終学旅行

くろたん

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終学旅行

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ボク達は今バスに乗って移動中だ。
今日から待望の・・・ではなく、イジメられっ子のボクには地獄のような修学旅行の始まりでしかない。
イジメグループと傍観者のクラスメート連中と一緒に旅行なんて、考えるだけで憂鬱だ。
生徒思いのI先生が居る時だけは仲の良いふりしてくるから質が悪い。
なるべくI先生のそばに居るようにしよう

初日の目的地である山頂の神社に到着した。
平日のためか他に参拝客もなく、貸し切り状態だ。
「神様の前だぞー、礼儀正しくしろ!」
I先生の声が響くが、誰も聞いてない。
皆はしゃぎ回りやりたい放題、隠れて落書きしてる奴まで居る。
まともに参拝する奴は居ないのか?
ボクは呆れながら賽銭箱に小銭を放り込み、そっと目を閉じお祈りを始めた。

念願成就か・・・どうかイジメが無くなりますように・・・

ドンッ!
急に強い衝撃を受け弾き飛ばされた。
無駄にテンションを上げ、はしゃいでる連中がぶつかってきたようだ。
「痛いなぁ」
呟き腰をさすっていると、手の下に何かが落ちていた。
「何だろ、これ?」
何かの欠片のような不思議な物を手に取り見つめていた。
「おーい、そろそろ時間だぞ。集合!」
ボクはつまんでいた物をポケットに押し込み、慌ててバスへと向かった。

その日の夕方、宿の大広間を使ってのレクリエーション

憂鬱だ。こんな行事無ければいいのに・・・
心の中で悪態をつきつつ、最上階の大広間へと向かった。

ボクは気配を消すように、なるべく目立たないよう部屋の端で小さくなってやり過ごしていた。

会も半ば、お調子者連中がはしゃいでる中、I先生と旅館の従業員が何か話をしていた。
「ちょっと旅館の手伝いでふもとの町まで買い出しに行ってくるな。お前ら、迷惑掛けないように大人しくしてろよ」
「え、先生が行く必要無いでしょ?宿の仕事なんだから従業員に任せればいいじゃん」
冗談じゃない、先生が居なくなったらイジメが始まるだろ
ボクは必死に引き止めようとした。
「いや、そうなんだけどな。若い従業員が腰やっちゃったみたいで大変らしいから」
そんなの向こうの都合だろ、こっちには関係無いじゃん
しかし、人の良い先生は止めるのも聞かずに手伝いに行ってしまった。
お人好しにも程がある

チカチカチカッ フッ

扉が閉まると同時に電気が消え、真っ暗になり、何も見えないほどの暗闇に皆が騒ぎ出した。
次の瞬間
ボンッ! ドスッ!
突然の破裂音と、それに続き何かが刺さる音が聞こえた。
蛍光灯が割れたみたいだけど何も見えない。
少しすると電気が点いた。

ギャー イヤー

明るくなった部屋中に悲鳴が響いた。
なんだ、何があった!?
急な明るさで眩む目を擦りながら部屋を見回す。
「あ・あ・あ・・・」
ボクは、目の前に飛び込んできた信じがたい光景に、腰を抜かし言葉を失ってしまった。
部屋の中央には、割れた蛍光灯に串刺しにされたクラスメートだった物が佇んでいた。
皆はパニックを起こし、部屋から飛び出・・・せない!?
扉はどれだけ力を込めても、体当たりしてもびくともしないようだ。
窓も開かない。それどころか、椅子で殴りつけても傷ひとつ付いてない。
「ここ開いたぞー!」
1ヶ所だけ窓が開いたようだが、ボクは無性に嫌な予感がし、慌てて止めようと叫んだ。
「ダメだ、危ない!」
聞こえてないのか、開いた窓から助けを呼び叫ぶ。
「誰かー、助けてくれー! おーい!」

ズバンッ!!

窓から首を出した瞬間、勢い良く窓が閉まり首を切り離した。
小刻みに震えながら、元クラスメートの首から下がゆっくりと倒れこんだ。
いっそう響き渡る悲鳴の嵐
グラグラと部屋が大きく揺れた。
ガシャーン
壁に掛けられた大きなモニターが倒れ数人の生徒を下敷きにした。
倒れたモニターの端から赤黒い液体が染み出している。
1人の男子生徒が突如ボクの胸元を掴み上げ突飛ばしてきた。
「さっきの窓の仕掛け知ってたのか!?全部てめえのしわざか!?」
そんなの知る訳がない
言いがかりをつけて殴りかかってきた。
ボクは殴られるのを覚悟し、身を屈め目を閉じた。

