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第3章
人形は虚空に想いを馳せる
しおりを挟む夜の帳が降り。辺りに静けさが漂う。人の近寄らないその場所で、私は一人壁に持たれ虚空を見つめる。そうして、あの方からの声を待つ。
あらかたの報告を終え、月を見る。暗闇に浮かぶそれは、ぽっかりと空いた穴のようで。まるで自分の心のようだとふと思う。欠陥だらけの造り者。
ワタシは、涙を流せない。涙の流し方を知らないから。
ワタシは、笑顔がわからない。だから上手に笑って全てを誤魔化す。
何一つ本物じゃない。嘘だらけ。全てが造り物で紛いモノ。
貴女に触れれば ワタシにも ソレがわかる?
貴女に触れば ワタシも ソレを持てる?
わからない
わからない
わかるのは、貴女の笑顔があったかいという事。
貴女の傍が心地よいという事。
貴女に触れるとソレが溢れるという事。
知りたい
知らない
わかりたい
わかり合いたい
『フィロス。・・・・大丈夫か?』
無機質なブレスレットから、届く声。ハッとしその声に私は返事を返す。
「はい。大丈夫です。問題ありません。友人として、彼女との接触を続けます。」
腕に付けた冷たいソレ。ブレスレットに埋め込まれた石が、白く淡い光を放つ。ワタシは紛い者だ。紛い物の人形。彼女の傍にいるのは、ソレが私の役目だから。だから・・・・
彼女の傍にいるべきじゃない。傍にいると生まれてくる。湧き上がるナニカ。これは感情ではない。心ではない。
『・・・・そこに或るだけでいい。』
そう。人形に心はないから。命じられ、従い、こなす。その為に造られた人形。
なら、この気持ちは何なのだろう。
くすぐったくてあったかい。切なくて苦しい。
壊れてはいけない。人形は壊れたら破棄される。
だというのに。
ワタシは、彼女に惹かれている。
薄っぺらな好きに本音を混ぜて、告げる程に。振り向かれては困るのに、振り向いて欲しいと願ってしまう程に。
いつから?
初めてあったあの日から?・・・・いや、きっと生まれる前から。
ずっとずっと前から。
通信を切り、腕を下ろす。
ーチャリっ。
鎖の擦れる音が耳に残る。
「ヴィーちゃん。・・・・苦しいよ。傍に居るのが苦しい。」
綺麗で、可愛くて、真っ直ぐで、キラキラしてて目が離せない。そんなヴィクトリアの傍居ると、想いが募って苦しい。苦しくて息ができない。
「それでも・・・・傍に居たい。知りたい。この感情を、気持ちを、知って、触れて、感じて、分かりたい。」
「・・・・ワタシ・・・・壊れちゃったのかなぁ。」
まだ、壊れるわけにはいかない。
想う程に溢れる気持ち。隠さなきゃ。隠し通して・・・・偽って。
生温く湿った何かが、頬を伝う。
ぼんやりと浮かぶ丸い月。伸ばした手は、虚空を掴む。
ーやっぱり、ワタシに心は掴めない。
「ごめんね・・・・ヴィーちゃん。」
好きになって・・・・ごめんなさい。
消えてしまうそれまでに、ワタシはちゃんと嫌われる事ができるだろうか。
せめて彼女が、悲しまないよう。
あの方に知られずに・・・・ワタシは、ソレができるだろうか。
頬を伝うソレを隠すように、月は雲の中へと姿を消し・・・・辺りは暗闇に包まれた。
すべてを呑み込む暗い闇。
ワタシは、今は、それが怖い。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
投げっぱなしの石を拾っていきます。
どうぞ宜しくお願い致します。
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