女A(モブ)として転生したら、隠れキャラルートが開いてしまいました

瀬川秘奈

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【16話】もしやあなたも地面大好き同好会?

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 一難去ってまた一難とは、まぁ字面から察せられるとおり「困難が終わった後に更に困難が来る」、悪い事って続くよねーって意味である。

 果たして私の困難が本当に難なのか、それともただの気にし過ぎかは分からないけれど、一つ言える事は「二度あることは三度ある」だ。

 さっきからことわざばかり言っているけれど、だって仕方無いじゃんね?

 昔昔の偉い人かどうかは知らんけれども、まぁとにかく昔の人は言葉を例えるのが上手だから、正にその通りと言わざるを得ない状況に陥ると、対して頭も良くない現代人はあやかるしかなくなるのである。

 二回ある事は三回目もあるんですよーとか、いやまぁこの状況は二回目だから正確には一度あることは二度あるなんだけれども······。

 もう何言ってるんだろう、分からなくなってきた······。そもそも何一つ分かってた試しが無いのだけれども。

 目の前の"それ"を見て、私は心の底から見なかった事にしたかった。

 人が、落ちておる。あの、テンション的には某有名アニメ映画の「小鬼がおる」的なノリで宜しくどーぞ。

 或いは英語の教科書みたいに言ってみようか。

 Q『これは何ですか?』
 A『はい、これはどう見ても人です』

 Q『それではこの人が落ちている所はどこですか?』
 A『はい、ここは廊下です。この人は廊下に落ちています』

 Q『何故、この人は廊下に落ちているのですか?』
 A『そんなの私が聞きたいです······』

 妙に自己評価低めな黒い王子様と言い、何なんだろうか?この世界の落し物ランキングには人間が君臨するのだろうか?

 この煌びやかな王宮の廊下の床だって、広くカテゴライズしてしまえば地面である。

 つまりあの冬虫夏草······間違えた。黒い王子様ことツェル同様に、もしやあなたも地面大好き同好会?なんて、フードを目深に被っていたその人の顔を見ようとしたのがいけなかった。

「レ······」

 嗚呼、肖像画すら見た事が無い、最早空気な国王陛下。お会いした暁にはこう伝えたいです。

 「貴方の御子息達、そっくりですよ」って。



 ◆



 数時間前。

 異世界転生じゃなくて、洗濯屋さんに転職しただけなのでわ?とそろそろ錯覚しそうになるように、毎日のルーティン=洗濯籠を運ぶミッションを私は遂行していた。

 ちょっと前までやれ魔法式が何だとか、ステータスがどうたらこうたらとか、おやおやおやぁ?異世界転生やっと本気出して来たんじゃなぁい?とか、別に思ってはいないけれど、でも何か進展しそうだったのにさ。

 蓋を開けたらこうですよ、所詮モブはモブ。 

 ツェルを止めて、名前を元に戻すまでレイの封印の邪魔をする。

 そんな大それた事、たかがモブがとんとん拍子で出来る訳が無いのが現実なのだ。

 故にあれから何があったかを説明すれば、この世に間違って舞い降りちゃった天使疑惑のエリーが、わざわざツェルと話せるように誘導してくれたのに、なんと私は何も言えないままで終わってしまったのである。

 当たり前と言えば当たり前なのだけれども。

 だって『貴方はこれからここに居るエリーを殺されて、それをきっかけにレイを封印するのだけれど、私の名前がまだ解除されていないので、ちょっと待ってくれませんかね?』なんて事を、伝えた瞬間に変な人に成り下がるのだ。

 一歩間違えたらやばい人認定すらされる。いやもう日頃の行いで、ツェルからやばい人認定されていそうな気もするけれども······。

 何も言わないと言うコマンドを選ぶ他なかった情けない私は、今日も今日とて洗濯屋さんに勤めていた。

「ナイ!ここに居たのね!」
「エリー?」

 そんな感じで数日前の出来事を振り返っていれば、向こう側から優雅に歩いて来るエリーが私を呼んできたので、現実逃避は一旦終了します。

 実はあの日ほんの少しだけ変化した事があって、私はエリーとちょいちょい話をするようになっていたのだ。

 つまり公爵令嬢と気軽に話すモブ使用人にランクアップしたので、傍から見れば無礼者である。あれちょっと待って、無理ゲー度も上がってない?そんな事ない?

