灰かぶりの王子様

おおいししおり

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第一章 執着(アタッチメント)

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 平和が取り柄の町に老衰や不治の病とは別の、変死体に住人たちは恐怖に陥っていた。

「ねえ、聞いた? ビードロさんのお子さん……今朝方、死体で見つかったみたい」

 五名程の井戸端会議。
 真実か嘘か不明な噂話に終止符が打たれると、主婦の一人が本日仕入れた情報を解き放った。

「え、あの硝子細工で有名な⁉」
「そうそう。しかもその遺体、普通じゃないっていうか……かなりエグい死に方らしいのよね。全身の血が全部抜かれてる、みたいな」
「何それ、怖い……」
「怖いわよねぇ。このハリー区で殺人事件なんて。今も犯人がその辺に居るって考えただけでもう。……あぁ、怖い! 迂闊に子供を外に出せないわ」
「殺人? え、それってご夫婦のどちらかが犯人ってこと? ご主人も、奥さんも優しそうなのに……」
「さぁね、裏の顔って奴はわからないわよ。あのご家庭、散々子供が出来ないって嘆いてたじゃない。……奥さんも当時、相当窶れてたの印象的よね」
「確かに。先代の店主、気難しい方だったし子を作るの、かなりプレッシャーよね。アレだと」
「長年溜まったストレスを、我が子を刺し殺すことで解消……犯行に及んだ……ってこと?」
「ちょっと待って、刺し殺すのは流石に無理よ。全身の血が抜かれてるって話しなのよ? それに、鋭利のもので刺した跡は無いみたいだわ」
「ああ、そうだったわ! 血だけ綺麗に抜かれた死体……うっ、想像するだけで吐き気が」
「大丈夫? 顔、凄く真っ青よ。もしかして、あなた……その血抜き犯人に、既に出会ったりして?」

「ひっ……!」
「ちょっと、冗談でもそれはやめなさいよ。……血液だけ抜くなんて人間には到底無理よ。きっと、悪霊にでも取り憑かれたのよ、ビードロさん」
「悪霊、ね……。それこそ非現実的な存在な気がするけど……。ねえ、あなたはどう思う? 最近、別地区から越して来たばかりでしょ? 何か、詳しいことを知らないかしら」
「え、ええっと……直接繋がるかはわかりませんが、実はその、ひとつ心当たりがありまして」
「え、本当⁉ 聞かせて、聞かせてー!」

 長い会話の果て、ずっと聴き手に回っていた女性が四名から注目を浴びる。



「――百年くらい前の昔の話です。とある小さな村の村人約三十名が変死体……血抜きで発見されたことがあったそうです。それも刺し傷や絞首の跡もない、謎の死因で」

「っ! 血抜きで、発見されてかは時間が経った今でも死因がわかってない……ビードロさんのお子さんと状況が似てるわ!」
「はい。ただ……村人の変死体の話って、地元の口承なんです」
「口承?」
「ただの噂話と言いますか……本当にあったのか定かではない事件で。吸血鬼伝説、と言うのですが――」


 刹那、彼女たちの後方に黒い影が這い寄る。背丈の高い、人物の姿に一人の女性が驚き混じりに声を上げた。

「りょ、領主様⁉」
「えっ⁉」

 四名の女性の驚嘆が見事に重なる。
 若き領主、アッシュ=スティングの存在に彼女たちは慌てて挨拶を試みた。しかし、今度は不協和音のように、バラバラで。

「談笑中にお邪魔してしまい、申し訳ありません」
「い、いえ……私たちの方こそ、こんな道端で……。すぐに退きますわ」
「いえ、必要ありませんよ、麗しきマダムたち。それより――先程のお話しに出てきた吸血鬼伝説について。少々、お訊ねしてもよろしいでしょうか」

 にこやかに微笑む町の支配者と、そんな彼を明白にも恐れる彼女たち。見物人化した周囲の人々は、また新たな噂話を生む。


 有る真実も、掠りもしない嘘でも。
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