色彩シリーズ

かも

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2章

赤鬼が嗤う日

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さて 
純白な彼女の話は楽しんで頂けたかな?
楽しめた?それは良かった

では、次は彼の話を始めよう

天才空手家 紅井 拳斗

『鬼子』

彼を表すには その一言で良いだろ
その名を冠するには充分過ぎるほどに
彼は強過ぎた

先日茉白が見かけた紅井のニュース
それは相手選手の負傷を知らせるものだった

彼の名誉の為に言わせてもらうならば
アレでも 手加減を、手抜きをして
細心の注意を払い対峙していたのだ

しかし彼の想像を超えて人間は脆すぎた
拳を軽くいなしたつもりが
その際に 
相手選手の尺骨を砕いてしまった
その事故により
彼は協会より出場停止処分を言い渡された

この処分は 彼を恐れ
数多く選手が
辞退を申し出てしまった事による

協会の苦肉の策だった

そして物語は始まる

紅井「退屈だ・・・家に居てもやることがねぇ」
出場停止を言い渡された
紅井は退屈していた

道着姿でボロボロで
不貞腐れ顔の自分と
肩を組み満面の笑顔をした
道着姿の女性の写真
それを見て溜息をつく

紅井
「結局、人は簡単には変われねぇのか・・・
なぁ、師匠(せんせい)
俺の全力を受け止めてくれたのは
アンタだけだった

ふっ、(笑い)
アンタの笑顔が気に入らなくて
負かしてその面歪ましてやろうって
血反吐吐くような特訓、頑張ってよ
毎日毎日ボコられて 胃の中身ぶちまけて
それでも毎日楽しかった

そういや
いつから笑ってないんだっけな」

写真に涙が落ちる

紅井「師匠(せんせい)・・・
なんで死んじまったんだよ・・・
俺と試合する約束だったじゃねぇかよ・・・」

紅井の師匠
樹 桃仙(いつき とうせん)

紅井が『鬼才』であるなら
彼女は『天才』であった
紅井が剛拳で 彼女は清拳

空手の天才であり 努力天才でもあった
全ての才能と人生をかけ
空手を愛し愛され
ただ ひたすらに技を磨き続けた女であった

桃仙と紅井の出逢いは

紅井が まだ学生だった時の事だ

紅井は、小さい頃から
強過ぎる力により
親からも周囲からも 
恐れられ 疎まれ 避けられ
まるで腫れ物のような扱いを受けていた

そんな環境で育った人間が
歪むのは当然の事だった

彼はその自らの強過ぎる力を持って
来る日も来る日も喧嘩をして過ごし
負かした悪童を引き連れ
いつの間にか
その地域では有名な
不良チームのトップになっていた

しかし彼の心は乾いてた
一見すれば孤独ではなくなったが
内心ではいつも 独りだった

彼にはその力に怯え従う仲間はいても
共に笑い 肩を組む友達は
1人として居なかった

そんな関係だったからだろう
ある日
昔潰したチームの連中が徒党を組み 
紅井のところを狙い 御礼参りに来た

紅井が返り討ちにしてやろうぜと言いながら
振り向くと仲間達は皆、
武器を紅井に向けていた
紅井の仲間は皆
相手の連合へと寝返っていたのだ

紅井「テメェら裏切りやがったのか!」

モブ「紅井さん、
俺らは、アンタは怖えーけど
強いアンタの側に付いてりゃ
必ず勝てるから従ってたんだ」

紅井「じゃあ、なんで裏切りやがった
今回だって俺側に付いてりゃあ・・・」

モブ「数見りゃ分かんでしょうよ
流石のアンタでもこの人数相手は無理だ
最悪、アンタが勝てたとしても
俺達はタダでは済まねぇ
なら、こっち側に着いた方が
俺達にとっては良かったんだよ」

