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3.騎士団
6.仕事
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「アルロ、青い封筒は第2班、ピンクは第5班にお願いします。」
「はーい! 行ってきます!」
アメリアが騎士団に入ってあっという間に1ヶ月がたった。最初はビクビクしていたアメリアだったが、同じ部署の先輩たちは皆優しく親切で、すぐに打ち解ける事ができた。最近では仕事の後に先輩たちと寮の食堂でお酒を飲んだりもしている。
アメリアが騎士団に入ってからの1ヶ月、危険な目にあった事は一度もない。護衛の2人も特に変わった事はないと報告してくれている。ただ、ジェラルドに会える目処もまったくたっていなかった。
(気長に頑張ろう。)
アメリアは無意識に触れていた左手の薬指からパッと手を離す。ジェラルドから貰った指輪をつけていたときには気づいていなかったが、落ち込んだときに指輪を触る癖がついていたようなのだ。
(指輪は今どこにあるだろう?)
門番に会った事がきっかけで宿屋の襲撃が起こった可能性が高いため、指輪の行方も確かめられていない。
(大丈夫、あと5ヶ月もすれば解決するんだから。)
アメリアは不安を断ち切るように書類を持って駆け出した。
アメリアの騎士団での一日は毎日同じスケジュールで動いている。午前は書類を届けて回って部署内の掃除。昼を食べた後に走り込みや模擬試合など身体を動かして着替え。その後はオーレルの補佐の仕事をしている。
オーレルの補佐の仕事が午後だけなのは、オーレルが午後にならないと文書部に出勤してこないからだ。他の先輩の話によると、アメリアが騎士団に入る前からずっとそうらしい。理由は聞いても教えてくれないのだと先輩たちは笑っていた。
この日も午後になって、アメリアが文書部の部屋に戻ると、オーレルが待っていた。
「着替えたなら、そこに座れ。」
オーレルの示すアメリアの机には、たくさんの書類が積み上がっている。アメリアが書類の前に座ると、オーレルも椅子を持ってきて、アメリアと書類を挟むように向かい合って座った。
「今日は警備記録の振り分けをしてもらう。1ヶ月分まとめて送られてくる記録を、種類毎にまとめてファイルにおさめていけばいい。例えば……」
オーレルも最初の印象とは異なり、とにかく面倒見が良かった。仕事などしたことのないアメリアにも分かるようにきちんと教えてくれる。アメリアは新しい仕事を覚えるのが楽しかった。
説明を終えるとオーレルは自分の机に戻っていった。アメリアは書類と格闘し始める。
(小さな子供ばかり狙う人さらい事件。怖い。あ、解決済みだったのね良かった。)
アメリアは解決済みのファイルに入れる。
(アパート3階の夫婦ゲンカの声がうるさい。騎士団未介入。こんな苦情まで来るのね。)
アメリアは未介入のファイルに入れた。他にもスリ事件は未解決が多かったり、酔っ払いの喧嘩まできちんと書類にされていたり、見ていると市井の暮らしがよく分かる。
(夜中に工事のような騒音、未介入。あれ、さっきもあったような……)
アメリアは未介入のファイルを開く。夜中の工事音の苦情がかなり来ている。しかも1ヶ所ではなく数ヶ所から。ファイルをめくると先月や先々月にも同じような出来事があったようだ。
(王都内って夜中の工事禁止よね? こんなに頻発しているのに騎士団は未介入なのね。)
辺境伯領でもこういった出来事に、軍は介入していなかったのだろうか? 軍の仕事について、長兄エドガーに聞いてみれば良かったと今更ながらアメリアは思った。
「何か気になる事があったか?」
別の仕事をしていたオーレルが、アメリアを不思議そうに見ている。
「すみません。何でもないです。」
アメリアの仕事はあくまで分類だ。記入漏れがないか確認するため、報告内容を読んでいるが、騎士団の仕事に意見する立場にはもちろんない。
「気になる事があるなら言ってくれ。いろんな人間の目が入った方が分かる事もある。」
オーレルはわざわざ教えてくれていたときのようにアメリアの向かいに座り直した。アメリアはどうしようかと迷うが、ここまでされたら話した方が良さそうだ。
「夜中の工事音についての苦情が多いなと思ったんです。」
アメリアはオーレルに見やすいようにファイルを開く。
「どこの場所の苦情も3日くらいに集中していて、その後パタリと消えています。同じような事が王都のいろんなところで起きているなら気になるなと思ったんです。すべて未介入で調べてもいないようですし……」
オーレルは一瞬だけ驚いた顔をして、真顔に戻った。
「生意気を言ってすみません。」
「聞いたのはこちらなのだから気にするな。あと、この件はちょっと特殊だから部署内の人間にも話さないようにしてくれ。着眼点はいい。そのまま続けてくれ。」
恐縮するアメリアの頭を、オーレルは労うようにポンと叩いて仕事に戻っていった。
(特殊ってなんだろう?)
