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第40話 アランの秘密

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 ソファに移動して、お菓子を食べながら災害龍の食べ方について語り合う。幸いゲームの中でもヒロインたちが食べていたので、そのときの映像を思い出していくつか提案することができた。今晩はお肉パーティになりそうだ。

 両思いになったのだから、アランも早々に宿に引き上げたりはしないだろう。孤児院で暮らしていた頃と違い、帰っていくアランを見送らなくてはいけず、口には出していないが今まで寂しかった。

「ジャンヌ?」

 隣に座るアランを見つめると、大きな手が伸びてきて私の髪を耳にかける。アランの熱っぽい視線を受けて目を瞑ると、優しく唇を奪われた。数日前の焚き火の前での行動と似ていて、苦い思い出が新しく塗り替えられる。アランも思い出していたのか、恥ずかしそうに笑った。

『俺、ジャンヌにまだ話せていないことがあるんだ。街に帰ったら全部話すから、俺に時間をくれるか?』

 アランのあの日の言葉をフッと思い出す。 

「ねぇ、アラン。私に話したいって言ってたのって……」

「ああ、黙っててゴメンな」

 私は小さく首を振って、並んで座るアランに身体を寄せた。黙っていたのはなぜだろう? ゲーム内で災害龍を討伐した攻略対象者のことを思い出す。

 攻略対象者の中には爵位を持たぬ者もいる。その者たちがヒロインとともに災害龍を討伐した場合には、それぞれ報奨として爵位が与えられていた。

「アラン、どこにも行かないよね?」

 考えているうちに不安になってくる。アランも祖国から打診があったのではないだろうか。

「どうした?」

 アランは戸惑った顔をしながらも、包み込むように抱きしめてくれる。そうしていると落ちついてくるのだから不思議だ。

「アランは国に帰りたい?」

 私は身分差で振り回されるような祖国には帰りたくない。でも、アランは冒険者としてこの国にいるより、祖国に帰ったほうが地位も名誉も手に入れられるだろう。

「ジャンヌが帰りたいなら、一緒に帰っても良いよ。グザヴィエさんが調査してくれれば、襲撃に怯えることもなくなるだろう?」

「そうじゃなくて、祖国に帰ったら英雄として暮らしていけるでしょ?」

 私は恐る恐るアランを見上げる。アランは困ったように笑った。

「俺に貴族の暮らしができると思うか? あ、もちろん、ジャンヌが望むなら、陛下にお願いしてみるよ」

「私は今のままが良いわ」

 甘えるようにアランに胸に頬を寄せると、抱きしめる腕に力がこもった。閉じ込めるようにギュッと抱きしめられていると安心する。

「そっか。それなら良かったよ。断ったことを後悔するところだった」

「断ったの?」

「ああ。検討するなんて言ったら、あっという間に貴族にされそうだったんだ」

 ゲームとは違い、災害龍は発見前に討伐された。災害龍の討伐を公表しアランに地位を与えるか、混乱を避けるため国の上層部だけに情報を留めるか議論がなされたようだ。

「そのせいで、中々出国させてもらえなかった」

 陛下は今後の国の安寧のため、前者を望んでいたらしい。しかし、アランは話し合いが行われている間、王宮に滞在し、そのときに会った貴族の対応だけでうんざりしていたので、爵位なんてほしいとは思えなかった。

「じゃあ、何で災害龍のことを私に黙っていたの?」

 災害龍討伐の話を聞けば、すぐに私は報奨の爵位について思い至っただろう。再会直後の私なら、断ったと聞いてもいずれ取り残されると悲観していたはずだ。私が不安にならないようにだと思っていたが、今の話を聞くと違うのだろう。

「俺はいつでも祖国とこの国を行き来できる地位にある。手続きをとれば国王陛下に謁見することも可能だ。『攻略対象者』に会わせて欲しいってジャンヌに頼まれるのが怖かったんだ……ごめん」

 勇者は冒険者ランクで言えばAの上のSになる。アランと一緒ならば同じパーティに登録している仲間も国境の行き来が自由になるのだ。祖国での地位も聖女と並ぶくらいに高い。

 アランは私が本気で頼んだら断ない。いや、断ないだろう。自分がアランの立場だったらと想像すると言えなくて当然のように思えてくる。

「謝らないで。私がずっとアランに攻略対象者の話を聞かせてきたせいよね。私の方こそ、ごめんなさい」

「ジャンヌのせいじゃないよ」

 きっと、アランは罪悪感を持ちながら過ごして来たのだろう。そう考えれば、野営地での行動も腑に落ちる。王子たちが突然現れなければ、攻略対象者に会う方法があると説明してから私にどうしたいか選ばせてくれた気がする。そうなれば、さらにすれ違っていた気がするし、結果的には良かったのかもしれない。

「それと……勇者の地位を使わずに、ジャンヌを振り向かせたかったんだ。上手く口説けなかったけどな」

「えっ!?」

 私はアランの腕の中で顔を赤くする。抱き込まれていて、アランから見えないことが救いだろうか。

「少なくとも二年前のジャンヌは断る気でいただろう?」

「そんなことない! 二年前だって……何でもない」

 誤解されたくなくて勢いよく顔を上げたら、満面の笑みを向けられた。恥ずかしくて尻窄みになってしまう。

「そうか」

 俯いて赤くなった頬を隠したが、アランの嬉しそうな声を聞けば、何も誤魔化せていないことは明らかだった。
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