魔王が識りたかったもの

香月 樹

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第一章 旅立ち

#23 命の源

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「お前、昔魔王を殺した事があるだろう???」

魔族の子供の突然の言葉に、「な、な、、、」と驚きのあまり声に出来ないでいると、

「お前からはあの魔眼の女の魔力を感じるからな。
魔族は大雑把な奴が多いから、大方、雑な魔力操作のせいで、
体内にだいぶ取り残されたんだろう。」

と、言葉を続けた。

突然宿った呪術師の力の原因が、ひょんな事から解明された。

「かなり魂にこびりついてるみたいだし。長年かけて融合されたって感じだな。」

え?!

それって、私、もう人間じゃないって事?!
そりゃ、確かにもう200年この姿のままだけど・・・単に魔力を持つ呪術師だからじゃないの?

呪術師の娘が顔を青くしていると、その様子に気付いた魔族の子供が、

「ん?どうかしたか?」

と聞いてきた。

「融合って・・・私はもう人間じゃないって事!?私、魔族になったの!?」

思わず聞き返した娘の言葉に魔族の子供は応えた。

「魔力を持つ時点で、既に普通の人間では無い。かといって魔族でも無い。
魔力を持つと、人間には見えないモノを見えるようになるが、
それでも魔族のような強大な力を持つ訳では無いし、魔族と同じ身体になる訳でも無い。
だから、当然魔族のように長命でも無ければ、魔界と人界を自由に行き来出来る訳でも無い。」

呪術師の娘は魔族の子供の言う事を黙って聞いていたが、暫くして、

「ん?ちょっと待って。話はわかったわ。
呪術師は人に見えないモノが見えるだけで、それ以外は他の人と何も変わらないって事?」

「うむ。そういう事だ。」

「病気や怪我だってするし、魔力でそれを治したり、
ましてや100年経っても老いないなんてありえない、と?」

「その通りだ。」

「私、あれからかれこれ200年生きているんだけど?」

!!!

魔族の子供は、娘の言葉にナニ!?と反応してから暫く考え込んだ。
そして、何か思いついたのか、広げた左手の掌に、握り拳にした右手の小指側を

ポンッ

と当てた。

「ちょっと動くなよ。」

魔族の子供は呪術師の娘にそう言うと、娘をその場に立たせ、動かないように命じた。

そして暫く娘をジッと食い入るように見つめ、
頭の先から足の先まで隅々まで眺めたかと思うと、

「わかったぞ。お前が何故ずっとその姿で200年も生きてるのか。
そしてあの魔眼の女の正体も。。。あの女は、ソウルイーターだな。」

と言った。

え?ソウルイーター?どういう事?なんか嫌な予感がする。聞きたく無い。。。

呪術師の娘は魔眼の女の正体を聞いて、名前から何か察する所があったようだ。

「そしてお前は、あの女の魔力が宿ったせいで、僅かながらその能力まで引き継いで、
周りの生き物から少しずつ少しずつ魂を吸収している。」

!!!

「い、い、生き物って、具体的にはどんな?」

「全てだ。草も虫も。鳥や犬も。勿論人間も。」

!!!

「いやーーーーっ!」

呪術師の娘はその場で泣き崩れた。
目からは絶え間なく涙が零れ落ち、両手で塞いだ口からは嗚咽が漏れた。

「私が、私がみんなを死なせた。。。」

おじいさんも、おばあさんも、優しくしてくれた町のみんなも、全員、全員私が死なせた!

「やはり私は魔王に呪われていたんだ!
あの主婦たちの話していた言葉の方が真実だった!!みんなから命を奪ってた!!」

主婦たちの言葉をずっと否定しながらも、頭ではもしかして、という考えがずっと消えなかった。

それが真実だったと知り、娘にはどん底に落とされたような絶望感と、
亡くなった人たちへの申し訳なさでいっぱいになった。

娘は暫く泣き叫んでいたが、やがて泣き疲れ、座り込んだまま地面を見ていた。
「もう落ち着いたか?」と魔族の子供に声を掛けられ、娘は「うん。。。」と応えた。

「呪われていると言えば呪われているが、魔眼の女のせいで、決して魔王の呪いでは無いぞ。」

先程泣き叫んでいた時の言葉を聞いたのだろう、魔族の子供がそう言った。

「え?魔王の呪いじゃないの?」

「そうだな。魔王は特にお前の事恨んで無いし、呪う理由が無い。」

「え?なんでそんな事わかるの?」

呪術師の娘は泣き腫らした目で魔族の子供を見つめた。
魔族の子供がハッキリと、魔王の呪いでは無いと断言したのが不思議だったのだ。

「俺が殺された魔王だから。」

「え?」

「だから、あの時殺された魔王は俺だから。」
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