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第3章
クレイ・ドール
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「二体目確保……ですわね」
こぽこぽと怪しげな音が、静まりかえった部屋に響く。ユニコーンの角。マンドラゴラの根。暗闇の中でも、ぼんやりと仄暗く光る不気味な液体。魔獣達の標本や、風もないのに揺れ動く魔草、カチカチと音を立てる何かの骨。
校舎の端にある魔科学室で、私は二体目のクレイドールを手に眉をしかめる。
ああ、此処までくるのに色々とありましたわ。……気配遮断や防音魔法。水魔法を応用しての幻影魔法や霧魔法。それを懇切丁寧&強制的にレクチャーしてくれたグレイ様。
合宿の一環だから……と私に様々な魔法談義をして下さった事は感謝していますわ。でも……見廻りの先生相手に、ぶっつけ本番でやる事ではありませんわよ! どーかしてますわ!「ヴィクトリアが失敗したら、僕も巻き添えだね。こんな夜遅くに二人きりで見つかっちゃったら……とんだスキャンダルだなぁ……その時は、僕の婚約者になるしかなくなるから、覚悟してね」なんて笑顔で言われたら、死ぬ気で取り組むしかないじゃないですの!学園内外に信者を抱える悪魔と婚約だなんて……冗談じゃありませんわ!
やっとのおもいで手にしたクレイドール。これの為に私は、心理的恐怖と物理的苦悩を味わったのね。これの為に私は……
「そんなに凝視して、気に入ったならヴィクトリアにプレゼントするよ?」
「不要ですわ」
ルビアナが作ったというこの人形。土で作られたというミニチュアサイズのクレイドール。ソレを手にし、震える私にグレイ様が声をかけてくる。すかさず返すと、グレイ様は小首を傾げ呟いた。
「そう? 可愛いと思うんだけどな」
ええ。可愛いですわ。貴族っぽい服に愛らしい顔立ちの男の子の人形。長い睫毛に整った顔立ち……そして、少し歪んだ口元。
「クレイドールならぬ……グレイドール……グレイ様がモデルですのね……」
ミニチュアサイズのグレイ様人形。悪魔ならぬ小悪魔なそれを手に、深いため息を溢す。グレイ様はニヤリと笑いもう一体の人形を懐から取り出した。
「因みにこれは、ハンスがモデルだったんだよ。気付いてた?」
音楽室で、グレイ様が手にした人形。私に見せてくれなかったソレは、ハンスでしたの!? ええ?
「ちょっと、ヴィクトリア。暗がりの中、密室で密着されるとドキドキしちゃうよ」
思わず詰め寄った私。その勢いに、グレイ様がよろける。くっ! そんな事どうでもいいですわ! その人形を寄越しなさい!
「グレイ様! 欲しいですわ! 今すぐ私にソレを! お願い! なんでもするから!」
「ちょっと、ヴィクトリア……興奮しないで。……落ち着いて」
ハンスハンスと鼻息荒く詰め寄る私は、いきなりグレイ様に口を抑えられる。
(むぐぐっ! なっ! 何をしますの!? )
「しっ……静かに……」
「……聴こえる」
(はい? ……何を突然……)
ハンス人形を懐にしまったグレイ様。私の口元を抑えたまま、自信の唇に指をあて囁きましたわ。
ー……クスクスクス。
(……)
ー……ふふふ。クスクス。
(……)
ー……あはは。うふふふふ。
「いやですわ、グレイ様。何が可笑しいのです? こんな時に……」
「……僕はうふふふなんて笑わないよ」
こぽこぽという音とともに、鈴の音のような愛らしい声がする。グレイ様の服を掴む手が、べっとりと汗ばんでくる。ぞわぞわと背中に寒気が走る。嫌ですわ。嫌。
「あ……悪魔が傍にいれば、幽霊も近寄らないと思ってましたのに……」
「……えっと。その悪魔ってのは、もしかしなくても僕の事かな? ヴィクトリア」
震える私の肩に、手を添え悪魔がため息を吐く。
「グ……グレイ様。かっ……帰りましょう。グレイドールも確保しましたし、此処に用はありませんわ。私は、何も聞いていませんし、何も見ていない」
抜けそうになる腰を奮いたたせ、声から遠ざかるように出口へと向かう。
「ヴィクトリア。迂闊に歩かない方がいい。何が置いてあるかわからな……」
「え? ひぇっ!?」
グレイ様の忠告に振り向くも、その姿が視界から消える。
「嘘……」
私が踏み出したそこには、ある筈の床が消えていて。かわりぽっかりと黒い穴が……。
「ヴィクトリアーーー!」
グレイ様へと伸ばした手は、空を掴み。あった筈の穴は閉じていく。ー暗闇の中、鈴の音と共に……私の身体だけが落ちていった。
こぽこぽと怪しげな音が、静まりかえった部屋に響く。ユニコーンの角。マンドラゴラの根。暗闇の中でも、ぼんやりと仄暗く光る不気味な液体。魔獣達の標本や、風もないのに揺れ動く魔草、カチカチと音を立てる何かの骨。
校舎の端にある魔科学室で、私は二体目のクレイドールを手に眉をしかめる。
ああ、此処までくるのに色々とありましたわ。……気配遮断や防音魔法。水魔法を応用しての幻影魔法や霧魔法。それを懇切丁寧&強制的にレクチャーしてくれたグレイ様。
合宿の一環だから……と私に様々な魔法談義をして下さった事は感謝していますわ。でも……見廻りの先生相手に、ぶっつけ本番でやる事ではありませんわよ! どーかしてますわ!「ヴィクトリアが失敗したら、僕も巻き添えだね。こんな夜遅くに二人きりで見つかっちゃったら……とんだスキャンダルだなぁ……その時は、僕の婚約者になるしかなくなるから、覚悟してね」なんて笑顔で言われたら、死ぬ気で取り組むしかないじゃないですの!学園内外に信者を抱える悪魔と婚約だなんて……冗談じゃありませんわ!
