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チャプター2:「凄惨と衝撃」

2-22:「Fire Power」

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 装甲小隊は分岐路へと踏み込む。
 先までは半ば要塞と言った様相を呈していた一体は、しかし今や一転していた。
 分岐路、町路上に幾重にも張り巡らされていたモンスター達のバリケード陣地は、ほぼ原形を残さずに大小の瓦礫破片となって散乱している。それも無数の血肉や肉片、モンスター達だったそれと混じって。
 分岐路双方には、巨大な塊が二つないし三つづつ、連なり沈んでいる。いずれも迫っていた巨大生物、ライマクの死骸。航空爆弾の炸裂をその巨体に諸に受け、その身を裂かれ削がれ、あるいは爆炎に巻かれたライマク達は。その身を酷く損壊させ、あるいは丸焼けにして動かぬ肉塊と成り果てたのだ。
 モンスター達の陣地の中心であった分岐路真ん中の砦にあっては、天井から正面に掛けてが削がれたように崩壊、損失していた。投下されたMk.82航空爆弾の内の数発が、天井を貫通し内部へ飛び込み、内部よりその破壊力をもって吹き飛ばした結果であった。
 一見する限りでは、動くものは何も無い。
 そんな光景広がる分岐路へ、89式装甲戦闘車が先頭を務め踏み込み、適当な位置に停車配置。
 随伴の分隊各員がそれを中心に周囲へ散開展開して行き、さらに続き乗り込んできた76式装甲戦闘車が、少し位置関係をずらして89式装甲戦闘車をカバーするように配置。周りの適当な家屋にも、選抜射手や機関銃班が上がっていく。
 そして殿で乗り入れて来た高機動車と本部班。

「…………」

 それに同行する形で、ジューダやユーティースティーツ族のオーク等も歩み入って来た。彼等は警戒の意識を残しつつも、一様に目を剥き、そして言葉を失う様子を見せていた。
 要塞の域であった敵の陣地に、迫っていたライマクの一群を。それらの大きな脅威を、しかし余すことなく爆炎に包んで吹き飛ばし、死へと誘った航空爆撃。
 彼等の心情を占めるは、それに対する驚愕と畏怖であった。

「ここまで……」

 最早立ち尽くす域で、表現の言葉も困る中でそんな一言を無意識に零すジューダ。

「――トーチカ、いや砦か。あの内部も一応クリアしておくべきかと」
「あぁ、だが爆撃後だ。慎重に行わせてくれ」

 その少し先の傍では、峨奈と鷹幅が行動の算段を交わしている。
 この爆撃後のとてつもない光景の中でも、淡々と行動を続ける峨奈や鷹幅等のそんな姿に、ジューダは少しの異質さを覚えてしまいながらも。自分等もできる行動をするべく、同胞等に言葉を発し送ろうとした。

「――ッ」

 しかしその時。ジューダは視界の端、上方にちらつく何かを、そして気配を感じ取る。

「――ッ!上をォ――ッ!」

 そして上空に視線を向け。次の瞬間に〝それ〟を視認した瞬間、同時にジューダは声を張り上げた。

「!」

 ジューダからのそれを聞き留め、峨奈や鷹幅もほぼ反射の動きで視線を上空へ向ける。
 しかし。その彼等と入れ違いその視界を掠めるように、何かが降下角度で飛び抜け――衝撃とその音、そして熱波が巻き起こった。

「ッゥ――!?――身を隠せーーッ!!」

 突如発生し襲ったそれに、峨奈は顔を顰め身を庇い。しかし同時にそれの正体を探るよりも前に、周辺の各員へ向けて命ずる声を発し上げた。
 命ずる声と、何より起こった現象を受け。展開していた各員は飛ぶように手近な所へ駆け、飛び込み見を隠す。
 峨奈と鷹幅もまた身を翻して、背後近場にあった、敵の設けた阻害バリケードを遮蔽物としその影へ飛び込んだ。

「――今のは!?」
「砲撃、いや魔法現象かッ?」

 飛び込んだ先で、鷹幅は驚きの声を上げながら上空と周囲へ視線を向け。峨奈は推察の言葉を紡ぎながらも、その腕を大きく翳し流して指示の動作を見せる。
 峨奈のそれは各車両に向けたもので、それを受けた89式装甲戦闘車や76式装甲戦闘車はその場から急速後進。近場の家屋の壁へ突っ込み、その巨体重量で問答無用で破り。屋内に車体を押し込み乗り入れ退避した。

「星だッ!ミティアの魔法、星を落として来るんだッ!」

 近場には崩落した砦の、数mサイズの大きな瓦礫が落下鎮座しており、ジューダはまたそこに飛び込み身を隠していた。
 そして今の峨奈や鷹幅の言葉に、ジューダはその現象の正体を回答する言葉を上げて送る。今しがたのそれは、先程に敢日やジューダが襲われた隕石を落とす魔法と同種のもの。
 見れば、地面の一点が大きく削げ。周りには火の粉が散り、そして大小の隕石の欠片が散乱していた。

