絵師乙桐の難儀なあやかし事情

瀬川秘奈

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 随分と難儀なめに合うばかりの日々でした。
 
 それは一重にも二重にも、私が訳を持っているのではありません。

 全て、そう全ては、今はろくすっぽ便りの一つも寄越さなくなってしまった。
 
 或いは気が向いたその時にのみ、ふらっと顔を見せにやって来るだけの、彼が事の始まりだと断言出来るのでしょう。

 と言うのも私には、古くからの友人がおります。
 
 果たして彼の人が友と呼べるのか否かについては、些か微妙なところでは御座いますが。
 
 この場ではややこしいので「友」とただそう一言、記させて頂きたい所存です。

 彼は妙な能力を持ち、それ故か奇っ怪な物事に巻き込まれ易い質の人でした。

 彼が自ら進んで「そう」言った事柄に首を突っ込む様を、私はあまり見た事がありませんでしたが、彼曰く「向こうさんからやってくる」か、或いは私を含めた彼の周りの者達が、「そう」言った出来事に彼を引っ張り込むのだそうです。

 先に言っておきますと、私はあくまでただの人でしかありません。至って平凡な何の力も無い者です。

 但しそれが彼や彼の周りからすれば、少々変わっていて心底羨ましく思うらしいのですが。

 さて、ここ迄語ったところで、あなたはきっと彼が「何」なのかも私が「誰」なのかも、何一つ分かってはいないのでしょう。

 意地悪でこんな書き方をしているのではありません。

 私はそもそも「かく」と言う行為全てが、少しばかり慣れていないので御座います。

 けれども彼は「描く」事に興味は合っても、「書く」事には無頓着で有り。私は唯一「書く」事だけが出来て、「描く」事は出来なかったのです。

 伝えるべきかも残すべきかも、更には否かについてすら私に主導権は無いのですが、彼が私の独り言に対してこう返したのですから、言い出しっぺの私は有言実行をせねばならない訳なのでした。

 「残したいのならば伝えればいい」と。

 前置きはこの辺りに留めまして、改めてきちんと事の有様について記しましょう。

 今から語るのは彼が、時には私が、或いは彼でも私でも無いてんで別の誰かが、その身を持って味わった摩訶不思議。

 嘘で有り真でも有る、少々奇妙な話の数々で御座います。

 私には古くからの友人がおりました。

 妙な能力を持ち、それ故に奇っ怪な物事に巻き込まれ易い質の友が。

 彼は絵を描く事を生業に生計を立てていましたが、人や物、風景やその他あらゆる至って平凡な事柄等、てんで描きやしない変わった絵描きで御座いました。

 彼が描くのは、ただ一つの項目に当て嵌るモノ達のみ。

 妖怪や魑魅魍魎、或いは化け物や霊等と言った「人ならざるモノ」を描く絵師。



 人呼んで、【あやかし絵師の乙桐おとぎり】と申します。

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