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4.安らげる場所
3.執務室
オーレルに案内される形で、アメリアはジェラルドの執務室の前までやってきた。オーレルはここまで来る間、アメリアの方を心配そうに何度も振り返っていたが、アメリアとミカエルの関係や執務室に呼ばれた理由などは一切聞いてこなかった。
『アルロ』がジェラルドに会えば、アメリアに戻ることになるだろう。状況によっては、このまま騎士団を去ることになるかもしれない。
アメリアは自分のことで一杯一杯になっていて今さら気がついたのだが、世話になったオーレルに状況を自分自身で説明するなら今しかない。
「あのオーレルさん!」
アメリアはオーレルが執務室をノックする直前に呼び止める。あんなに良くしてもらったのに、不義理をしてしまう。そう思っても、アメリアの一存で話せることは非常に少なかった。
「僕、騎士団を辞めなくてはいけません。賭博場の潜入が終了するまでは残れるように話してみますが、それも許されるかどうか分かりません。せっかく仕事を教えて頂いたのに、短い期間で辞めてしまって申し訳ありません。」
『アルロ』がアメリアである事は、ペンブローク辺境伯家の問題にもなりかねないので、オーレルに伝える事は難しい。それでもお礼だけはちゃんと伝えたかった。本当は部署の他の仲間にも……
「オーレルさん、親切にして頂いて本当にありがとうございました。」
アメリアは深々と頭を下げる。泣きそうになったが、それはずるい気がしてどうにか堪えた。
「どういう事だ!? 執務室に呼ばれたことと関係があるのか? ちゃんと説明しないとわからないだろう?」
オーレルにしては珍しく声が大きい。アメリアは聞かれても、なんと説明すれば良いか分からない。
ガチャン
「廊下で何を騒いでるんだ。」
「ヴィクトル様!」
「ヴィクトルお兄様!」
執務室から顔を出したのはアメリアの兄、ヴィクトルだった。アメリアとお揃いのミルクティー色の髪を見るとホッとする。
アメリアは突然のヴィクトルの登場に、思わずいつもどおりに呼んでしまっていた。オーレルは、そんなアメリアの言葉に驚いて固まっている。アメリアは何か言わなくちゃと思うが、相応しい言葉が出てこない。
「アルロ、先に殿下と話してきなさい。私がオーレルには説明するから。」
ミカエルの伝言が届いていたのか、ヴィクトルは『アルロ』と平然と呼んでアメリアを促した。
オーレルはまだ固まっている。
「あのオーレルさん……きゃっ!」
バタン
アメリアが扉の中から伸びてきた腕に引っ張られて、執務室の中に入ると扉が閉められる。
気づいたときには、懐かしいぬくもりがアメリアを包み込んでいた。確かめなくても誰であるかすぐに分かる。ずっと、ここがアメリアの居場所だったのだから。
堪える間もなく、アメリアの瞳から涙が溢れ出していた。
「ジェラルド?」
ただ、ぎゅっとアメリアを抱きしめるだけで、何も言わないジェラルドに、アメリアが呼びかける。アメリアが見上げると、記憶より大人びたジェラルドがアメリアを見つめていた。
「アメリア、本当にアメリアなんだな。無事で良かった。」
ジェラルドは絞り出すように言って、アメリアの存在を確かめるようにアメリアの頬を撫でた。涙を流し続けるアメリアを慰めるように目尻にそっと触れる。ジェラルドの黄金色の瞳も少し潤んでいて、疲れが滲んでいるような気がする。
「ジェラルド? 顔色悪いよ。仕事忙しいの?」
言いたい事はたくさんあったはずなのに、アメリアの口から出てきたのはそんな言葉だった。
それを聞いて、ジェラルドは困ったように微笑む。
アメリアはいつになく弱々しいジェラルドが心配だった。ジェラルドの顔をよく見ようとアメリアが背伸びをすると、噛み付くようにジェラルドに唇を奪われる。
いつもより激しい口づけに、アメリアは立っていられなくて少しふらついた。ジェラルドはそんなアメリアを支えながら、それでもアメリアを離すことはしなかった。
アメリアがうまく呼吸ができなくてジェラルドの胸を押しやると、やっとジェラルドがアメリアの唇を離した。アメリアは睨みつけて抗議するが、ジェラルドは気にする様子もなく愛おしそうにアメリアの頭を撫でている。
「今のは俺だけのせいじゃないだろ。」
そう言ってジェラルドはもう一度触れるだけの口づけをした。
「アメリア、愛してるよ。不安にさせてゴメンな。」
ぎゅっと抱きしめてくれる腕はとても優しくて、アメリアはジェラルドに縋り付いて泣いた。
『アルロ』がジェラルドに会えば、アメリアに戻ることになるだろう。状況によっては、このまま騎士団を去ることになるかもしれない。
アメリアは自分のことで一杯一杯になっていて今さら気がついたのだが、世話になったオーレルに状況を自分自身で説明するなら今しかない。
「あのオーレルさん!」
アメリアはオーレルが執務室をノックする直前に呼び止める。あんなに良くしてもらったのに、不義理をしてしまう。そう思っても、アメリアの一存で話せることは非常に少なかった。
「僕、騎士団を辞めなくてはいけません。賭博場の潜入が終了するまでは残れるように話してみますが、それも許されるかどうか分かりません。せっかく仕事を教えて頂いたのに、短い期間で辞めてしまって申し訳ありません。」
『アルロ』がアメリアである事は、ペンブローク辺境伯家の問題にもなりかねないので、オーレルに伝える事は難しい。それでもお礼だけはちゃんと伝えたかった。本当は部署の他の仲間にも……
「オーレルさん、親切にして頂いて本当にありがとうございました。」
アメリアは深々と頭を下げる。泣きそうになったが、それはずるい気がしてどうにか堪えた。
「どういう事だ!? 執務室に呼ばれたことと関係があるのか? ちゃんと説明しないとわからないだろう?」
オーレルにしては珍しく声が大きい。アメリアは聞かれても、なんと説明すれば良いか分からない。
ガチャン
「廊下で何を騒いでるんだ。」
「ヴィクトル様!」
「ヴィクトルお兄様!」
執務室から顔を出したのはアメリアの兄、ヴィクトルだった。アメリアとお揃いのミルクティー色の髪を見るとホッとする。
アメリアは突然のヴィクトルの登場に、思わずいつもどおりに呼んでしまっていた。オーレルは、そんなアメリアの言葉に驚いて固まっている。アメリアは何か言わなくちゃと思うが、相応しい言葉が出てこない。
「アルロ、先に殿下と話してきなさい。私がオーレルには説明するから。」
ミカエルの伝言が届いていたのか、ヴィクトルは『アルロ』と平然と呼んでアメリアを促した。
オーレルはまだ固まっている。
「あのオーレルさん……きゃっ!」
バタン
アメリアが扉の中から伸びてきた腕に引っ張られて、執務室の中に入ると扉が閉められる。
気づいたときには、懐かしいぬくもりがアメリアを包み込んでいた。確かめなくても誰であるかすぐに分かる。ずっと、ここがアメリアの居場所だったのだから。
堪える間もなく、アメリアの瞳から涙が溢れ出していた。
「ジェラルド?」
ただ、ぎゅっとアメリアを抱きしめるだけで、何も言わないジェラルドに、アメリアが呼びかける。アメリアが見上げると、記憶より大人びたジェラルドがアメリアを見つめていた。
「アメリア、本当にアメリアなんだな。無事で良かった。」
ジェラルドは絞り出すように言って、アメリアの存在を確かめるようにアメリアの頬を撫でた。涙を流し続けるアメリアを慰めるように目尻にそっと触れる。ジェラルドの黄金色の瞳も少し潤んでいて、疲れが滲んでいるような気がする。
「ジェラルド? 顔色悪いよ。仕事忙しいの?」
言いたい事はたくさんあったはずなのに、アメリアの口から出てきたのはそんな言葉だった。
それを聞いて、ジェラルドは困ったように微笑む。
アメリアはいつになく弱々しいジェラルドが心配だった。ジェラルドの顔をよく見ようとアメリアが背伸びをすると、噛み付くようにジェラルドに唇を奪われる。
いつもより激しい口づけに、アメリアは立っていられなくて少しふらついた。ジェラルドはそんなアメリアを支えながら、それでもアメリアを離すことはしなかった。
アメリアがうまく呼吸ができなくてジェラルドの胸を押しやると、やっとジェラルドがアメリアの唇を離した。アメリアは睨みつけて抗議するが、ジェラルドは気にする様子もなく愛おしそうにアメリアの頭を撫でている。
「今のは俺だけのせいじゃないだろ。」
そう言ってジェラルドはもう一度触れるだけの口づけをした。
「アメリア、愛してるよ。不安にさせてゴメンな。」
ぎゅっと抱きしめてくれる腕はとても優しくて、アメリアはジェラルドに縋り付いて泣いた。
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