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それぞれの画策
37.尾行中
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ジョゼフィーヌは、王宮の騎士が出入りする門の近くに隠れて、フェルディナンが出てくるのを待っていた。ヤマイモ亭に行くときの服の中でも地味なものを選び、帽子を深くかぶっているので、ジョゼフィーヌだと気づく者はいないだろう。
先日、顔見知りの王宮侍女を捕まえて話を聞いたところ、フェルディナンの行動がみえてきた。フェルディナンは数日に一度、街に住む浮気相手に会いに行っているらしい。今日はその情報をもとに、フェルディナンを尾行して浮気の尻尾を掴む予定だ。
フェルディナンが目立たずに外出するなら、騎士団の出入口がフェルディナンの部屋からも近く、使いやすいとジョゼフィーヌは睨んでいる。それは、王宮内におけるフェルディナンの目撃情報からも裏付ける事ができた。
今日はヤマイモ亭を休ませて貰ったのだが、そう何度も休むわけにはいかない。ジョゼフィーヌは、フェルディナンが想い人に会う数日に一度が、今日であることを願いながら身を潜めて待っていた。
しばらくすると、黒髪の男性が王宮から出てきた。髪の色は違っているが、仕草や背格好がフェルディナンと似ている。一見すると仕事を終えた騎士に見えなくもないが、男性からは王族特有の気品が感じられた。
ジョゼフィーヌが半ば確信を持って見つめていると、男性がチラリと振り返る。慌てて近くの建物に隠れながら確認すると、間違いなくフェルディナンだった。おそらく、髪色は鬘で変えているのだろう。
(当たりだわ!)
ジョゼフィーヌはフェルディナンに見つからないよう距離をとって尾行をはじめた。フェルディナンがゆったりと歩いて行った先はカフェで、ジョゼフィーヌも追うように店に入る。
「いらっしゃいませ」
「あの……なるべく目立たない席にお願いします」
「目立たない席ですか? ……畏まりました」
ジョゼフィーヌはフェルディナンから見えないよう挙動不審になっていたので、店員が不思議そうに見ていたが、ジョゼフィーヌに気にする余裕はない。
ジョゼフィーヌは店の奥の席に案内されると、メニューで顔を隠しながらフェルディナンを盗み見た。
フェルディナンは中央の一番目立つ席に座っている。女性がたくさんいる店なので、フェルディナンは黄金の髪を隠していても、隠しきれていない美貌で多くの視線を集めていた。しかし、本人に気にする様子は全くない。浮気相手に見つけて貰うためなのかもしれないが、なんとなく、ジョゼフィーヌはムッとした。
(浮気なのに堂々としないでよ)
ジョゼフィーヌもマルクと会うときに周囲の視線など気にしていないのだが、本人に自覚はない。
「ご注文はお決まりですか?」
「えっと……」
水を持ってきてくれた店員に声をかけられて、ジョゼフィーヌは慌ててメニューに視線を移す。メニュー表の挿絵を見ると、見た目も可愛らしいマフィンがたくさん並んでいた。ジョゼフィーヌは自分では決められなくて、店員さんおすすめのマフィンセットを頼むことにする。
「お待たせいたしました。おすすめマフィンセットでございます」
すぐに運ばれて来たマフィンは、クリームがのっていて可愛らしいし、見た目に反して甘すぎず美味しかった。合わせる紅茶も店主が薦めるものだけあって、マフィンの味を引き立ててくれている。
(素敵なお店ね)
ジョゼフィーヌはマフィンを堪能し、お土産まで購入した。マフィンと茶葉がセットになっているので、屋敷の侍女たちの休憩時間にみんなで食べて貰うつもりだ。席まで届けてくれたのだが、ラッピングまで可愛らしい。
(そういえば、殿下は?)
