狐メイドは 絆されない

一花八華

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狐メイドは、絆されない

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「…たばかったな…」

その日、とある魔術師の御抱えメイドは わなわなと怒りに震えていた。封印された記憶が戻り、本来の自分の姿を思い出したのである。

ああ、儂は決してこんな ちんちくりんな姿では なかった。傾国の美女と畏れられ、数多くの世の支配者を蠱惑し、その美貌で統べてを思うがままに生きた 悪女。白尾の狐である儂が、なぜこんな童子の姿で、あんな陰険ゲス野郎の下仕えに甘んじているというのだ。

摩道具で溢れる物置を 片付け中 手をはたととめ、埃をかぶった鏡面を見やった。体の内に怒りの炎が燃え盛り、頭に血がのぼるのを感じる。

鏡に映る少女。形の良いややつり上がったアーモンドアイは、燃え盛る紅蓮の色を湛えながら、こちらを睨み付けている。その出で立ちは、白銀の髪をツインテールに結い上げ、頭にはヘッドドレス、服装は 紺の質素なワンピースと白いエプロン。ちょこんと出た獣耳とふさふさ揺れる白い尻尾が特長的なメイドさんだ。思い出された記憶の中にある、豊満な胸を見やると 悲しいかな…ストンと足元まで視界良好な断崖絶壁。むしろぽこんと膨らむ小腹が憎々しい。


ナンゾコレ。儂の美貌何処いった。


「セイ!!お主、よくも儂をたばかってくれたなぁ!」

手にしていたはたきをへし折ると、魔術師の塔最奥。断罪の間に続く扉を蹴破る。白銀の髪を逆立て、ふさふさなしっぽは、怒りで3倍に膨れあがっていた。

「この、陰険インケン陰陽師オンミョウジ!!!お主、儂に…儂になんて事をしてくれたのじゃあぁああ!」

フーフーと鼻息を荒げ、怒声をあげる。その声に 何やら研究に勤しんでいたらしい男が、ゆっくりと振り返った。

「ああ。たまもさん。その様子じゃ、思い出しちゃったんですね。」

闇を溶かしたような黒髪に 少し混じる白。左目は、黒曜石のように黒く、モノクルの奥にある右目は金の瞳。その身を黒いローブで纏い、青白い肌を際立たせる。椅子から立ち上がると ゆらりとたまもを見下ろす、その姿はどこか 浮世離れしている。

薄暗い地下室の中で、仄暗く揺れる彼は ウェーブがかった自身の髪を弄ると まいったなー。と掴み所のない笑顔を少女に向ける。

「そっか。そっか。思い出しちゃいましたかー。本当は、信頼関係と愛を育みながら、既成事実が出来上がった後に 記憶を取り戻してもらう計画だったのに。」

にこやかに口にする言葉に、とんでもない爆弾が搭載されている。

「は?既成事実とはなんぞ」
「僕と貴女のこどもができて、情も沸いて、僕から離れられなくなったくらいで、記憶が戻ればいいなーと思ってたんですけど。」

「しくじりました。」

見目20代前半っといった所の男性が、9歳(ただし、今世の年齢)の少女に吐く言葉ではない。犯罪だ。

「おぬしっ。その為に儂を囲ったのか。」

信じられないモノを見る目で晴明…魔術師セイを見つめる。

「保護しただけですよ。別に監禁したわけじゃなし、傷ついた貴女を手元に置いただけです。それに合意の元 使役契約しただけで、メイド仕事は 貴女が望んで始めた事じゃないですか。僕は、何も言ってないしヤってない。」
「まぁ、あわよくば前述の通りに事が運べばなーっとは 思ってましたけど。」
「思っておったのだな!手込めにする気満々だったのだな!この二年間の儂のお主への情愛を返せ!むしろ契約を今すぐ破棄しろ!絶対に!!」
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