そう言って
一人、また一人と
紅井の傍を離れ 相手の連合へと合流していく

連合頭「まぁ、そういう事だ、紅井
今から地面に頭擦り付けて
命乞いして 俺らに服従するってんなら
半殺しで済ませてやっても良いぜ(笑い)」

下卑た笑みで嗤う連合を率いる頭

紅井「クッ、アッハハ!!
上等だよ・・・良いぜ!
やってやんよ
テメェら全員ぶっ殺してやるよ!!」

紅井は近くにあった
スクーターを担ぎあげ投げ飛ばす

それからは地獄のようだった
紅井は大人数に囲まれ
それ等を蹴散らし
また囲まれ蹴散らし

紅井は 返り血を浴び
その姿は紅く染る
その様は まさに赤鬼であった

喧嘩が始まり
3時間が経過した頃

連合の数は桁違いだった
紅井が 何度蹴散らそうが
その数は一向に減ること無く
紅井の体力だけが削らていくばかりだった

そして 
紅井が疲労にふらついた瞬間の事だった
裏切った仲間の振るう
鉄パイプが
紅井の片足の腿の骨にヒビを入れる

紅井「があっ!!」

元仲間「へっ、へへ(嗤う)
今のは骨をやった感触だったな(嗤う)
テメェら!!今のうちだ!!
もっと囲んでやっちまっ・・・むぐっ!!」

紅井に膝をつかせ油断した
元仲間の頭を片手で鷲掴み
吊り上げる紅井

紅井「だからてめぇは駄目なんだよ・・・
喋る暇があったら
もっと動けなくなるまで
痛めつけるべきだったなぁっ!!」

鷲掴んで
そのまま振り回しながら
周囲の不良共をなぎ倒し
集まってる所へと投げ飛ばすと
気合いで痛めた脚を引きづりながら
近くの路地裏へと逃げ出す

連合「逃げたぞ!!追え!!」

紅井「クソっ!!」
力任せに周囲辺の物を倒しまくり
進路を塞ぎ 逃げる紅井

そして紅井は
近くの民家の裏口から忍び込み
その裏庭へと逃げ込み
身体を休める事にした

紅井「はあっ・・・はあっ・・・
くっ・・・、はっ・・・、
折れるまではいってねぇが
確実にヒビ入ってんな・・・」

近くから足音とガラガラと
金属がアスファルトに擦れる音が聞こえ
息を潜める

連合「くそっ!おいっ!そっち居たか!?
遠くからの声「居ねぇ!!そっちは!?」
コッチにも ここにもいねぇ!
いいか!草の根分けてでも
紅井の野郎を見つけてぶち殺せ!!」

そして足音と武器の擦れる音が離れていく

紅井「っ、、、
今のは結構やばかったな・・・」

そしてまた、
足音が聞こえてきた

紅井(くそっ・・・戻ってきたのか・・・!?
・・・足音は一人・・・やれるか・・・)

耳をすませ、
相手が扉へと手をかける音を聞き
開いた瞬間に握りしめた全力で殴りかかった
のだが目の前に現れたのは女だった

紅井「はっ!?女!?
ってやべぇ!勢いつけすぎて止まらねぇ!」

???「ん?えっ誰!?てか危なっ!!
って力強っ!!」
女は紅井の全力の拳の腹を
円の形を描いて はたき落とし
軌道を曲げると
そのまま自然の流れと言うように
紅井へと反撃の拳を見舞った

紅井「なっ・・・(気絶)」

???「やっばい・・・
力が強かったから
つい、いつもの癖で流れのまま
拳入れちゃった・・・
おーい、大丈夫~?
あー、駄目だ 完全に伸びちゃてる・・・
どーしよ、
・・・とりあえず目が覚めるまで
稽古場の方で寝かせとこう・・・
気絶させたの謝らないとだし
ここに居た 事情も聞かないとだし」
そう言って 彼女は紅井を
道場へと引きづっていった

紅井「っ・・・ここは?何処だ?
っ、てぇ・・・(悶える)」
鳩尾と太腿の痛みに悶える紅井

ガラガラと扉が開き
瞬時に身構える紅井

???「おっ、起きた?
・・・ってなに身構えてるの?
あっ、確かに殴ったのは確かに悪いけど
正当防衛だったんだからね?

