白昼夢の中で

丹葉 菟ニ

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捕物帖当日の轟轟

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青葉組が借り上げてる貸倉庫の周りを、四方八方を塞ぐ配置で各自身を潜め見張ってると3台の車が倉庫に入って行く。

『こちら追跡班、青葉賢治が乗った車を含め3台が倉庫内に入りました』
『あぁ、コチラでも目視出来た。万が一の為にも予定通り 其方で待機して居てくれ』
『了解しました』

イアホンから聞こえてくる連絡を車の中で聴きながらチラリと腕時計に目を移す。

コチラで独自に入手してる情報だと、取り引き時刻は14時。
30分早いが当然の想定内である。

「さて、後は黒獅の到着を待つばかりですね」

「はぁ~、来るならさっさと来て欲しい。そしたら俺も早く帰れる」

普通なら畑違いの案件となるが、今回は合同となってる為に参加は義務だと己に言い聞かせて、本来なら会議室の机の前で待ってれば良いが、今回は案件がでかいので現場となる場所に一応 俺も如月も銃を携帯して現場に出て来ている。

車から降り 須藤の元に向かい隣に腰を下ろした。

「どうだ?」

「少し前に宿泊してるホテルを出た」

主語が無くても、今 聞きたい情報がスルリと出てくる相手は楽で助かる。

バイブにしてるのだろう、着信に反応して懐から携帯を取り出して 溜め息を吐く須藤が「すまない」と、断って持ち場を少し離れるが話し声は漏れ聞こえてくる。

「大変そうですね」
「昨日の今日だからな」

「運命の番を見つけたとわざわざ 足を運んで部下が大勢いる前で婚約破棄を言い渡したのは其方なので。・・・全ては弁護士を通して下さい。では」

話の内容からして元婚約者側からの電話だと推測出来る。向こうには今の状況が分からないから仕方ないにしてもタイミングが悪過ぎる。


電話を切ると重い足取りで戻って来た須藤一言「悪い」と、俺と如月にしか聞こえない声で謝ってきた。

「直接電話を掛けてくるとは、向こうも必死だな」

「あぁ、ウチの支援が無ければ見通しは暗いからな必死なんだろうな」

「確かにその通りだけど、今は目の前の事に集中してないと見逃すぞ」

『こちら浜田 予定通り其方に3台 車が向かいます』

黒獅を追跡してた班から連絡が入り、向かってくる方向を見てると遠くから3台の車が連なって来る。

「来ましたね」

『こちらかも確認出来た。予定通り 待機して居てくれ』
『了解しました』

車が止まり1人の男が降り中の者と交渉すると扉が開き車が入って行く。
扉が閉まるのを確認すると、現行犯逮捕する為に建物の出入口と窓を囲みスタンバイする。
薄汚れた窓から中が見えずらい。予め入手していた見取り図と内部の予測を計算してた場所に三角と俺と如月に陣取る。三角がアタッシュケースから内部を見るために窓を小さく切りカメラを仕掛けた。

小型のパソコンには予測した通りに映し出される内部の様子を見ながら突入の機会を伺う。

「なるほど、確かに綺麗ではありますが鈴君と真逆。扱いを間違えれば容赦なく切りつけられそうで怖いですね」

画面に映し出される黒獅のトップ 李 宇轩リー・ユーシュエンと青葉賢治が互いに握手を交わしてる。

「あの容姿を使って上り詰めたんだ、それなりに褒められるだろ?」

反吐が出そうな事実だ。
自分の容姿を知り尽くしてるユーシュエンは4大マフィアのトップを次々にベッドに誘い込み、均等の取れてた社会にそれぞれ偽の情報をばら撒き、潰し合いをさせ邪魔な組織を壊滅させ、最後に残った組織のトップの額に風穴を空けて今の地位に座った。

須藤が何処まで知ってるかは謎だが、確かに鞭でも刃物でもその先には猛毒を仕込んでる危険な奴だ。

「なんか良くわかりませんが、容姿だけならフラッと近寄ってしまいそうですけど」

「気をつけろよ。お前みたいな奴が蜘蛛の巣だとも気が付かないまま近づい全てを食われ捨てられる」

チラリと視線だけを送り解りやすい忠告に渋面を作って素直に頷く三角に安堵する。コイツはβだが、頭も良くて  瞬時に人との線引きの付き合いも心得て俺も如月もかなり気に入ってる。

「綺麗な花には棘があるって昔から言いますから」

気に入ってるからこそ、変なのには引っかかって欲しくないと思うのは一緒の様でありがちではある的確なアドバイスを口にする。

「棘だけで済めば儲けもんですよ、コイツの棘に猛毒が仕込んでありますから気をつける前に近づかないことです」

「肝に銘じときます」

画面から目を離さずにそんな会話をしてるとお互いが車のなかからジェラルミンケースを取り出して中を見せ合う。

『各自 突入』

イアホンマイクに向かって突入の合図を送れば一斉に解除してあった扉から捜査員が飛び込んで中が騒然となる中、俺達も中に入った。
直ぐに聞こえてくる銃声に、ホルダーから抜き取った銃を構えるのは如月と俺。

