白昼夢の中で

丹葉 菟ニ

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時々 小雨

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帰って来たのか?連れて来られたのか?迷うが、晃さんのお母さんに「お帰りなさい」と、言われて帰って来たんだと納得してしまった。

「ただいま」

ニッコリと笑うお母さんと一緒にお茶を飲んでるとチャイムが鳴り良枝さんが迎えに出てくれた。

「じゃ、俺は部屋に行きますね」

「頑張ってね」

手紙に家庭教師の時間を30分遅らせてもらったと書いてあった通りに箕田先生が来てくれて勉強が始まった。






自分にピッタリとフィットする肢体を抱きしめて夢の中に居たのに、不穏な音で起こされるが隣で寝る鈴を起こさない様に気を付けながらも 自然と不機嫌になるのはしかたない。

「俺だ」

『おはようございます。青葉組の残党を一掃出来ました。今からお迎えに行きますので」

「わかった」

時間を確認して腕をそっと引き抜き 軽くシャワーを浴びスーツを軽く着込むと鈴が困らない様に目覚ましをセットして手紙を書くと朝岡に電話をして要件を頼む。

全ての準備を整えエントランスに付けば滑らかに入り込んで来た車に自分でドアを開けて乗り込んだ。

「髪が乾いてませんよ」

「今何時だと思ってんだ。で、読み通りだったのか?」

15分で自分の身支度を完璧に整えるならギリギリで出来るが、鈴のとこを最優先にするなら 髪を軽く乾かすしか時間は無い。そんな細かな事を気にしてやる相手も居ない如月を無視しながら、1番懸念してた残党が拘束された事で今回の事件は収束するだろうと思いながら話を促した。

「青葉組の残党も金に困った末に 若い女性を使って裏サイトに生配信をしてた所にラッキーな事が起こり、場所を特定できて踏み込めました。本当に頭が足りなくて助かりましたよ、コチラの読み通りに動いてくれて」

金に困れば必ず金裏サイトに出てくるだろうと見張らせてた甲斐があったと安堵しながらも、サラッと本音が混じる話し方とテンポの良さからして、普段の如月に戻ってる事を察する。

「普段のお前に戻ってくれて俺も助かったよ。っで、何があったんだ」

「・・・全力で現実逃避をする事にしました」

「は?らしくないな、どうした」

「私らしさ、ですか。では、今度 巨乳を求めて合法的な場所に行ってきます」

なるほどな。やっぱり 俺の感は当たってたか。

「程々にしとけよ。で、現実的には貧乳を引き当てたのか?お前でも確認出来るって事は 相手は発情期にでも入ったか?」

「貴方がおかしな事を云うもんだから・・・それとなく私の嗅覚が人とは違うと教えたんです」

否定材料が欲しくて態々教えてやったのに、否定され無かった。もしくは 迫られたのか。どちらにしても面白くなりそうだ。如月が好きになるタイプとは真逆に位置する奴だからな。

「へぇー、否定され無かった」

「一方的にそうだと言われてもピンと来ない物をどうしろと」

「そりゃ、発情期の時に匂いを嗅げば解決するだろ?番は特別だ、合否が1発でわかる。なんなら着いて行ってやろうか」

「お断りします!」

「残念」

まったく思っていない事を口にしながら手櫛で軽く髪を梳かし車の窓に映りこんだ自身を整えてながらそのまま車を降りた。



若いと聞いてたが、ここまで若い子だとは思わなかった。14歳 16歳 17歳 揃いも揃って 家出中で捜索願いも出されてない子達の親への怒りも湧くが、その前にこの子達の態度にも呆れる。

「だってぇ~、宿&お金くれるって、ラッキーじゃねぇ?」

「貴方ね、自分がなにをやってたか分かってるの?」

「SEX。誰でもやってるけど おばさんやらないの?そっかァ~、おばさんを相手するよりもウチらみたいに若い子の方がいいって言ってくれる人の方が多いっか」

手の平で机をバァンと叩くが相手は素知らぬ顔をしてるだけで、一緒に居る男性刑事が何とか宥めに入る。

「貴方ね!」
「まぁまぁ、新庄さん落ち着いて下さい」

新庄と呼ばれた女性刑事は俺よりも4つ歳上だ。そこに俺よりも2つ下の永田が無遠慮に入れば「キャッ」と、小さな悲鳴を上げて可愛く見せようと努力をしてるが、そんなものを見せられても可愛げも無い。永田の目にはどの様に映ったかは知らないが、俺の目からは鈴以外の人物を可愛いとも思えない、鈴だけが可愛く天使に見える。

「君の証言で間違いなければ 取り敢えず今日の所は帰ってもらい明日また話を聞く。親御さんの保護観察の元 一度 家に戻るか、嫌なら 一時預かり所の保護観察になるがどちらがいい」

「えっとぉ、お兄さんの所がいいでぇ~す」

「悪いが未成年を泊める留置所の余裕はウチには無いから」

「え?冗談キツすぎぃ~、保護観察ならお兄さんにして欲しいって意味ぃ~」

「俺はおばさんにしか興味が無いんだ悪いな」

新庄を立たせてそのまま出る永田の背中を視線で追うが長くは続かない、両親が入るなり視線を横に向けた。

「はぁ~、何しに来たの?」

態度がガラリと変わり親に対する態度だとは到底思えない。

「何しにって!あんた 自分が何をしてるのか分かってんの?」

俺から言わせて貰えば、子供が帰って来ない、其れも4日も帰ってない状態で捜索願いも出てない親だ。本気で心配してるかも怪しいが、警察に呼び出されて渋々やって来た親だ。一時保護所に行く方がマシだが 親に親権がある限り、俺達は先ず親を厳重注意し子供を引き渡さなければならないのだ。

