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最終話、華守人に戻る時
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しおりを挟む「本当にこれで他のαは朝陽と番えなくなるんだろうな」
将門からの問いに、ニギハヤヒが「ああ」と返す。
今のニギハヤヒはもう神宝を持っていない。神宝を自身の子に譲り渡し、今に至っている。朝陽は身籠って穢れを受けた。その後仮死状態になったのもあり、神造人としての生を終えている。その証拠に、朝陽の頸にあった八重山桜紋様は日が経つにつれて薄くなり、契約が何一つないままの陰山桜紋様へと新しく変化したのだ。
一つ、問題があった。
リセットされた事によって、運命自体も変わっている可能性があった。
他のαが出てくる前に再度契り、番が揃ってしまえばこれ以上朝陽が狙われる必要はなくなる。そう考えた。
真新しいシーツの上に朝陽を寝かせて、皆ベッドの淵に腰掛けた。
将門が朝陽の柔らかな黒髪に指を絡める。その時、朝陽のスマホがメッセージを受信して震えた。
赤嶺と書かれたメッセージを勝手に開いた将門が迷う事なく添付ファイルをタップする。
「勝手にやると朝陽怒らない?」
キュウが将門を見たが、将門は眉根を寄せているだけだった。
「これを見ろ」
PDFファイルにされた書類は、家の契約書だった。
問題は貸し出し人である。将門は画面を拡大して名前を見せた。そこに記載されていた名前は、物部天矢……アマヤ本人だと思われる。
「やっぱりあのガキじゃねえか」
ニギハヤヒは腑に落ちない表情で首を傾げている。
「どうかしたのか、ニギハヤヒ?」
「あのガキ。名前からして儂の子孫だと思っておったのだが、本当にそうなのだろうか」
「どういう事だ?」
「霊力の質が違った。それと何故彼奴は異界に態々朝陽を連れ去った? 自分で十種神宝を動かせば良かったろうに」
「確かに。あれだけの霊力を持っていて直系の物部氏だとなれば、朝陽から神宝を取り出して自分でやった方が早い。それを鑑みると、扱わなかったというより……扱えなかった?」
ニギハヤヒの言葉に晴明が答えて、顎に手をやる。
突然異界が開く気配がして、朝陽を庇うように全員身構えた。
そこから顔を出したのは案の定、物部だった。
「そうだよ。僕には十種神宝は使いたくても使えない。物部氏に養子入りさせられただけだからね。物部アマヤという名前は故人となった息子の名だよ。僕の元々あった戸籍と実の両親は物部氏に入った時点で消されている。ニギハヤヒ、貴方の子孫にね。貴方とは血も繋がっていないから、霊力の質が違うのも当然さ」
「てめえ、何しに来やがった。また朝陽に何かする気か?」
「要らないよ、こんなビッチ……。もう神造人じゃないなら用済みだ。あーあ、計画台無し」
要らないと言いながらも、物部が朝陽を見る目は愛着を帯びている。手を伸ばして朝陽の頬を撫でたがその手はキュウに払われた。
「朝陽に触らないでくれる?」
「僕の勝手でしょ。その前に君達が住んでいるこの家は僕の個人的な持ち物だって忘れないでよね。当分の間は貸しといてあげるよ」
昔に想いを馳せるように何処か遠い目をした物部は肩を竦め、その姿はまた異界へと消えた。
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