バチバチバチ

・・・?
いつまで待っても拳が飛んで来ない
恐る恐る目を開けると、割れた蛍光灯の所から放電したらしく、感電し白目を剥き震えながら立っていた。
放電が収まり倒れた肉塊はピクリとも動かなくなっていた。
ボクは恐怖に震えながらも必死に考える。
『何で窓の仕掛けがわかったんだ?』
『直感・・・なのか、急に頭に浮かんできて』
『どうすれば・・・何でこんな事に?』
頭の隅で何かがずっと引っ掛かっている。
何で? この事態の原因?
そもそも原因なんてあるのか?
必死に考える。
ふと昼間の神社での参拝風景が頭に浮かんできた。
『そういえば死んだ連中、あの時やりたい放題やってた奴ばかりじゃ?』
何故だかわからないが、確信のような予感が頭をよぎった。

ガラガラ

急に扉が開き誰かが部屋に入ってきた。
「まーだやってんのかよ」
レクリエーションをサボってた不良グループの連中が、能天気に入ってきた。
『何だこいつら?こんな悲鳴の飛び交う状況で何を呑気な事を』
ふと視界に入った部屋の外の光景は、何一つ異常の見えない普通の宿の光景だった。
『誰も気付いてない・・・?』
ボクはすがるように開いた出口に寄りかかった。
出られずに寄りかかった・・・。
見えない壁があり、開いているのに出られない。
『逃げ出す事もできないのか・・・』
絶望し見えない壁にもたれ掛かっていると、突然腕を捕まれた。
「じゃまだ、どけクズ!」
最後に入ってきた奴がボクを投げ飛ばし、入れ替わるように部屋へと入っていった。
「い、つぅ・・・」
廊下の壁に打ち付けられた背中が痛む。
・・・!
部屋から出られた!?
ボクは驚きながら部屋を見た。
!?
外から見える部屋の中はさっきまでの惨劇が嘘のように、楽しそうに談笑するクラスメート達が見えた。
「何が起きてるんだ?さっきまでのは・・・現実だよな」
身体中が痛い、恐怖で震えてまともに動けない自分の体を確認して現実だったと実感する。
『今見える光景が偽物なんだ、だから誰も助けにどころか気付いてもいないんだ・・・』
『どうすれば・・・そうだ、昼間の神社』
誰も気付けない状況では誰にも頼れない、他に当ても無い、何ができるかもわからない・・・それでも、ほんの少しでも望みがあるならと走り出した。
宿から出ると雨が降りだした。
まるで、ボクのジャマをするように。
それでも構わずボクは走った。
神社までは一本道で1kmも離れてない。
道は暗く、ほとんど何も見えないけど間違えようが無い。
間違い無い・・・はずだけど、どういう事なんだ!?
「何だよこれ・・・」
目の前にあるのは、何十年もほったらかしにされたような朽ちた神社だった。
道を間違えた?・・・いや、一本道で間違えようが無い。
ぼろぼろの神社だけど、見覚えがある造りをしているし、バカが書いてたと同じ場所に落書きも残ってる。
信じがたいけど確かに昼間に来た神社だ。
何ができるかわからないが、とりあえず本堂に入ってみた。
今にも崩れてきそうな本堂の中央に、不釣り合いななほど綺麗な状態の置物が鎮座していた。
あやしい雰囲気を放つ置物を見つめた。
「これって・・・!?」
置物の一部が欠けているのに気が付いた。
『この置物のこの模様、何処かで見たような』
昼間何かの欠片を拾った事を思い出して、置物の欠けた部分に合わせてみた。
欠片はピッタリとはまり、継ぎ目も消えて一つにくっついた。
ボクは驚きながらも必死に願った。
『もう終わりにしてくれ』
ズガーンッ! ゴロゴロゴロ
物凄い轟音と共に雷が近くに落ちた。
そしてすぐに雨が止み、さっきまでの悪天候が嘘のように星空が広がった。
「終わったのかな・・・」
『やれる事はやった、これ以上できる事もない』
ボクは重い足取りで宿へと戻った。

宿に戻ると、従業員や宿泊客たちが外に避難していた。
見ると大広間のあった場所が焦げて無くなっている。
さっきの落雷が大広間に直撃したらしい。
避雷針が設置されているのにそこを避け、狙ったかのように大広間だけを撃ち抜いていた。

・・・・・・

「お前は無事だったのか!」
呆然と立ち尽くしていると、I先生が駆け寄ってきた。
「先生は無事だったんですね!」
「今戻ったところだけど・・・、いったい何があったんだ?」
説明なんてできる訳がない。ボクだって何もわからないんだし。
奇跡的にも落雷で被害があったのは大広間だけで、それ以外は全くの無傷だった。
まるでボクたちだけを狙ったかのように・・・。

こうして修学旅行は中止になり、帰宅する事になった。
ボクは帰りの電車に揺られながら考えていた。
『何でボクたちだけがあんな目に?』
『やっぱり神社が原因だったのか?』
『何でボクとI先生だけが無事だったんだ?』
『ボクが祈ったタイミングでの落雷・・・』
『そもそも昼間の願い事・・・』
嫌な結論が出そうになり考えることを止め、そっと目を閉じ眠りについた。
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