「今日もお仕事かしら、偉いわね」

 洗濯物籠を抱えて歩く私の隣を、エリーは優しく微笑みながら歩く。

 話すと言っても正確にはあんまり私から話しかける事はなくて、専らエリーが私を見付け出しては声をかけてくれるので、そこまで私は無礼者ルートを走ってはいないと思う。

 言わば私は、エリーの高レベルコミュニケーション能力にあやかっているだけなのだ。身分差が!とかなんかめんどくさい感じの抵抗が一切無いのも多分それが理由。

 けれども一点だけ、抵抗と言うか不満と言うか、そんなタイプのプチ問題は生じていちゃったりしていた。

 その問題とは、毎回エリーの後ろに居る人の空気が地味に怖い事だった。

 理由はよく分からないのだけれど、にこやかに笑うエリーの後ろで、その人は物凄い目で私を睨み付けてきて、更には勿論、今も例外なくエリーの後ろで殺し屋みたいな目線を浴びせて来ていたりする。ついでに言うのならば、私は当然の様に怯えている!怖いもん。

 この人が恐らくあの日ツェルとエリーがちらっと言っていた、エリーの執事のミトラーさん?なのだと思う。今のところ推測でしかないけれど······。

 なんせこの人、服装が滅茶苦茶執事っぽいのだ。

 これぞ執事です!って格好をしている人が執事じゃないのならば、いったい誰が執事なんだ!と言うくらいには執事。

 尚、ちっとも見覚えがないので、恐らくランクの高いモブではないのだろうかと踏んでいる。

 この人の出現で、いよいよ脇キャラとランクの高いモブの違いが分からなくなってきた。

 エリーが1人で居たあの時がそもそもの例外で、ミトラーさんは基本的にエリーの後ろに常に控えている。

 専属執事とかそんな感じのやつだろう。侍女じゃないんだとか、そう言う事を思うと、ほら睨まれた!怖い······。

 そもそも話した事も無ければ声すら聞いた事も無い上に、この人がモブなのかどうなのかも分からないのに何故敵対されているのだ私は。

「(まさかここに来て底辺モブVS上位モブが始まったりしちゃう?)」

 負け戦も良いところだ。勝てる見込みが何一つ無いもん。

「エリー様、そろそろ」
「あらもう?」
「はい」
「ごめんなさいね、ナイ。今日はあまり時間が取れなさそうなの。次またゆっくりお話しましょうね」

 私としては初めてのミトラーさんの第一声はエリーを急かす内容だったのだが、「あ、やっぱCv.持ちなんですね······」とかよりも、終始ムスッとしていたくせに、エリーに話しかけた途端に気持ち柔らかくなったその表情に度肝を抜かされた。

 なんか、あの、なんて言うのだろう。こう、可愛い物見てる人の目、的な。もしかしてもしかしちゃう感情エリーに抱いていらっしゃったりするぅ?的な······。これ以上の詮索は、物凄く怖い思いしそうなので止めよう。

 と、ここまでが数時間前の出来事で、エリーと別れてからしばらく、私は洗濯物がいっぱいに詰まった籠を何回も運ぶを繰り返していた。

 そして本日何往復したかも不明な廊下にて、立ち尽くさざるを得なくなっていたのである。







 廊下の丁度曲がり角の所でうつ伏せでお昼寝する人なんか居る?居ないよね。

 頭まですっぽりフードを被っていて、男か女かも分からなくて、明らかに倒れているとしか思えない体勢過ぎて、生存確認の為に近寄ったついでにフードを軽く取ってみた私は別に間違ってはいないと思うのだ。

 例え、とてつもなく後悔をしたとしても。

 「(なんでレイが廊下に落ちてるのっっ?!)」

 弟は庭の落し物担当常習犯になっていて、対するお兄ちゃんは現在、蹲ったまま廊下に落ちている。

「(そんな所で双子要素出さなくても良いと思うんだ······)」

 経験上レイと関わるとろくな事が無い。

 これはこの世界に居るのかどうかも怪しい神様がくれた名前変更チャンスなのかもしれないけれど、信仰心なんかモブ転生した日に無くなったので言わせてもらおう。

「今じゃないよーっっ!!」

 何の手札も持っていないのに、どうすりゃ良いんだ!せめて私が、パン屋の店員に戻る方法を見付けてからお願いしたかったよ。今は棒に振るうしかないのに、チャンスくれるの早過ぎるよ神様。

