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第1章
貴女を想います。
しおりを挟むーひんやりとした布が、おでこの熱を吸い上げていきますわ。
ああ。気持ちがいい。
茹だるような熱さと、気怠い倦怠感を取っていってくれてるような・・・・そんな気がしましてよ。
私ったら、熱を出して倒れてしまったのね。
情けないですわ。
俺様や腹黒、お馬鹿わんこといった攻略対象に出会ったくらいで・・・・熱を出して倒れてしまうなんて。
多少の不遇や不運など、跳ね除けて差し上げたかったのに…存外私も弱いのですわね。
完璧淑女な悪役令嬢には、まだまだですわ。
これくらいの事で音をあげるだなんて
「・・・・情けないですわね」
しっかりなさいな。ヴィクトリア・アクヤック。貴女、物語は始まったばかりですのよ?1日目で音をあげてどうしますの!?
これから運命に抗うつもりですのに、少し攻略対象と関わったくらいでこの体たらく・・・・そんな事では、ハンスendになんて辿り着けなくってよ?
あーでも・・・・熱があると・・・・人間・・・・気持ちが弱くなりますわね。寮の自室だというのに、ハンスの香りを感じますわ。
リンゴのようにフルーティで・・・・瑞しく・・・・甘く優しい、咲き立ての白い薔薇の香り。
落ち着きますわ。
まるで、ハンスが傍に居てくれてるような気がしましてよ。
ふふふ。居る筈ありませんわね。
だって、女子寮ですもの。
いくら執事だといっても、男性のハンスが居たら大変ですわ。
見つかれば大問題ですわよ。
退学ものかもしれませんわ。
私ったら、ハンスの事で頭がいっぱいですのね。だからハンスの香りだなんて・・・・恥ずかしいわ。
「ハンス・・・・」
「はい。なんでしょうか。お嬢様」
・・・・あら。幻聴が聞こえましたわ。
「ハンスが、傍にいるだなんて…ふふふ。私ったら。夢の中まで貴方を求めてるのね」
「いますよ?ここに」
あら?この幻聴は、返事もするのね。
私、熱で魘されてるからといって・・・・本当に都合の良い夢を見てるのね。
「そう。ハンス・・・・傍にいるのね」
「ええ。お嬢様の傍に。俺は貴女の執事ですから」
「ふふふ。そうよね。貴方は私の執事ですもの。傍に居て当たり前よね?私から離れたりしませんわよね?」
「・・・・はい。離れたりしませんよ。貴女が俺を求めてくれる限り・・・・俺はお側で仕えさせて頂きます」
「嬉しいわ・・・・でも・・・・できれば・・・・執事でなく・・・・伴侶になって欲しいのだけど・・・・」
「それは・・・・。貴女には、俺なんかよりもっと・・・・お嬢様?」
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
会話をしていた筈なのに・・・・いつの間にかヴィクトリアは返事を返さなくなった。
スースーと寝息が聞こえてくる。
「お嬢様・・・・。寝てしまわれたのですね」
優しい笑みを浮かべ、眠るヴィクトリアの髪をハンスはそっと梳かす。
「伴侶・・・・か」
ヴィクトリアの告げる、愛の告白。
6歳の頃から・・・・一途に求められる愛。
恋と呼ぶには、幼すぎるヴィクトリアの想い。
愛するには若すぎる。まるで薔薇の蕾のような少女。
応えられるわけがない。応えていい筈がない。
ヴィクトリアは、直情的な人間だ。
其処が好ましい所ではあるが、余りにも周りが見えていなさすぎる。
「お嬢様。貴女は、恋に恋をしているんですよ」
きっと貴女は、此処で素敵な出会いを経験し、たくさんの想いを知るでしょう。それは、向けるモノ。向けられるモノ。戸惑うモノも多いかもしれません。
できれば、俺の傍を離れた状態で経験し…視野を拡げて欲しかったのだけれど・・・・
「だめだな。こうなるのがわかっていたから・・・・入学なんてしたくなかったのに」
傍に居れば、囲いたくなる。
俺以外に目を向けて欲しいと願う癖に
俺以外を見つめて欲しくないと邪な感情が、胸に宿る。
執事だという立場を利用して、傍にいたいと思う。過保護に囲って・・・・回りから遠ざけようとしてしまう。
「お嬢様の幸せを・・・・俺は心から願っていますよ」
だから、俺なんて見ないで。
もっと他に目を向けるべきなんだ。
「お嬢様。俺は貴女に相応しくない。だから、この4年で…きちんと貴女を諦めますから。・・・・執事でいる事だけは、俺から取り上げないで下さい」
ハンスは撫でる手を止め、その金糸の髪のひと房に・・・・そっと口付けを落とし呟いた。
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