6 / 13
ヘタレ、出会いと身バレ
ヘタレ、出会う。
しおりを挟む
町を離れた畦道で、ヒュージはサンドイッチを片手に川を見つめる。
陽気な日差し、囀る鳥、涼しい風
全て、平和そのものだ。
「さて・・・どうしたもんかねぇ・・・。」
彼は、定住先を探していた。
学もない、職もない、金もない。
こんな奴が平気で暮らせるほど、世間は甘くない。
基本的には野宿だ。
食い物は・・・仕込まれた盗みのテクニックでスリ同然にいただく。
このサンドイッチも、町を離れる前にパン屋からくすねた一品だ。
こんな生活を5年近く続けたんだ。
・・・もう飯の味も分からねぇ・・・。
そんな事を思いながら、呆然と目先に流れる渓流を見つめている。
・・・そこに・・・。
「た、助けて!」
進行方向の先から、女が走って来る。
身に着けている服装から貴族である事は間違いが無い。
『あぁ・・・俺には関係がない。』
俺は、女を見なかった事にし、残ったサンドイッチを頬張った。
「ちょっと!そこの貴方!助けてよ!」
まだ距離がある内から、俺に向けられた言葉だと理解できる。
・・・だが
『貴族が浮浪者に声を掛けるなど・・・。』
そう思った矢先だ。
女は座っている俺目掛けて飛び込んできた。
「うわぁ!」
派手に横倒れになった俺の手から、デザートにと盗んだリンゴが転がり落ちた。
「あっ!リ・・・リンゴ・・・。」
そのリンゴは、見事に川へ流され最早、手の届かぬものになった。
「あ、貴方ねぇ!人が助けを求めてるのに、リンゴ!?
そんなにお腹が減っていたのかしら!?まるで浮浪者じゃない!」
「う、うるせぇな・・・見ず知らずの人間に追い縋る変質者に言われたくねぇよ。
つぅか、離れろよ!鬱陶しいなぁ!」
女はリンゴを惜しむ俺の背にしがみ付いて放さない。
「これだけ言ってもまだ、何もしないで済ませるっていうの!?
信じられない、人徳というものを分かっていないのかしら!」
「大体、貴族様が路傍の石に!・・・助けを求めるだぁ!?
アンタこそ、人徳の何たるかを学んだ方が良いって!ついでに常識もな!
いい加減放せよ・・・ッ!」
女を振り解こうと、腕に手を掛けた時、初めて理解した。
・・・女の体は震えていた。
見つけた希望を離すまいと、必死にしがみ付いて震えていた。
声も緊張から、半分悲鳴に近い懇願のような・・・。
気の強いお嬢さんだ。
半べそを描きながら、振り解こうとする手に必死で抵抗している。
「・・・アンタ・・・貴族だろう?・・・なんでそんなに必死なんだよ。」
「・・・攫われたのよ!」
絞り出す様に放った言葉を最後に、女は俺の汚れた服に顔を埋めたまま何も言わなくなった。
その後、少しの間
言葉にならない嗚咽と慟哭の声が、その場を支配した。
陽気な日差し、囀る鳥、涼しい風
全て、平和そのものだ。
「さて・・・どうしたもんかねぇ・・・。」
彼は、定住先を探していた。
学もない、職もない、金もない。
こんな奴が平気で暮らせるほど、世間は甘くない。
基本的には野宿だ。
食い物は・・・仕込まれた盗みのテクニックでスリ同然にいただく。
このサンドイッチも、町を離れる前にパン屋からくすねた一品だ。
こんな生活を5年近く続けたんだ。
・・・もう飯の味も分からねぇ・・・。
そんな事を思いながら、呆然と目先に流れる渓流を見つめている。
・・・そこに・・・。
「た、助けて!」
進行方向の先から、女が走って来る。
身に着けている服装から貴族である事は間違いが無い。
『あぁ・・・俺には関係がない。』
俺は、女を見なかった事にし、残ったサンドイッチを頬張った。
「ちょっと!そこの貴方!助けてよ!」
まだ距離がある内から、俺に向けられた言葉だと理解できる。
・・・だが
『貴族が浮浪者に声を掛けるなど・・・。』
そう思った矢先だ。
女は座っている俺目掛けて飛び込んできた。
「うわぁ!」
派手に横倒れになった俺の手から、デザートにと盗んだリンゴが転がり落ちた。
「あっ!リ・・・リンゴ・・・。」
そのリンゴは、見事に川へ流され最早、手の届かぬものになった。
「あ、貴方ねぇ!人が助けを求めてるのに、リンゴ!?
そんなにお腹が減っていたのかしら!?まるで浮浪者じゃない!」
「う、うるせぇな・・・見ず知らずの人間に追い縋る変質者に言われたくねぇよ。
つぅか、離れろよ!鬱陶しいなぁ!」
女はリンゴを惜しむ俺の背にしがみ付いて放さない。
「これだけ言ってもまだ、何もしないで済ませるっていうの!?
信じられない、人徳というものを分かっていないのかしら!」
「大体、貴族様が路傍の石に!・・・助けを求めるだぁ!?
アンタこそ、人徳の何たるかを学んだ方が良いって!ついでに常識もな!
いい加減放せよ・・・ッ!」
女を振り解こうと、腕に手を掛けた時、初めて理解した。
・・・女の体は震えていた。
見つけた希望を離すまいと、必死にしがみ付いて震えていた。
声も緊張から、半分悲鳴に近い懇願のような・・・。
気の強いお嬢さんだ。
半べそを描きながら、振り解こうとする手に必死で抵抗している。
「・・・アンタ・・・貴族だろう?・・・なんでそんなに必死なんだよ。」
「・・・攫われたのよ!」
絞り出す様に放った言葉を最後に、女は俺の汚れた服に顔を埋めたまま何も言わなくなった。
その後、少しの間
言葉にならない嗚咽と慟哭の声が、その場を支配した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる