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〈番外編〉皇太子殿下の苦悩

6.突破口

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 そんな中、数年ぶりの進展は思わぬところからもたらされた。

「急ぎご報告したい事がございます」

 ジェラルドがシャルト学園の最終学年である3年になったばかりの春、授業を終えて執務室に戻ったジェラルドの元へやって来たのは警備騎士団にいるオーレルだった。

 ジェラルドが王宮騎士団から見出した人材で学園入学後、市井の動きを見る時間が減ってしまうジェラルドの目になるため、他の数名とともに王都を警備する警備騎士団で働かせていた。

「こちらをご覧下さい。気になりませんか?」

 オーレルが出したファイルに入っていたのは王都の様々な場所からくる夜中の騒音の苦情についてまとめた書類だった。場所は違うのに苦情の内容が酷似している。時期も様々で一番古いものは半年ほど前のようだ。それにしても件数が多い。

「何ヶ所か内密に調べてみたいので隠密部隊を数人貸して頂けますか?」

 ジェラルドとしても気になる状況だ。オーレルに数名の隠密部隊をつけて調査するよう指示した。





 数日後、オーレルからの報告にジェラルドは歓喜した。潜入したうちの数か所の建物の地下から武器が見つかったのだ。

 その武器はシャルト王国で作られた物ではなく外国製で皇弟が密輸入していた国の物だった。

 さらに同じ作りの地下室で武器が運びこまれていない場所も見つかった。おそらく時間をかけて目立たないように王都へと運んでいるのだろう。

「これを辿っていけば、王都外の一時保管場所も見つかるかもしれませんね」

 ヴィクトルの言葉にジェラルドも頷く。王都に運びこまれている武器は推定されている輸入量の10分の1にも満たない。苦情が上がっていない場所も王都内にあるだろうが、空の倉庫がある以上王都に運び込む作業は終わっていないとみていい。そう考えると、警備のゆるい地方に密輸した武器を一旦隠しておく場所がある可能性が高いので、そこを見つける事が出来れば新たに分かることもあるだろう。

「オーレル、9部隊で調べてくれるか? 引き続き隠密部隊もつける」

 9部隊とは何か特別な事件が起きたときのためにジェラルドが王宮騎士団内に作った精鋭部隊で、普段はそれぞれ別の部隊に所属し通常の警備などにあたっている。ジェラルドの直属の部下と言っても良い部隊だ。

 警備騎士団に行かせたオーレルたちも元々は9部隊に所属しており、ジェラルドがその中から適正を見て送り込んだ。

「ミカエル、武器密輸入の詳細についてオーレルと9部隊に説明を頼む」

「うん、任せて」

 ジェラルドはその場をミカエルに任せると皇帝陛下に報告に行った。最近は信頼されているのか助言もなく丸投げされる事も多い。今回も捜査の許可はあっさりおりた。

 辺境伯にも手紙で報告を送り長い捜査が始まった。


 時間はかかったが徐々に地道な捜査の成果が出てきた。

 武器の倉庫となっていた建物の持ち主は、ある男爵家の人間と懇意にしている商人だということが分かった。

 さらに、空の倉庫を見張っていた騎士が武器を運びこむところを目撃し、運び混んでいた輩の動向を追ったところ、とある国境近くの倉庫から武器を持ち出して王都の倉庫に運んでいることが分かった。

 そして、その後の監視の中で国境近くの倉庫に侯爵の側近が出入りしていることも掴む事ができた。

「やっと侯爵の関与についての手がかりが出てきたな」

 ジェラルドはこのような報告を何年待っていただろう。これもオーレルたちの頑張りの成果だ。ジェラルドは功労者たちに褒美を与え事件解決後に改めて昇進させる事を約束した。

 この報告が入ったのは王都が再び寒くなってきた年の暮れのことだった。
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