狐メイドは 絆されない

一花八華

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番外編~お正月~

ダメ人間製造器

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ダメ人間製造器

蠱惑的な魅力と魔力で、人を堕落の道へと引きずり込む、そら恐ろしい魔道具。

セイの作成した道具の中でも、その性能は、トップクラスを誇る。

「あー。俺、もー何もヤル気おきないわー。一生ここで、こーやって過ごすー。」

ダメ人間の見本が、更にダメさを助長し、早速魅力に魅了されておる。

「アル。お主がヤル気ないのは、いつもの事でわないか…。」

ぽへーっと四角い箱に足を突っ込みながら、一応アルへ、突っ込みを入れておく。
うむ。コターツ最高。ほんと、何もヤル気がおきぬ。

「貴方達…少しは、コターツから出て動きなさい。」

呆れた様子で、儂とアルを見るセイ。

「いや…でたくない。」
「儂もじゃ…。」
「セイが悪い。」
「そうじゃセイが悪いのじゃ。」

「二人揃って、なんの根拠もなく私を非難するとは…いい覚悟をしてますね。」

眉尻をあげながら、セイが腕を組み儂等を見下ろす。おおっ怖いっ。

「根拠ならある!」
「そっ…そうじゃそうじゃ!」
「…ほぉ。」

コターツに入っておっても、背筋に寒気を感じるぞ!?セイの精神攻撃は、ほんに恐ろしい!何故にアルは、平気なのじゃ?

「人間慣れると、なんでも平気になるんだぜ?たまちゃん?」

うむ。常日頃、この視線に晒されておるからか。流石アルじゃ。そこに痺れも、憧れもせんがのぉ。

「とーにーかーく、ここから今すぐ這い出て、少しは体を動かしなさい!このコターツ虫ども!」
「ひゃうっ!」

セイの怒号に、思わず目尻に涙がたまるのじゃ。ふわわわわ。叱られるのは、久方ぶりじゃ。

「おいおいセイ~。たまちゃんが怯えちゃってるじゃないか~。可哀想に。」

そういって、アルが儂を引き寄せ、頭を撫で回す。

「くっ。ついたまもさんまで叱ってしまいました…。失態です。」

唇を噛みながら、こちらを睨み付けてくるセイ…やはりまだ怖いのじゃ。思わず、アルの服を掴み胸元に顔をうずめ、セイの視線から逃げてしまう。

「羨ましいかー?セイ。」

にまにまと愉しそうに笑うアル。良いのか?そのようにセイを挑発して?益々ブリザードが吹き荒れておるぞ?儂、怖くて仕方ないのじゃが…

巻き添えは、ごめんじゃぞ?

「ーあとで…覚えておきなさい。…アル。」
「ーっひ!?」

ほらみろ。底冷えするような冷たい声で、死の宣告をされたではないか。

「調子に乗ると、録な事がないのだぞ?」

小声でアルに忠告してやる。まぁ、すでに遅かったようじゃが…。

「たまちゃん。」
「なんじゃ?」
「守ってくれる?」

…9歳幼女に助けを求めるとは…アル…お主という男は…

「たまちゃん、俺の主でしょ?」
「…いやじゃ。 」

巻き添え怖いもの。

「骨は拾ってやるから、それで満足せい。」
「そんな~。」

はー。儂は何故、余計な事ばかり増やす、情けない男を下僕にしてしもうたのじゃろ。

はあぁ…とため息が零れるわ。    

「たまもさんも、アルにあまり構うと、ダメ人間がうつりますよ?」
「それは、困るのじゃ!」

儂は、立派な悪女になりたいのであって、アルのようなダメ人間を、目指しておるのではない!

「アルには、なりとぉない!」

慌ててコターツから抜けでて、セイのお手伝いに走る。

「ちょっ…待ってたまちゃん。地味に傷付く。」

それでもコターツから出ようとしないアル。

「たまもさんが、離れましたね…。」

ふふふと目を細めるセイ。アルに向けてかざした手元には、何やらバチバチと稲妻が渦巻いておる。

「え"!?何ソレ??」
「新しい魔法ですよ。」

「ちょうど、効果を試して見たかったんですよね。」

二人の口元が、はははと笑っておる。

おおっ。気が合うようで何よりじゃ。



儂は、そそくさとセイの背中に身を隠す。


仕置き玉ライジングボール。」
「ーふぎゃぁあぁあああぁぁ!!!!」





その日、コターツのせいで、セイの雷(物理)が落ち、アルは少し焼け焦げたのじゃった。


それでも、コターツからでなかったアルは、根性があると…密かに思う。




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