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それぞれの画策
40.浮気の証拠
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収穫祭の前日、ジョゼフィーヌはアンリに頼んでおいた報告書をヤマイモ亭近くで受け取った。依頼料があまりにも安くて驚いたが、『調査というほどのことをしていないので』とアンリに恐縮されたので、言われた金額を素直に渡す。
アンリの様子とは裏腹に、渡された報告書はジョゼフィーヌが思っていたよりずっと厚い。ジョゼフィーヌは首をかしげながら屋敷に戻った。
自分の部屋に入ると、人払いをして封筒から書類を取り出す。
『数日に一度の割合で、特定の女性と接触している』
覚悟をする前に文字が飛び込んできて、ジョゼフィーヌはため息をつく。ジョゼフィーヌは浮気調査をしている罪悪感からフェルディナンを避けていて最近の様子を知らないが、とうやら、その間にも想い人との逢瀬を順調に続けていたようだ。
最初のページには、概要が書いてあり、フェルディナンが相手の女性の働くお店に足繁く通っていることが分かった。ジョゼフィーヌは現実を突きつけられたようで悲しくなってしまう。
(私が詳細を知る必要はないわよね)
フェルディナンの様子や相手の素性などもかかれているはずだが、どうしても、ページをめくる気にはなれない。フェルディナンに突きつけるための証拠だ。概要を知っていれば、ジョゼフィーヌが読んでいなくてもは問題ない。ジョゼフィーヌは書類をそっと封筒の中に戻した。
(気持ち、切り替えよう!)
アンリに無理を言って収穫祭前までに報告して貰ったのは、マルクと行くお祭りを楽しむためでもある。もし、フェルディナンの噂が事実でないなら、マルクと会うのは申し訳ない。罪悪感を持ったまま、マルクとでかけたくなかったからだ。
(お祭り、楽しまなきゃね)
ジョゼフィーヌはロザリーを部屋に招き入れて、お忍び用の服を並べて貰った。
「ジョゼフィーヌ様、収穫祭に行かれるおつもりなのですか?」
「うん、駄目かな?」
収穫祭は庶民のためのお祭りで、侯爵令嬢が参加することは、あまり褒められたことではない。そのため、ロザリーには前日まで言い出せなかったのだ。雇い主であるトネリコバ侯爵に対して秘密を抱えさせるのは悪いと考えたのもある。
「暗くなる前に帰って来てくださいね」
「え!? 特別な日だし、少し遅くなるけど駄目かしら?」
「ですが……」
ロザリーはジョゼフィーヌを自由にさせてくれているが、夜に出かけることを嫌う。ヤマイモ亭もランチの時間までしか働くことを許してくれていないので、ジョゼフィーヌは暗くなってから街に出たことはない。
外に出れるだけでもロザリーには感謝している。それでも、今回は譲れない。収穫祭の本番は暗くなってからなのだ。
「お願い、ロザリー」
ジョゼフィーヌが懇願するように見つめると、ロザリーがため息をつく。ロザリーが躊躇うのも分かる。治安の良い王都ではあるが、正直にいうと、最初はジョゼフィーヌも夜の外出は不安だった。
『どうせなら夜の祭りを見ないと勿体ないぞ。セリーヌの安全は俺が保証する』
マルクにそう言われて、ジョゼフィーヌは考えを改めたのだ。ぽっちゃりして見えるマルクだが腕には自信があるようだし、ジョゼフィーヌのために臨時の護衛も雇ってくれた。
「どなたとご一緒に行かれるのですか? まさか、お一人で?」
「違うわ。マ……」
「マ?」
「マリリンと一緒よ。最近、ヤマイモ亭で仲良くなったの。護衛もできる強い女の子だから大丈夫!」
(マリリンって誰よ……)
さすがに男性の名前を口にするわけにはいかない。ジョゼフィーヌは苦しい言い訳をして、ロザリーに笑顔で誤魔化す。
「すぐには判断できないのですが……」
ロザリーは困った顔をして部屋を出ていったが、数時間後には、許可を出してくれた。同行者に家の前まで送って貰うようにと約束させられたが、話したときには悩んでいたのに注意はそれだけだった。
「服は桃色のワンピースにするわ」
「畏まりました」
ロザリーが新しい町娘仕様のワンピースをいくつか持ってきてくれたので、その中から気に入ったものを選ぶ。