やっとのおもいで手にしたクレイドール。これの為に私は、心理的恐怖と物理的苦悩を味わったのね。これの為に私は……
「そんなに凝視して、気に入ったならヴィクトリアにプレゼントするよ?」
「不要ですわ」
ルビアナが作ったというこの人形。土で作られたというミニチュアサイズのクレイドール。ソレを手にし、震える私にグレイ様が声をかけてくる。すかさず返すと、グレイ様は小首を傾げ呟いた。
「そう? 可愛いと思うんだけどな」
ええ。可愛いですわ。貴族っぽい服に愛らしい顔立ちの男の子の人形。長い睫毛に整った顔立ち……そして、少し歪んだ口元。
「クレイドールならぬ……グレイドール……グレイ様がモデルですのね……」
ミニチュアサイズのグレイ様人形。悪魔ならぬ小悪魔なそれを手に、深いため息を溢す。グレイ様はニヤリと笑いもう一体の人形を懐から取り出した。
「因みにこれは、ハンスがモデルだったんだよ。気付いてた?」
音楽室で、グレイ様が手にした人形。私に見せてくれなかったソレは、ハンスでしたの!? ええ?
「ちょっと、ヴィクトリア。暗がりの中、密室で密着されるとドキドキしちゃうよ」
思わず詰め寄った私。その勢いに、グレイ様がよろける。くっ! そんな事どうでもいいですわ! その人形を寄越しなさい!
「グレイ様! 欲しいですわ! 今すぐ私にソレを! お願い! なんでもするから!」
「ちょっと、ヴィクトリア……興奮しないで。……落ち着いて」
ハンスハンスと鼻息荒く詰め寄る私は、いきなりグレイ様に口を抑えられる。
(むぐぐっ! なっ! 何をしますの!? )
「しっ……静かに……」
「……聴こえる」
(はい? ……何を突然……)
ハンス人形を懐にしまったグレイ様。私の口元を抑えたまま、自信の唇に指をあて囁きましたわ。
ー……クスクスクス。
(……)
ー……ふふふ。クスクス。
(……)
ー……あはは。うふふふふ。
「いやですわ、グレイ様。何が可笑しいのです? こんな時に……」
「……僕はうふふふなんて笑わないよ」
こぽこぽという音とともに、鈴の音のような愛らしい声がする。グレイ様の服を掴む手が、べっとりと汗ばんでくる。ぞわぞわと背中に寒気が走る。嫌ですわ。嫌。
「あ……悪魔が傍にいれば、幽霊も近寄らないと思ってましたのに……」
「……えっと。その悪魔ってのは、もしかしなくても僕の事かな? ヴィクトリア」
震える私の肩に、手を添え悪魔がため息を吐く。
「グ……グレイ様。かっ……帰りましょう。グレイドールも確保しましたし、此処に用はありませんわ。私は、何も聞いていませんし、何も見ていない」
抜けそうになる腰を奮いたたせ、声から遠ざかるように出口へと向かう。
「ヴィクトリア。迂闊に歩かない方がいい。何が置いてあるかわからな……」
「え? ひぇっ!?」
グレイ様の忠告に振り向くも、その姿が視界から消える。
「嘘……」
私が踏み出したそこには、ある筈の床が消えていて。かわりぽっかりと黒い穴が……。
「ヴィクトリアーーー!」
グレイ様へと伸ばした手は、空を掴み。あった筈の穴は閉じていく。ー暗闇の中、鈴の音と共に……私の身体だけが落ちていった。
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