まぁ、力が強すぎて
思わず本気で打ち込んじゃったんだけど・・・(小声)」
そう言って
いきなり訳の分からないことを言い始め

ゴニャゴニャと
小声で何かを言い訳する女に戸惑う紅井

紅井「アンタ・・・誰だ?
てかここは何処だ
てか殴ったってなんだ、
っ・・・(苦痛の顔)」
現状を全く把握出来ずに戸惑う

桃仙「わっ!?大丈夫?
えーと
とりあえず アンタは誰だ、から
私は樹 桃仙(いつき とうせん)
君は?」

紅井「紅井 拳斗だ・・・です」

桃仙「紅井拳斗君ね、
それで次はなんだっけ?」

紅井「ここは何処で
殴ったってなんの事だ」

桃仙「そうだそうだ、

えっーと
とりあえずゴメン!!

突然出てきた君と拳に
思わず身体が反応しちゃって
えへへ・・・思い切り殴り返しちゃった
それで気絶させちゃったから
ここの道場に君を寝かせてたの
本当にゴメン!!
身体大丈夫?
かなり良いの入っちゃった筈なんだけど」

紅井「・・・めっちゃ痛てぇっす
けど寝かせてもらえて助かった・・・
ありがとうございました」
そう言って鳩尾を抑えながら
立ち上がろうとするが
腿が痛み崩れ落ちる

桃仙「っ!?大丈夫!?
倒れた拍子に脚も怪我しちゃった!?」

紅井「いや、これは関係ないんで・・・
大丈夫っす・・・それじゃあ」
無理に立ち上がろうとするが
また崩れ落ちる

桃仙「ちょっと見せてもらうね!
ほう、なかなかの質のいい筋肉・・・
育てたらいい選手に・・・じゃなくて・・・

うっわ・・・酷いね・・・
骨までやってるんじゃないかな・・・

ねぇ、紅井君
事情は分かんないけど
もうちょっと休んでいきなって」

紅井「・・・世話になりました」
そう言って脚を引きづり
道場を出ていく
その背中が桃仙には
とても寂しく見えた

外から 大きな音が聞こえた
桃仙「なんの音!?」

一方 出ていった紅井

連合の頭「紅井!!やっと見つけたぞ!
こんな所に隠れてやがったか!」

桃仙「彼の名前?
・・・とりあえず彼が危ない!」

桃仙は慌てて音のする方へと向かう

紅井「はっ(嘲笑)
そんな情熱的に名前を呼ぶなよ
寂しかったのか?
ストーカーホモ野郎
(敵は五人・・・武器は無し・・・
ギリギリ行けるか)」
敵を睨みつけ 牽制
ぶちのめす 算段を立てる

連合の頭「舐めた口聞いてられるのも
今のうちだ、
そうだな
てめぇの腕と脚をへし折って
発情した犬でもあてがってやるよ」
一方連合の頭は、
脚の負傷を知っている余裕により
ペラペラと下卑た笑みを浮かべ嗤う

紅井「はっ(嘲笑)
お前こそ舌がよく回りやがる
男のケツを追っかける
変態の考えは違ぇな!」

連合の頭「・・・ぶっ殺せ」
連合の頭の合図で一斉に飛びかかってくる

紅井「くっ・・・
おらぁ!!次掛かってこい!!」
拳1つを武器に
次から次へと沈めていき
残るは、連合の頭一人になった

紅井「はあっ・・・はあっ・・・
残りはテメェ・・・だけだ・・・」

連合の頭「くっ・・・・・・
クックック、そうだなぁ~(下卑た笑い)
俺が伏兵を控えさせて無ければ、
だけどな?(嘲笑)・・・いいぞ、出てこい」
控えていた奴等が
背後から紅井を捕える

紅井「なっ・・・意外と頭回るんじゃねぇか・・・
(暴れて少しでも道連れに・・・
振り解けねぇ・・・
駄目だ・・・もう力が残ってねぇ・・・
立ってるのが精一杯だ・・・)」

連合の頭「おい、それ よこせ」
手下から角材を受け取り
握り心地を確かめる
連合の頭「いいー気分だ
さてと、鬼退治もそろそろ終いにしようや

ついでに赤鬼の無敗伝説も今日で終わりだ」

紅井のコメカミに狙いを定め
思いっきり振りかぶる

紅井「くっ・・・!」

睨みつけたまま
歯を食いしばり
襲い来るはずの衝撃に備える

次の瞬間
届くはずだった角材はへし折れ
宙を舞うことになった

紅井「アンタさっきの・・・」
連合の頭「誰だテメェ!」

桃仙「あたしか?
あたしは通りすがりの
美し過ぎる覆面空手家さ

そこの君、大丈夫?
あたしが来たからには、もう安心だからね」

紅井「顔・・・見えねぇよ・・・(泣き笑い)」
人に守られる、
大丈夫かと案じられる、
もう、安心だと言って貰える
そんな初めての経験に
紅井の目から涙がポロポロと流れてきた