「今どき何処の映画も銃撃戦なんか流行らない」

建物の影に身を隠しながら悪態を付く如月と同様に俺も身を隠しながらも 逃げ出そうと向かってくる相手に3人を確実に相手の腕や足を狙いを定めて戦意を奪って銃を押収。

撃たれた場所を抑えてる奴に手錠を嵌めて如月と三角を残してまだ撃ち合いをしてる場所を覗き見る。
俺が手を出さなくても 圧勝しそうな雰囲気に高を括るてると、倉庫の出入口から大型トラックがドアをぶち破り侵入してきた。トラックからは銃を構えた青葉組の構成員がゾロゾロと這い出てくる。
あらたな騒動に紛れてユーシュエンが数名に囲まれて逃げる前に立ちはだかる。

「おっと、大人しくして頂けると有難いのですが」

「おや、日本にもいい男が居たんですね。今がこんな時じゃ無ければお味見をしたい所ですね」

「気持ち悪い褒め言葉どうも。でも、申し訳ないが俺は不能でね、ご期待には添えられない」

今 この場がどうなるってるのか忘れたかのように妖艶に微笑んで長い髪を掻き上げるユーシュエン。

「気持ち悪いとは酷い。それに貴方ほどの男だと さぞかし良い物を持ってそうなので十分に楽しめると思ったんですが」

「十分に楽しんでると思うぜ、もっと楽しませてやるから 俺と一緒来ないか?」

「手に無粋な玩具でなく、薔薇かスゥイートルームキーを手に誘って貰えたら、打球点を差し上げたのに。顔と行動が一致しないのは残念」

めんどくせぇ奴だ。
俺に撃つために腕を上げたが遅い。狙った通りのユーシュエンの肩に当たり身を屈めて横に飛び物陰に隠れ銃弾を交わした。

この国は銃刀法違反だ、銃撃戦なんて流行んない。

物陰から1人の腿を撃ち抜いたが、追いついていた如月も2人仕留めた所で確保の声が飛び交う。

コチラも早く確保しなければ 帰れないと物陰から出て、未だに逃げようと悪あがきするユーシュエンの前に対峙する。

「あんたはもう詰んでんだよ」

「どうでしょう、貴方αでしょ?皆さん 私の匂いに惚れてくれるんです」

どこから取り出したのかカプセル式の注射器を自分腕に突き刺した。

「如月 こっちに来るな!!ほかの奴にも伝えろ!!!」

「おや、欲張りですね。私を独り占めにしたいんですか?」

自分で打った薬が効いてるのか浅い呼吸を繰り返す。

「どこまでも目出度い頭で 出来てんだな。さっきの注射は即効性のある誘発剤だな、臭くてかなわない」

「なるほど、貴方には番が居たんですね。でも、そんな人でも私の匂いからは逃げられない。誰しも私を抱きたくなるんですよ」

立っているのが辛いのか座り込んだ。薬のせいなのか、または撃たれたせいなのか、きっと前者だろうな。

「お生憎様。あんたの匂いは不愉快にしかならない」

立ち上がりユーシュエンの腕を取っただけななのに、気色悪い声が聞こえて 背筋に悪寒を走らせながらも手錠を嵌めた。

「アァン こんなもの はめるなら私の雌穴に貴方の雄をハメて」

掴んでる手にユーシュエンは顔を寄せて 舌で舐めた。気持ち悪くすぐさま手を離したが、衝動で殴らなかったのは如月が止めにはいったからだ。

「おい!来るなって言っただろ」

額に玉の汗を浮かび上がらせて理性を保ってる如月を見て、4大マフィアの1人 王 浩然ワン ハオランは αの中でも 強いと聞いてたが今の如月の状態を見れば、なるほどと理解出来る。

世間 一般に知られてる、α家系が何代も続く家系はそれなりに強いαが生まれる。時に飛び抜けて強いのが生まれる。
そして、αばかりに注目が集まる世の中であるが、Ω家系にもα家系と同じ傾向にある事を世間には知られてない。
それが こいつなんだろうな。

「お願い 私のいやらしい 雌穴を犯して」

とんでもない発言をし始めたユーシュエンの手錠を片手だけに嵌めて片方を手近な手摺にはめ、素早く本部に電話をかける。

「俺だ、大至急ヒート用の護送車を手配してくれ」

濃度が増した匂いが辺りに充満し始めると胸を抑えて蹲る如月に肩を貸して無理立たせて少しでも距離を取るために移動させる。三角も如月に肩をかして一緒に外に出た。

「グゥ ・・・すみ、・ま・ハァハァ」

「いい、喋るなバカ」

如月を座らせると隣に三角も座り込む。

「三角 如月を見ててくれ」

「了解しました、ですがあんな中に入って行って織田さんは大丈なんですか!?」

「確かに臭いはキツイな。大量に腐った魚の臭いで吐きそうだ」

「ぶぅっ!マジでかーアレを腐った魚の臭いって。もぅ最強過ぎます。如月を見てますんで 宜しくお願いします」

宜しくされたくないが 中で匂いに充てられて乱交パーティーでも初められたらたまらない。


強すぎる臭いにハエが集るように、時折フラリと近寄ってくる者に容赦無く平手打ちをしては目を覚まさせて倉庫から出ていくように指示する。
俺の努力を無視する様に、後ろでは我慢できなくなったのか 犯せと叫び狂ってるユーシュエンは欲望に支配されてしまい、陰茎を取り出しては懸命に扱き始めた。止めても無駄に体力を減らすだけだと見なかった振りで、近寄って来る部下の頬に不満をぶつける様に平手打ちをくり出し、厄日の鬱憤を晴らす事にしながら、ヒート専用の護送班が到着するのを待った。







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