転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華

文字の大きさ
110 / 113
第3章

クレイ・ドール

しおりを挟む
「二体目確保……ですわね」

 こぽこぽと怪しげな音が、静まりかえった部屋に響く。ユニコーンの角。マンドラゴラの根。暗闇の中でも、ぼんやりと仄暗く光る不気味な液体。魔獣達の標本や、風もないのに揺れ動く魔草、カチカチと音を立てる何かの骨。

 校舎の端にある魔科学室で、私は二体目のクレイドールを手に眉をしかめる。

 ああ、此処までくるのに色々とありましたわ。……気配遮断や防音魔法。水魔法を応用しての幻影魔法や霧魔法。それを懇切丁寧&強制的にレクチャーしてくれたグレイ様。

 合宿の一環だから……と私に様々な魔法談義をして下さった事は感謝していますわ。でも……見廻りの先生相手に、ぶっつけ本番でやる事ではありませんわよ! どーかしてますわ!「ヴィクトリアが失敗したら、僕も巻き添えだね。こんな夜遅くに二人きりで見つかっちゃったら……とんだスキャンダルだなぁ……その時は、僕の婚約者になるしかなくなるから、覚悟してね」なんて笑顔で言われたら、死ぬ気で取り組むしかないじゃないですの!学園内外に信者を抱える悪魔と婚約だなんて……冗談じゃありませんわ!

 やっとのおもいで手にしたクレイドール。これの為に私は、心理的恐怖と物理的苦悩を味わったのね。これの為に私は……

「そんなに凝視して、気に入ったならヴィクトリアにプレゼントするよ?」
「不要ですわ」

 ルビアナが作ったというこの人形。土で作られたというミニチュアサイズのクレイドール。ソレを手にし、震える私にグレイ様が声をかけてくる。すかさず返すと、グレイ様は小首を傾げ呟いた。

「そう? 可愛いと思うんだけどな」

 ええ。可愛いですわ。貴族っぽい服に愛らしい顔立ちの男の子の人形。長い睫毛に整った顔立ち……そして、少し歪んだ口元。

「クレイドールならぬ……グレイドール……グレイ様がモデルですのね……」

 ミニチュアサイズのグレイ様人形。悪魔ならぬ小悪魔なそれを手に、深いため息を溢す。グレイ様はニヤリと笑いもう一体の人形を懐から取り出した。

「因みにこれは、ハンスがモデルだったんだよ。気付いてた?」

 音楽室で、グレイ様が手にした人形。私に見せてくれなかったソレは、ハンスでしたの!? ええ? 

「ちょっと、ヴィクトリア。暗がりの中、密室で密着されるとドキドキしちゃうよ」

 思わず詰め寄った私。その勢いに、グレイ様がよろける。くっ! そんな事どうでもいいですわ! その人形を寄越しなさい! 

「グレイ様! 欲しいですわ! 今すぐ私にソレを! お願い! なんでもするから!」
「ちょっと、ヴィクトリア……興奮しないで。……落ち着いて」


 ハンスハンスと鼻息荒く詰め寄る私は、いきなりグレイ様に口を抑えられる。

(むぐぐっ! なっ! 何をしますの!? )

「しっ……静かに……」

「……聴こえる」

(はい? ……何を突然……)

 ハンス人形を懐にしまったグレイ様。私の口元を抑えたまま、自信の唇に指をあて囁きましたわ。

ー……クスクスクス。

(……)

ー……ふふふ。クスクス。

(……)

ー……あはは。うふふふふ。

「いやですわ、グレイ様。何が可笑しいのです? こんな時に……」

「……僕はうふふふなんて笑わないよ」

 こぽこぽという音とともに、鈴の音のような愛らしい声がする。グレイ様の服を掴む手が、べっとりと汗ばんでくる。ぞわぞわと背中に寒気が走る。嫌ですわ。嫌。

「あ……悪魔が傍にいれば、幽霊も近寄らないと思ってましたのに……」

「……えっと。その悪魔ってのは、もしかしなくても僕の事かな? ヴィクトリア」

 震える私の肩に、手を添え悪魔がため息を吐く。

「グ……グレイ様。かっ……帰りましょう。グレイドールも確保しましたし、此処に用はありませんわ。私は、何も聞いていませんし、何も見ていない」

 抜けそうになる腰を奮いたたせ、声から遠ざかるように出口へと向かう。

「ヴィクトリア。迂闊に歩かない方がいい。何が置いてあるかわからな……」

「え? ひぇっ!?」

 グレイ様の忠告に振り向くも、その姿が視界から消える。

「嘘……」

 私が踏み出したそこには、ある筈の床が消えていて。かわりぽっかりと黒い穴が……。


「ヴィクトリアーーー!」

 グレイ様へと伸ばした手は、空を掴み。あった筈の穴は閉じていく。ー暗闇の中、鈴の音と共に……私の身体だけが落ちていった。
しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい

椰子ふみの
恋愛
 ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。  ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!  そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。  ゲームの強制力?  何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

転生ヒロインは悪役令嬢(♂)を攻略したい!!

弥生 真由
恋愛
 何事にも全力投球!猪突猛進であだ名は“うり坊”の女子高生、交通事故で死んだと思ったら、ドはまりしていた乙女ゲームのヒロインになっちゃった! せっかく購入から二日で全クリしちゃうくらい大好きな乙女ゲームの世界に来たんだから、ゲーム内で唯一攻略出来なかった悪役令嬢の親友を目指します!!  ……しかしなんと言うことでしょう、彼女が攻略したがっている悪役令嬢は本当は男だったのです! ※と、言うわけで百合じゃなくNLの完全コメディです!ご容赦ください^^;

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!? このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!! 前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡ 「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」 ※※※ 現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。 今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました! ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...