連合の頭「よう、覆面のねーちゃんよ
そこ、どいてもらおうかじゃねぇと
アンタにも痛い目見てもらうぜ」

桃仙「絶対に退かない
逆にそれ以上近付いたら
アンタらが痛い目に遭うわよ」

両者は睨み合い
牽制し合う

連合の頭「おうおう、
勇ましいねぇ 俺好みのいい女だ
俺の女になれよ」

桃仙「そう?ありがとう
でも私は貴方のこと好みじゃないし
ごめんね」

連合の頭「そいつは残念」
溜息をつくと
そのまま仲間へと合図を出す

連合の連中は一斉に桃仙へと
襲いかかるが
次の瞬間には
全員が蹲り胃の中身をぶちまける事となった

桃仙「ほら、早く次寄越してよ
準備運動にもなりゃしない」
チョイチョイと手を動かし
挑発する

紅井(なんも見えなかった
この女 とんでもなく強え・・・)

連合の頭「なんだよそりゃ・・・
本当に何もんだよ!」

桃仙「だから覆面美人空手家だって」

連合の頭「巫山戯やがって・・・
全員でかかれ!!」

それからの展開は
目を疑う様な物だった
襲い来る攻撃を全て
躱し 受け流し 
躱しきれぬ武器は全て破壊又は
持ち手を破壊

僅か数十分で立っているのは
桃仙一人となった

一騎当千 その言葉を表したようであった

桃仙「こ~っ(息吹)もう終わり?
もう控えは居ない感じかな?」
構えを解き尋ねる

連合の頭「ひっ・・・くっ、来るな!」
情けなく尻もちをつき
後ずさる

紅井「待ってくれ・・・」

桃仙「どうしたの?」

紅井「アイツだけは俺にやらせてくれ」

桃仙「・・・漢だね」

紅井「恩に着る・・・、

立てや、こんな形になっちまったが
最後はサシでやろうぜ
武器でも何でも使いやがれ」

連合の頭「くっ・・・、死にかけが・・・
何を使っても文句は言わねぇんだよな?」
そう言って懐からナイフを取りだす

紅井「言ったろ なんでもいいって」

連合の頭
「死ねやぁ!!紅井ぃ!!」
ナイフを思い切り
紅井目掛けて突き出す

紅井は体を捻るような最小限の動きで躱し
カウンターで沈めた

紅井「はぁっ、はあっ・・・」

桃仙「最後、いい動きだったよ」
そう言って笑い

紅井を肩を貸す

紅井「アンタみてぇな
強い人にそう言って貰えて光栄だな」

桃仙「ねぇ、君
空手に興味無い?」

紅井「空手・・・これ以上力付けても
危ねぇよ・・・今でさえ人を傷付けちまう」

桃仙「だから誘ってんの
折角の力腐らせてるの勿体ないじゃない
そーれーに、空手家舐めたらダメだよ?
アンタより強い人間が沢山いるんだから
毎日ゲーゲー吐くことになるわよ(笑)」

紅井「クックク(笑)
毎日吐く目に会うって
どんな誘い方だよ(笑)」

桃仙「事実なんだから仕方ないじゃん」

紅井「本当に強いやつばっかなのか?」

桃仙「もちろん」

紅井「アンタは、
その中でどれくらい強いんだ?」

桃仙「一番強い・・・って思ってる
事実 負けた事は少ししか無いしね」

紅井「少しはあるのかよ(笑)」

桃仙「当たり前でしょ~?
いくら私が天才でも
ずっと努力してきた人に
いきなり勝てるわけないじゃない」

紅井「だよな・・・
俺が鍛えたらアンタに勝てるか?」

桃仙「無理無理(笑)
力ばかりのゴリラだもん(笑)」

紅井「明日から稽古つけてくれ
絶対アンタを泣かせてやる!」
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