「煩いなぁ······」
「あ、ごめん」

 私が神様に文句を言っているのが相当やかましかったのだろう、眉間に皺を寄せたレイによる抗議の声が足元から上がった。

「誰ぇ······メイドちゃん?」
「"メイドちゃん"???」

 私を視界に入れたレイは、まるで私の呼び名でもあるかのように自然に、さらっと「メイドちゃん」と呼んできたけれど、いったいこのお城にメイドちゃんと呼ばれて振り返る人が何人居ると思っているのだ、この王子様は。

 レイは廊下に寝っ転がったまま、目を閉じたり開いたりを何度もしている。
 心無しか息も荒くて、どう見ても具合が悪そうな人だ。

 初めて見るレイの様子に、素朴な疑問が湧いてくる。

「え、なんでそんなにダメージ受けてるの?」
「魔力切れ~······」

 素直さにだけは定評がある(と思い込んでいる)私が、つい口からポロッと零してしまった失態とも言う発言に対して、少なくとも二名の人物から使用人嫌いの太鼓判を押されている筈のレイは、あっさり答えてくれた。

 私は魔法なんて知らないから、魔力切れって言われても言葉の通りに魔力が切れたって事なのだと思うしかないのだけれど、とんでもない魔力持ちな人が何をやらかしたら魔力切れになるのだろうか。何か世界を支配する系の魔法でも使ったの?

「(いやいやいやいやラスボスじゃあるまいしー)」

 少し考えてから、自分の意見に対してすぐに訂正に入る。この人ラスボスでしたわ、と。

「世界征服でもしようとした?」
「······どうして?」
「貴方の魔力が切れる理由が分からないから」
「あーそれくらいじゃ魔力切れないよ、多分」
「こっわ」

 くどいけれど素直さに定評がある(思うだけはタダだから!)私が、またしてもうっかりポロッと言ってしまった疑問を、レイはやっぱり怒らないで普通に返してくれて、だからかちょっと調子が狂いそうになったけれども、直後に耳に入ってきた答えがそれを回避させてくれたので事なきを得た。

 この人世界征服の事を「それ"くらい"」と言ってのけました······。目の前の地面大好き同好会怖い!こんなのモブなんか一捻りじゃんか。

 そもそもいつまで廊下で寝転んでいるつもりなのだろう?一応王子様だよね、この人も。
 言うてもう1人の職業王子様も地面大好き同好会庭園部門所属だから、この国の王子って称号付いている人達は地面に寝ないといられない質なのだろうか?

 その一応王子様を、見下ろしている私が言う事でも無いとは思うのですけれどね。

「ねぇメイドちゃん、手貸して」
「なんで?」
「自力じゃ起き上がれないんだ」
「成程ぉ」

 レイはどうやら好きで地面大好き同好会では無かったようで、うるうるした目で私を見上げながら手を伸ばしてきた。甘えている目だったら無視して逃げたのだけれども、相当しんどい時になる涙目で、下手したら熱もありそうな潤みっぷりだった。これは無視出来ないよ······。

「手ぇ~······」
「はいはい」

 何をしたらあのレイがここまでなるのか甚だ疑問ではあるのだけれども、流石の流石に火を見るよりも明らかに体調が悪そうな人を、見捨てられる非情さは持ち合わせていなかったので、私は渋々と言った具合に図々しく催促してくるレイへ手を差し出した。