(明日はとにかく楽しもう)
ジョゼフィーヌはそう決めて、アンリからの報告書を引き出しの奥にしまうと、その夜は早めにベッドに入ってぐっすり眠った。
アンリの様子とは裏腹に、渡された報告書はジョゼフィーヌが思っていたよりずっと厚い。ジョゼフィーヌは首をかしげながら屋敷に戻った。
自分の部屋に入ると、人払いをして封筒から書類を取り出す。
『数日に一度の割合で、特定の女性と接触している』
覚悟をする前に文字が飛び込んできて、ジョゼフィーヌはため息をつく。ジョゼフィーヌは浮気調査をしている罪悪感からフェルディナンを避けていて最近の様子を知らないが、とうやら、その間にも想い人との逢瀬を順調に続けていたようだ。
最初のページには、概要が書いてあり、フェルディナンが相手の女性の働くお店に足繁く通っていることが分かった。ジョゼフィーヌは現実を突きつけられたようで悲しくなってしまう。
(私が詳細を知る必要はないわよね)
フェルディナンの様子や相手の素性などもかかれているはずだが、どうしても、ページをめくる気にはなれない。フェルディナンに突きつけるための証拠だ。概要を知っていれば、ジョゼフィーヌが読んでいなくてもは問題ない。ジョゼフィーヌは書類をそっと封筒の中に戻した。
(気持ち、切り替えよう!)
アンリに無理を言って収穫祭前までに報告して貰ったのは、マルクと行くお祭りを楽しむためでもある。もし、フェルディナンの噂が事実でないなら、マルクと会うのは申し訳ない。罪悪感を持ったまま、マルクとでかけたくなかったからだ。
(お祭り、楽しまなきゃね)
ジョゼフィーヌはロザリーを部屋に招き入れて、お忍び用の服を並べて貰った。
「ジョゼフィーヌ様、収穫祭に行かれるおつもりなのですか?」
「うん、駄目かな?」
収穫祭は庶民のためのお祭りで、侯爵令嬢が参加することは、あまり褒められたことではない。そのため、ロザリーには前日まで言い出せなかったのだ。雇い主であるトネリコバ侯爵に対して秘密を抱えさせるのは悪いと考えたのもある。
「暗くなる前に帰って来てくださいね」
「え!? 特別な日だし、少し遅くなるけど駄目かしら?」
「ですが……」
ロザリーはジョゼフィーヌを自由にさせてくれているが、夜に出かけることを嫌う。ヤマイモ亭もランチの時間までしか働くことを許してくれていないので、ジョゼフィーヌは暗くなってから街に出たことはない。
外に出れるだけでもロザリーには感謝している。それでも、今回は譲れない。収穫祭の本番は暗くなってからなのだ。
「お願い、ロザリー」
ジョゼフィーヌが懇願するように見つめると、ロザリーがため息をつく。ロザリーが躊躇うのも分かる。治安の良い王都ではあるが、正直にいうと、最初はジョゼフィーヌも夜の外出は不安だった。
『どうせなら夜の祭りを見ないと勿体ないぞ。セリーヌの安全は俺が保証する』
マルクにそう言われて、ジョゼフィーヌは考えを改めたのだ。ぽっちゃりして見えるマルクだが腕には自信があるようだし、ジョゼフィーヌのために臨時の護衛も雇ってくれた。
「どなたとご一緒に行かれるのですか? まさか、お一人で?」
「違うわ。マ……」
「マ?」
「マリリンと一緒よ。最近、ヤマイモ亭で仲良くなったの。護衛もできる強い女の子だから大丈夫!」
(マリリンって誰よ……)
さすがに男性の名前を口にするわけにはいかない。ジョゼフィーヌは苦しい言い訳をして、ロザリーに笑顔で誤魔化す。
「すぐには判断できないのですが……」
ロザリーは困った顔をして部屋を出ていったが、数時間後には、許可を出してくれた。同行者に家の前まで送って貰うようにと約束させられたが、話したときには悩んでいたのに注意はそれだけだった。
「服は桃色のワンピースにするわ」
「畏まりました」
ロザリーが新しい町娘仕様のワンピースをいくつか持ってきてくれたので、その中から気に入ったものを選ぶ。
(明日はとにかく楽しもう)
ジョゼフィーヌはそう決めて、アンリからの報告書を引き出しの奥にしまうと、その夜は早めにベッドに入ってぐっすり眠った。
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