこには、さっき会ったばかりの若い警察官がいた。その警察官は美留の顔を見るなり一瞬躊躇はしたが、口元は微笑んでいた。
「今回の件は大目に見ますが…、次にまたやったらその時は…。」
「チッ!わかりました。もうしません…。」
「えりなちゃんのお母さん…?」
「はい、何か…?」
警察官とイズミの会話に割り込むかの様に、美留が話かける。
「本日の15時に、クリスマスイヴのお食事会をするのですが、その時間になったらえりなちゃんをお迎えに行きますのでよろしくお願いします…。それと」
「はぁ!?何いってんのあん…た。」
イズミは反抗しようとしたが警察官が見ていたのもあってか躊躇した。
「それと…アナタがえりなちゃんを蹴った。"母親"であるアナタがあの子に謝って、病院に連れてってあげてください。それでは15時に。」
「……。わ、わかったわよ!」
美留は警察官に悟られないようにイズミを睨んだ。
「わ、わかったからもうここから出てって!」
「ちょっ!!」
玄関の引き戸のすりガラスが割れるかの様にイズミは戸を乱暴に閉めた。
えりなの家の前の門に三人はいた。
「……。」
そして、放心状態になってる裕太。息子のズボンはあまりにの恐怖だったのか濡れていた。息子を見かねて美留は抱き締めた。そして、泣いた。
「裕太、こんなとこ見せて辛い思いさせてごめんね…。裕太本当にごめんね…。」
その"親子"の光景を見た若い警察官は、笑顔で裕太の頭に手をのせ髪の毛をぐしゃぐしゃに撫でた。
「ボウズ。よく頑張って、あの女の子やお母さんを守れたな!!偉いぞ!」
「お、警察のお兄ちゃん………ッ。お母さん!」
「お巡りさんも、ありがとうございました。」
美留はそっと抱き締めていた手を離し、立ち上がり警察官に深々と頭を下げた。
「いえいえ!私は何も…。安全で"幸せ"なイヴを!」
「はいっ!」
美留と裕太は返事をすると彼は微笑んで。美留に向き合い。
「KEyオーナーさん。"…か"の事よろしくお願いします…。それでは!"本官"はこれにて失敬!なんちゃって!」
「あ…ちょ…!」
彼はさっと敬礼すると、そそくさと自転車で早速と走りだした。
美留と裕太は、見えなくなるまで彼の背中を見つめるのだった。
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