 その手を掴んだレイは、もう片方の手で自分の体重を支える様にしながら立ったから、そこまで重さを感じなかったのが意外だった。

 もっと私がよろけるレベルで引っ張ってくるだろうと想定していたから、踏ん張っていた足が無駄になる。

「(まさか気を使ってくれた?)」

 ······そんな訳ないか、だってレイだもん。人並みの気なんかこの人に使える訳が無いもん。

「なんか今失礼な事考えたでしょ?」
「いいえ、全く?!」
「嘘つき~」

 見えないメッセージウィンドウ的な何かがまたバグを起こしたのか、レイに思考がバレて慌てて取り繕うも、なんだか意味が無い気がする。

 いつもどうしてか、レイに見られると見透かされている様な気がして私は躊躇してしまうのだ。

 それがこの人に近寄りたくない理由の一つでもあるし、後は単純にパーソナルスペースがガバガバだからって言うのもある。

 ツェルとエリーが言っていた、使用人嫌いの第1王子は何処に居るのだろう。

 人に触られるのを極端に嫌ってもいる人は、現在、嫌いな使用人の手を握ってもいる。

「ご主人様に嘘つく悪いメイドちゃん」
「うっ······」

 ぼぉーっと思考の海に落ちていたら、前触れも無く何も考えられなくされた。

 今、この男は明らかに狙って言った。

 只今の自分の状態、涙目(※具合悪いから)、荒い息(※具合悪いから)、ちょっと赤い頬(※具合悪いから)、そして乙女ゲームクオリティの顔面。

 その全てを正確に理解して、惜しげも無く利用して色気攻撃を仕掛けてきやがった。初期装備すら持っていないモブに、太刀打ちなんか出来る訳がない。

 なんでレイがこんな攻撃をしてくるのかさっぱり分からない私は、ついクリーンヒット時に呻き声を出しちゃったけれど、目線を逸らす事で何とか耐えた。

 溜まった顔の熱を逃がしたくて、掴まれていない方の手でパタパタ扇いでみたけれど、それを見たレイはちょこっと満足そうな表情を浮かべる。

 このしてやったり顔が物凄く腹が立ったけれど、如何せん顔が芸術品過ぎて到底殴れないのだ。悔しい!あと私の脳内美術館に、何回作品を展示すれば気が済むのだろうか。

 動機不明な先制色気攻撃をぶちかましてきやがったレイは、それから壁に寄りかかって何故か私の手をじぃっと凝視していた。
 未だに恐らく顔が赤いモブは、置いてけぼりを喰らっていると言うのに。

 毎日洗濯をしているから当然ささくれとかあるし、クリームなんて物も持っていないから私の手は荒れている。こう、あんまりまじまじと見られるとシンプルに居心地が悪くて、ちょっとソワソワし始めてきた。

 ましてやなんか、なんか、撫でるように親指を動かしてきて······無理ギブアップ!耐えられない!自分の顔面を考えろこの馬鹿がっっ!!

「離せー!!」
「あははは」
「なんで笑うんだ!!」
「いや、ごめんごめん」
「謝るなら離してよぅ!!」
「やだ~」

 しんどくて涙目になっている人が何を思ってやっているのか、謎過ぎる行動のせいで、結果、私まで羞恥で涙目になる事態に巻き込まれた。
 一介のモブは、急な乙女ゲームみたいな展開には慣れていないのだ。なんせ背景担当が通常運転なのだから!

 そもそも唐突に、乙女ゲームみたいな事をする意味が分からない。

「(攻略対象じゃないんだからさっっ!!!!)」

 ······攻略対象でした、この人。しかも初回で好感度パラメータ25にしやがったぶっ飛び過ぎてる人でした、この人。

 と言う事はイベントでしょうか?これ。好感度25%で発生するモブの手撫で回すイベント???誰得なんじゃいっっ?!

「おかしいな~」
「はーなーしーてー!」
「やだ~あははは」

 渾身の力でブンブン振り回してどうにか離してもらおうとしているのに、がっちり握られ過ぎてちっとも離れる兆しが見えない。

 今は運良く人が居ないとはいえ、ここは王宮の廊下だ。こんな所を、社畜のヴァルデに見られでもしてみろ。消されちゃうぞ!······私がね。

 第1王子ともあろうお方が、頑なに使用人の手を離さないとか何なのだ。

 しかも数分前まで強制地面大好き同好会廊下部門所属で、自力で起き上がれもしなかったくせに、声を出して笑うまでに回復しているし。

「なんでちょっと元気になってんの?!魔力切れは?!」
「ね?何でだろう、おかしいねぇ。いつも魔力切れたら戻るの時間掛かっちゃうのに」
「よく分かんないけど元気になったんなら離してよぅ!」
「まだ歩けそうには無いからやーだ」

 レイは壁に寄りかかったままで、元気になったと言うのもその前に「さっきよりは」と言う一文が入ってくる程度だ。

 確かに主張通り、この様子じゃ歩くのは難しいだろう。

 それは分かっている、分かっているけれど。

「手握ってなきゃいけない理由が分かんない!!」
「代わりに肩貸してくれたら手は離してあげるよ」
「それはなんか嫌な予感しかしないからいや!」
「じゃあこのまま手握ってるしかないねぇ」
「だからなんでーー!!」

 突如起こった、王宮の廊下で『ドキッ!王子様と使用人の私が手を繋ぐなんて♡(両者共に涙目)』イベントは、それから小一時間続いて、やっぱりレイに近付くとろくな事にはならないのだ······。
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みんなの感想(1件)

楽しい気持ち

続きが気になります。楽しみにしているのでできたら続きが読みたいです。よろしくおねがいします。

2023.04.21 瀬川秘奈

感想ありがとうございます(´人`)
出来るだけ更新出来るように頑張るので、見掛けたらまた読んでくださると嬉しいです。

解除

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