「自分の身体使ってお金稼いでんの。なにか文句でもあんの?ピル飲んでるから出来ないわよ」

問題は子供ができるかできないかの問題だけなのか?頭が足りな過ぎて話にならないな。

「あんた 本当のバカ!相手はヤクザなのよ!一生付きまとわれれるの、それに1度出回った映像の回収なんて無理なのよ!不特定多数の、其れもよく知らない相手との性行為で病気にでもなったらどうすんの」

親の方が現実的に考えられるリスクを並べ立てるが子供の方は其れがどうした?って態度を取ったまま改めない。16歳でリスクを全て覚悟して売り専に望んでるとは思えない。

「写真を見せてやれ」

吹けば飛ぶ綿埃よりも軽い覚悟の気持ちの子供達の為に少々悲惨な性病患者や、危ない人達と付き合って悲惨な事件に巻き込まれた時のレポート見せて警告する様に伝え 隣の部屋を出て次の部屋に入るが、コチラも反省の色がまったくない。が、14歳はまだましだった。

「あの年で性に奔放になる年なのか?」

「全く魅力を感じないですが、10代を相手にする背徳感を味わってる大人にも問題がありますね」

背徳感だけで欲望に走れるが、責任を取る立場に立たされたら尻尾を丸めて逃げ出す大人ばかりだ。

「ふざけた理由だ」

そのまま青葉組の残党の指揮を取ってた若頭補佐の右腕だった三木の取り調べを見学するが、相手は眠いと騒いで話にもならないと愚痴を零してる部下達に昼からにしろと指示を出してそのまま部屋に戻る。

「これで 鈴君も普通に出歩けますね」

「マンションに巣食う厄介な主婦達の戯言も漸く大人しくなってきたしな、やっと マンションに戻れるメドも立ってきた」

時計を見ればた5時を回った所だ。本当だったら まだまだ鈴を抱きしめて幸せな時間に浸ってたいられたのにと脳裏を過ぎるが、今 腕の中に居ない鈴を思い出してもしかないと考えを振り払い 書類を手に持ち部下達が待つ会議室に向かった。

金が無くなれば、1番確実に稼げてた裏サイトに出てくるだろうと見張らせてたのが大当たりした。突如10代の生本番の売り込みで裏サイトに出て来た。見る限り 使ってる女の子は10代、やり方や売り込みが青葉 賢治がやってた物と酷似してると注意して見てた所、カメラのアングルが傾いた為に背景に窓の外がわずかに映った事で居場所を特定して踏み込んだ。そこに居たのが10代の3人と三木と工作員12名を一気に確保出来た。

報告を聞き終えると、良くやったと労い 寝てない部下達に取り敢えず休憩を与え、問題の映像を見た。最初は顔出し女が裸になって覆面男を貪ってるだけの映像からだんだんと男の数が増えたところで、三脚が傾き窓の外が映し出された。

「コレの何処に金を払ってまでみる価値があるんだ?」

コチラとしては、三脚が倒れラッキーだったが、まさかこんな物に金を払ってまで見たい大人が居るからこそ需要があるのは分かるが、何処に魅力があるのか全く分からない。

「こんな物に金を払うなら 確実に抜ける所に金を払ってヤりに行きますね」

如月も隣で見ていたが俺とおなじく眉間に皺が入ったまま難しい顔をしてる。

「普段は出来ないけど、やってみたい事の妄想のお手伝いの映像を お金を払って買ってんの」

いきなり現れた土屋は、映像の必要性を教えてくれるが、俺にはイマイチよく分からない。

「妄想の手助け。可哀想に こんな物を使わないと妄想も出来ないのか」

「何しに来たんですか」

土屋の登場を過剰な拒否反応を見せてるのは如月だけ。

「やってる最中の踏み込みだったんで、我々も呼び出されたんですよ」

そうだろうな。突っ込んでる最中の確保なら土屋班が一番手馴れてる。

「ご苦労さま」

「あぁ、でも織田さんは妄想じゃなくても現実でやり放題出来ますから、お金払ってまで見る人の気持は分かんないでしょうね」

「どうゆう意味だ」

「番が居るから。其れも飛びっきり18歳の可愛い運命の番が」

初めは19歳だった。しかもヒート中の運命の番だ。我慢出来ずに抱いてそのまま番にした。病院側も初めてのヒートだと証言が有り俺はお咎め無しのまま、番持ちにだと書類提出を出してある。攻められる謂れは無い。

「八つ当たりは御免蒙る。書類に不備は無い」

「攻めて無いよ。ハッキリさせようかなぁって、今までズレた事無いんだ、2週間後に僕のヒートがくるんだよね。如月さんを貸して欲しくて」

横の如月は明らかに不機嫌になってるが、土屋は気にした素振りも見せず俺に態々 如月の貸し出しを要求して来るのは面白い。如月とは大学時代から知り合って10年近く一緒に居る為にお互いに色々と知ってる為に今の心境も手にとる様によくわかる。

「俺はべつに構わない。但し、如月は物ではない。俺の一存で動くのは仕事のみだ。私生活までに口出しする上司は最低だろ、2人で話し合え。俺の奥さんのヒート予定は約4週間後だが、2度目だから 鈴と被らない事を祈るよ」

如月を残して席を立った。


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