アメリアは気になったが聞いていい話ではなさそうだ。どっちにしろ、アメリアがどうにかできることでもないと切り替えて分類の仕事に戻った。
※日本ではお酒は二十歳になってから……
「はーい! 行ってきます!」
アメリアが騎士団に入ってあっという間に1ヶ月がたった。最初はビクビクしていたアメリアだったが、同じ部署の先輩たちは皆優しく親切で、すぐに打ち解ける事ができた。最近では仕事の後に先輩たちと寮の食堂でお酒を飲んだりもしている。
アメリアが騎士団に入ってからの1ヶ月、危険な目にあった事は一度もない。護衛の2人も特に変わった事はないと報告してくれている。ただ、ジェラルドに会える目処もまったくたっていなかった。
(気長に頑張ろう。)
アメリアは無意識に触れていた左手の薬指からパッと手を離す。ジェラルドから貰った指輪をつけていたときには気づいていなかったが、落ち込んだときに指輪を触る癖がついていたようなのだ。
(指輪は今どこにあるだろう?)
門番に会った事がきっかけで宿屋の襲撃が起こった可能性が高いため、指輪の行方も確かめられていない。
(大丈夫、あと5ヶ月もすれば解決するんだから。)
アメリアは不安を断ち切るように書類を持って駆け出した。
アメリアの騎士団での一日は毎日同じスケジュールで動いている。午前は書類を届けて回って部署内の掃除。昼を食べた後に走り込みや模擬試合など身体を動かして着替え。その後はオーレルの補佐の仕事をしている。
オーレルの補佐の仕事が午後だけなのは、オーレルが午後にならないと文書部に出勤してこないからだ。他の先輩の話によると、アメリアが騎士団に入る前からずっとそうらしい。理由は聞いても教えてくれないのだと先輩たちは笑っていた。
この日も午後になって、アメリアが文書部の部屋に戻ると、オーレルが待っていた。
「着替えたなら、そこに座れ。」
オーレルの示すアメリアの机には、たくさんの書類が積み上がっている。アメリアが書類の前に座ると、オーレルも椅子を持ってきて、アメリアと書類を挟むように向かい合って座った。
「今日は警備記録の振り分けをしてもらう。1ヶ月分まとめて送られてくる記録を、種類毎にまとめてファイルにおさめていけばいい。例えば……」
オーレルも最初の印象とは異なり、とにかく面倒見が良かった。仕事などしたことのないアメリアにも分かるようにきちんと教えてくれる。アメリアは新しい仕事を覚えるのが楽しかった。
説明を終えるとオーレルは自分の机に戻っていった。アメリアは書類と格闘し始める。
(小さな子供ばかり狙う人さらい事件。怖い。あ、解決済みだったのね良かった。)
アメリアは解決済みのファイルに入れる。
(アパート3階の夫婦ゲンカの声がうるさい。騎士団未介入。こんな苦情まで来るのね。)
アメリアは未介入のファイルに入れた。他にもスリ事件は未解決が多かったり、酔っ払いの喧嘩まできちんと書類にされていたり、見ていると市井の暮らしがよく分かる。
(夜中に工事のような騒音、未介入。あれ、さっきもあったような……)
アメリアは未介入のファイルを開く。夜中の工事音の苦情がかなり来ている。しかも1ヶ所ではなく数ヶ所から。ファイルをめくると先月や先々月にも同じような出来事があったようだ。
(王都内って夜中の工事禁止よね? こんなに頻発しているのに騎士団は未介入なのね。)
辺境伯領でもこういった出来事に、軍は介入していなかったのだろうか? 軍の仕事について、長兄エドガーに聞いてみれば良かったと今更ながらアメリアは思った。
「何か気になる事があったか?」
別の仕事をしていたオーレルが、アメリアを不思議そうに見ている。
「すみません。何でもないです。」
アメリアの仕事はあくまで分類だ。記入漏れがないか確認するため、報告内容を読んでいるが、騎士団の仕事に意見する立場にはもちろんない。
「気になる事があるなら言ってくれ。いろんな人間の目が入った方が分かる事もある。」
オーレルはわざわざ教えてくれていたときのようにアメリアの向かいに座り直した。アメリアはどうしようかと迷うが、ここまでされたら話した方が良さそうだ。
「夜中の工事音についての苦情が多いなと思ったんです。」
アメリアはオーレルに見やすいようにファイルを開く。
「どこの場所の苦情も3日くらいに集中していて、その後パタリと消えています。同じような事が王都のいろんなところで起きているなら気になるなと思ったんです。すべて未介入で調べてもいないようですし……」
オーレルは一瞬だけ驚いた顔をして、真顔に戻った。
「生意気を言ってすみません。」
「聞いたのはこちらなのだから気にするな。あと、この件はちょっと特殊だから部署内の人間にも話さないようにしてくれ。着眼点はいい。そのまま続けてくれ。」
恐縮するアメリアの頭を、オーレルは労うようにポンと叩いて仕事に戻っていった。
(特殊ってなんだろう?)
アメリアは気になったが聞いていい話ではなさそうだ。どっちにしろ、アメリアがどうにかできることでもないと切り替えて分類の仕事に戻った。
※日本ではお酒は二十歳になってから……
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