魔王が識りたかったもの

香月 樹

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第一章 旅立ち

#15 聖職者と呪術師

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声の主はこの町の町長だと名乗った。

「普通ではない事象のように思いますので、そういったものは専門家に見て頂いた方が良いと思うのです。」

なるほど、と憲兵たちと周りに集まっていた野次馬がうんうん頷いていた。
そして町長は言葉を続けた。

「この町には教会はありませんので、聖職者の方に見て頂く事はできません。
しかし、この町にも呪術師はおります。その呪術師に一度診て貰えば何かわかるかもしれません。」

現実的な面からのアプローチでも、超自然的な面からのアプローチでも
両方試してみて解決できないものは仕方がない、という判断である。
また、もしかして・・・という一縷いちるの望みに期待しているのである。

「呪術師の方でも原因がわからないようであれば、
これはもう王都かどこかの教会で聖職者の方に診て貰うしかないと思います。」

この世界には「神の御業」と呼ばれる力を持つ聖職者がいる。

ある者は神の声を聴きそれを知恵として人々に授け、
そしてある者は神の力の片鱗を借りて人々を癒す。

神官や巫女、聖者や聖女といったものがその聖職者にあたる。

そしてその力が真の物であると王都が認めた者のみ正式に聖職者として名乗る事が許され、
王都に帰属し、その後各地に設置された教会に派遣される。

つまり、教会は王都に所属し、実権は王都が握っているのだ。

王都が聖職者を管理するのは、偽物の出現を抑えるという役目を担うためと言っているが、
一部からは、認める数を制限する事で価値を高め利益を搾取している、との声もある。

確かに聖職者に診て貰うにはお布施という形で高額な治療費を払わなければならず、
聖職者の数が少ないため価格が高くなっているというのは事実である。

そして、王都が必要と認めた大きな町にしか教会は設置されない。

聖職者の数に限りがある以上、仕方のない措置だ。
人が多く集まる都会ほど重視するのは仕方のない事だ。

その代わり、教会が設置されない小さな町や村には、
昔からその土地に根付く呪術師というものがおり、王都はそれを黙認している。

呪術師まで制限した場合に起こりうる住民達の反乱を防ぐ意図か、
それとも王都や都会に住む富裕層以外は目にもくれないだけなのか、
真意はわからないが、そのお陰で小さな町村の住民は高い治療費を払わなくて済んでいる。

その呪術師だが、いわゆるまじないというものを使う。
その力はどちらかといえば魔族に近いものである。が、それは本当に力がある一部の者だけだ。

王都の管理が及ばない呪術師は「自称」が多いのだ。

全身を覆う黒いフードを被っていたり、呪術に使う怪しい人形や杖を持っていたり、
黒を基調とした恰好だけはどこか魔族を彷彿とさせる。

故に、魔力を視認できない人族ではその真偽を見極める事ができない。
「悪いモノが憑いているよ」と言われれば、それを信じるほかないのだ。

しかし、既に憲兵たちは直面した難解な問題を解決する術が無く、
よもやその怪しいであろう呪術師に解決の糸口を託すしかなかった。

そして、憲兵たちと村長は例の店主を連れ、町はずれの荒れた木々を目指して歩き出した。
店主は腰の辺りをロープで縛られて連行されていたが、相変わらず顔を下に向け肩を落としている。

暫く歩いていくと、鬱蒼うっそうとした木々の中に小さな小屋が見えた。

町長は一人小屋の入り口に近づくと、「おぉーい」と中に居るであろう呪術師に声を掛けた。
そして中からは「はぁーい」という声が返ってきた。
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