ある魔王兄弟の話し

子々々

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饅頭怖い

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「兄上。父上からのお土産が届いたよ!」
「……どれもこれも予想通りのラインナップ」

メイドや使用人達が沢山の荷物を抱え、傷つけぬように一つ一つ丁寧に並べられた土産達を見てフィドゥは溜め息を漏らした。

「如何致しましょう」
「全部地下室へ運べ」
「承知しました」

城の地下には父親がお土産で送ってくれた物でいっぱいだった。だからといって表で飾るにはフィドゥのセンスが許さない。
散々悩んで、余り使われてない地下室へしまう事にしたのだ。無論、尊敬してる父の送り物なのでこまめに掃除はさせているが……。

「お饅頭も贈られてきたから一緒に食べよう!」
「菓子か……まぁ、それなら……」
「ちなみに最近話題の悲鳴饅頭なんだって」
「悲鳴饅頭……?」
「ちょっと開けてみようか」

ビリビリと雑に包装紙を破いて蓋を開け、箱の中身を見た瞬間二人はギョッと目を見開かせた。
箱の中に入っていたのは、苦悶の表情を浮かべた超リアルな人間の顔をした饅頭であった。

「うわぁ……悪趣味ぃ~……」
「なんでこんな物作ったんだ?」
「あ、何か紙が置いてあるよ。なになに?『この度、悲鳴饅頭をご購入くださりありがとうございます。当商品は、食べると悲鳴を上げますので、決して人がいない場所と、饅頭によって悲鳴の上げ方に個性がありますので耳栓をつけてお召し上がりください』だって」
「なんでこんな物作ったんだ?」
「よしなら早速食べてみよう」
「おいま──」

好奇心の強いシアは、なんの躊躇もなく饅頭を齧った──その刹那であった。

『ギィィィ゛ア゛ァァア゛ァ゛ァァアアアア゛─────!!!!』

劈くような金切り声が部屋に木霊した。

「うるさっ!?」

シアは思わず口を離して饅頭を床に落としてしまったがそれどころではない。
いつまでも耳に残る声は最早絶叫だった。

「……はっ!?兄上!?兄上は無事か!?」
「っ……!?っ!?……っ!?」
「うん!無事じゃないね!?」

人狼はかなり聴覚が優れている。想像以上の破壊攻撃を受けて床の上に声すら出せずにのたうち回っていた。

「いいいいい今の絶叫は何だったんですか!?……て、ああああ!?魔王様!?たたたたた大変だ!?襲撃か!?襲撃ですかシア様!?」
「違う違う!父上の土産のせいだよ!兄上は私に任せていいから!?」

無論ながら先程の絶叫が部屋の外からまで響き渡り、紅茶の準備をしてくれていた給仕係りやらたまたま近くを通った使用人などがなんだなんだと部屋を覗き来て、結局周りが落ち着くまでティータイムは無しとなってしまった。

後日──。

「全く酷い目に遭った……あの野郎。後で文句の手紙送ってやる……」

仮面越しでも分かるぐらいにフィドゥは険しい表情で胡座を掻くように玉座に座っていた。
側近に「行儀が悪いですよ」と諌められるも、うるせぇと一蹴する。

「兄上!兄上!」

そんな時、シアが何やらご機嫌で玉座の前まで走ってきた。

「ねぇ聞いてよ兄上。あの例の悲鳴饅頭、色々試行錯誤してようやく安心して食べられる方法を見つけたんだ!」
「もう食わんからな!!」
「いいから見てよ!これ、見た目はあれだけど味は保証するから!」
「保証しなくていいからもう見せるな!」

シアの手には例の悲鳴──もとい絶叫饅頭が。その饅頭を半分に割ると、

『ぷギァっ…ノロッテヤル』

「ほら!全然煩くない!」
「いや待て!?悲鳴よりも酷い断末魔となんか呪詛を吐いていなかったか!?」
「ほらほら、折角半分にしたから兄上も食べよ?美味しいから」
「オレはいらん!お前だけで全部食え!」
「つれないなぁ。あ、それとも弟からの口移しがいい?」
「だからいらんと言っているだろ!おいこっち来るな!来るなぁぁぁ!!」

この後フィドゥとシアの追いかけっこは色んなところで目撃され、フィドゥは暫く饅頭が食べれなくなった。饅頭怖い。
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