ジョゼフィーヌは忘れかけていたフェルディナンの様子を伺う。フェルディナンは、丁度立ち上がって会計をはじめるところだった。
フェルディナンは一人でマフィンを食べに来ただけで、どうやら待ち合わせではなかったようだ。メニューにはりんごのマフィンもあったので、それを食べたのかもしれない。ジョゼフィーヌはお土産のことを考えていて、りんごを食べるときの嬉しそうなフェルディナンの顔を見損ねたと残念に思った。
フェルディナンが会計を終えて店を出たのを確認して、ジョゼフィーヌも急いで会計を済ませる。見失ってしまっては大変だと、お店を出てキョロキョロしてしまったが、幸いにもフェルディナンは斜め向かいの雑貨店の店先にいて、すぐに見つけることができた。
その後、フェルディナンは近くの公園に入り、一人でゆっくりと散歩を楽しんでいた。庭師がきちんと整えている公園は、季節の花々が咲き誇り、ジョゼフィーヌの目も楽しませてくれる。
ジョゼフィーヌは思いのほか楽しい時間を過ごしてしまったが、フェルディナンは公園を出ると、そのまま王宮に帰ってしまったので収穫は何もない。
(殿下が恋人に会うまで続けるのは難しいかも)
半日ではあったが、フェルディナンに見つからないように歩くのは大変だった。ジョゼフィーヌは皇太子妃教育もあり忙しいので、そう何日も尾行できない。
(確か街には調査の専門家がいるはずよね)
ジョゼフィーヌは詳しく知らないが、街で働くマルクなら誰か紹介してくれるかもしれない。ジョゼフィーヌはそう考えて、この日は大人しく屋敷に戻った。
先日、顔見知りの王宮侍女を捕まえて話を聞いたところ、フェルディナンの行動がみえてきた。フェルディナンは数日に一度、街に住む浮気相手に会いに行っているらしい。今日はその情報をもとに、フェルディナンを尾行して浮気の尻尾を掴む予定だ。
フェルディナンが目立たずに外出するなら、騎士団の出入口がフェルディナンの部屋からも近く、使いやすいとジョゼフィーヌは睨んでいる。それは、王宮内におけるフェルディナンの目撃情報からも裏付ける事ができた。
今日はヤマイモ亭を休ませて貰ったのだが、そう何度も休むわけにはいかない。ジョゼフィーヌは、フェルディナンが想い人に会う数日に一度が、今日であることを願いながら身を潜めて待っていた。
しばらくすると、黒髪の男性が王宮から出てきた。髪の色は違っているが、仕草や背格好がフェルディナンと似ている。一見すると仕事を終えた騎士に見えなくもないが、男性からは王族特有の気品が感じられた。
ジョゼフィーヌが半ば確信を持って見つめていると、男性がチラリと振り返る。慌てて近くの建物に隠れながら確認すると、間違いなくフェルディナンだった。おそらく、髪色は鬘で変えているのだろう。
(当たりだわ!)
ジョゼフィーヌはフェルディナンに見つからないよう距離をとって尾行をはじめた。フェルディナンがゆったりと歩いて行った先はカフェで、ジョゼフィーヌも追うように店に入る。
「いらっしゃいませ」
「あの……なるべく目立たない席にお願いします」
「目立たない席ですか? ……畏まりました」
ジョゼフィーヌはフェルディナンから見えないよう挙動不審になっていたので、店員が不思議そうに見ていたが、ジョゼフィーヌに気にする余裕はない。
ジョゼフィーヌは店の奥の席に案内されると、メニューで顔を隠しながらフェルディナンを盗み見た。
フェルディナンは中央の一番目立つ席に座っている。女性がたくさんいる店なので、フェルディナンは黄金の髪を隠していても、隠しきれていない美貌で多くの視線を集めていた。しかし、本人に気にする様子は全くない。浮気相手に見つけて貰うためなのかもしれないが、なんとなく、ジョゼフィーヌはムッとした。
(浮気なのに堂々としないでよ)
ジョゼフィーヌもマルクと会うときに周囲の視線など気にしていないのだが、本人に自覚はない。
「ご注文はお決まりですか?」
「えっと……」
水を持ってきてくれた店員に声をかけられて、ジョゼフィーヌは慌ててメニューに視線を移す。メニュー表の挿絵を見ると、見た目も可愛らしいマフィンがたくさん並んでいた。ジョゼフィーヌは自分では決められなくて、店員さんおすすめのマフィンセットを頼むことにする。
「お待たせいたしました。おすすめマフィンセットでございます」
すぐに運ばれて来たマフィンは、クリームがのっていて可愛らしいし、見た目に反して甘すぎず美味しかった。合わせる紅茶も店主が薦めるものだけあって、マフィンの味を引き立ててくれている。
(素敵なお店ね)
ジョゼフィーヌはマフィンを堪能し、お土産まで購入した。マフィンと茶葉がセットになっているので、屋敷の侍女たちの休憩時間にみんなで食べて貰うつもりだ。席まで届けてくれたのだが、ラッピングまで可愛らしい。
(そういえば、殿下は?)
ジョゼフィーヌは忘れかけていたフェルディナンの様子を伺う。フェルディナンは、丁度立ち上がって会計をはじめるところだった。
フェルディナンは一人でマフィンを食べに来ただけで、どうやら待ち合わせではなかったようだ。メニューにはりんごのマフィンもあったので、それを食べたのかもしれない。ジョゼフィーヌはお土産のことを考えていて、りんごを食べるときの嬉しそうなフェルディナンの顔を見損ねたと残念に思った。
フェルディナンが会計を終えて店を出たのを確認して、ジョゼフィーヌも急いで会計を済ませる。見失ってしまっては大変だと、お店を出てキョロキョロしてしまったが、幸いにもフェルディナンは斜め向かいの雑貨店の店先にいて、すぐに見つけることができた。
その後、フェルディナンは近くの公園に入り、一人でゆっくりと散歩を楽しんでいた。庭師がきちんと整えている公園は、季節の花々が咲き誇り、ジョゼフィーヌの目も楽しませてくれる。
ジョゼフィーヌは思いのほか楽しい時間を過ごしてしまったが、フェルディナンは公園を出ると、そのまま王宮に帰ってしまったので収穫は何もない。
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半日ではあったが、フェルディナンに見つからないように歩くのは大変だった。ジョゼフィーヌは皇太子妃教育もあり忙しいので、そう何日も尾行できない。
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