ある魔王兄弟の話し

子々々

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シアは首を傾げた。原因は彼が今育ててる花についてだ。魔族領でしか咲かない花は生命力が強く、姿形を変えながら環境に適応していく。その花の性質を利用して、独自の方法で作った肥料と栄養素を使って育てた結果、奇妙な形の花が咲いたのだった。

「──というわけで兄上、この花達をどう思う?」
「……頭がいてぇ……」

取り敢えず兄に見せに行ったら何やら頭を抱え出した。

「肥料の量や栄養素の調整を色々したら実に個性的な花が生まれたんだよ。ちなみに最初に咲いたのはこの子だね」

白い小さな水玉模様の丸い赤い花。花といっても花弁は無く蕾のように見える。その蕾には大きな口が付いており、口を開けると鋭い歯が見えた。

「名前はパッ君。ちょっと食欲旺盛な困ったちゃんさ」
「パッ君……」
「次はこれ!」

次に見せてきたのはウツボ型の植物だが、上部の口部分には牙らしきものが見え、口の下部分は睨んでるような鋭い目と合った。

「この子はウツボットン。パッ君同様すぐなんでも口にしちゃうんだ……」
「その見た目でその名前は危ない」
「あとは……」

頭がイボだらけの白と赤の斑模様の金魚のような花が奇妙な唸り声をあげながらゆらゆら揺れている。

「命名、金魚草!」
「オレの知ってる金魚草じゃない……」
「あと他にもね…」
「まだあるのか」

絶望にも似た声を上げるフィドゥを他所にシアは虹色に輝くひまわりと、太陽の光を浴びるとご機嫌に踊るサングラスをつけた花も披露してくれた。

「どう?どう?凄いでしょ?私の血と魔力を与えただけでこんなにも大きな変化を見せてくれたんだ!ムタディオの花はまだまだ無限の可能性を秘めている!」
「……確かにそうだな。そうだが……」

ムタディオの花を使って様々な環境条件で育てる研究は勿論あるし、その研究内容も目を通したこともあった。シア同様に魔力の込めた肥料で育てた結果もあったがここまで大きく変質した花は初めてだった。
やはりシアは他と一線を画した存在だからだろうか……。

「シア」
「ん?なんだい兄上」
「……その花達はどうするつもりだ?」
「勿論枯れるまで育てるつもりだよ。特にこの太陽を浴びると踊る花と七色に光ひまわりの繁殖方法を」
「やめろやめろ。万が一野良植物と化したらとんでもない土地になるぞ」

七色に輝く花と笑顔で踊り続ける花の大群を想像してフィドゥは頭を振った。
結局シアの研究は却下されて、渋々ながら咲いた五つの花だけを育てることにしたのであった。
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