「――マジかよまたかよッ!」
「ビックリだな」

 そんな所へジューダの身を隠す瓦礫に。焦り、あるいは台詞に反した淡々とした声色で現れたのは、敢日にGONG、そして制刻。制刻等は向こうより瓦礫を飛び越え、そしてその影に飛び込みジューダに倣い身を隠す。
 そして制刻等はすかさず小銃やネイルガンを瓦礫から突き出し、荒々しく射撃を始める。見れば、隕石魔法の攻撃に同調したものだろう。崩壊した砦の元や近隣の建物から、先程ではないにしろ、モンスター達がバラバラと出てきて向かって来る姿が確認できた。
 制刻等だけでなく。各分隊各員や各車両も、応戦行動、火力投射を始める。

「――上空、二発目ッ!」

 しかしその矢先。今度は誰かの声が響き上がる。
 そして示された上空を各員が見れば、空より赤々と燃える大きな隕石が、また速い速度で降下して来る姿が見えた。

「――ッ!?」

 そして次の瞬間には、隕石はまた落ちて襲った。
 再び落ちたそれの箇所は、峨奈等や制刻ジューダ等のやや後方。そして同時に鷹幅や峨奈は、目を剥きあるいは苦い色を作る。同じタイミングで響き届いたのは、ガシャンともグシャンともつかない金属の嫌な音。
 見れば後方で、高機動車が弾かれ横転転覆した姿があった。
 退避が少し遅れ、そしてそのまま敵に対応すべく、その場で搭載の12.7mm重機関銃による射撃行動を行っていた高機動車を、隕石が襲ったのだ。
辛うじて直撃こそ間逃れ、そして唯一車上で機関銃に付いていた隊員は、投げ出され身を打ったが下敷きを間逃れたらしい。近場の別の隊員に回収される様子が見える。

「退避しろッ、隠れるんだッ!」

 そんな隊員等に、峨奈は高機動車は放棄しての退避を促す言葉を発する。
 そんな折、三度目の隕石が降り注ぎ襲い来た。今度のそれは背後側面の家屋に落ち、その屋根を破って破壊し、破片と火の粉をまき散らす。

「ッぅ……各個、応戦を継続ッ!」
「魔法現象は使用する者がいるはず――選抜射手、オペレーターを探せッ」

 鷹幅は襲い来た隕石にまた顔を顰めつつも、各員へ指示命ずる声をその透る声で発し上げる。その傍ら、峨奈は推測の言葉を呟く。多くの場合には魔法には元の使用者が居る事は、隊もすでに承知の事だ。その事から、峨奈は各分隊の選抜射手に、オペレーターを探しての排除命令を送る。

っても――ワラワラいるから判別つかねぇぜッ」

 しかしその一方で。敢日がネイルガンを打ちばら撒きながらも、苦い言葉を上げる。再起し向かって来るモンスター達は少なくなく、モンスター達の区別に慣れていない隊員等からすれば、そのオペレーターの発見は易くは無かった。

「兄ちゃん、見つけられるか」

 制刻は、また小銃を撃ちモンスターを一体仕留めながらも、ジューダに向けて尋ねる。

「すまない、見える範囲では見つけられない。身を隠している可能性もあるッ」

 それに対してジューダは、しかし彼の側でも発見は出来ていない旨を返し。同時に可能性を忌々し気な色を含めて零す。

「ジューダッ!」

 そんな所へ、後方から通る声でジューダを呼ぶ声が響く。
 そして振り向けば瞬間に、女オークのサウライナスが遮蔽物とする瓦礫へと滑り込んできた。

「強い魔力の気配が在る、術師だと思うッ」

 そして間髪入れずに彼女が告げたのは、隕石魔法のオペレーターの位置に察しを付けた事を知らせる言葉だ。

「どこだ姉ちゃん?」

 それには制刻が、やや不躾な端的な言葉で返し尋ねる。

「何ヵ所かに感じる――家の中の奥のほうとか。ッ、矢が届かないところだよ……!」

 彼女は何か、魔法の術者の保有する魔力を感じ特定する力を持つとのことだ。その力で術者の位置に当たりを付けたようだが、それが同時に自分等の攻撃が届かない所であることに、忌々し気な声を零す。

「大体でいい、教えてくれ。後は機関砲に潰させる」

 それに対して、自分等のほうで対応する旨を告げ、位置を要請する制刻。

「あぁ……うん。えっと、まずは左手。大きな看板の店の――」

 それを受け、サウライナスは戸惑いつつも術者の位置を伝え始める。

「デカブツだぞォッ!」

 しかしそんな所へ割り込むように、また別方から隊員の誰かの声が張り上がり届く。
 それを受け各々が前方へ視線をやれば、分岐路双方の先より大きな図体が。複数体、8~9体は見えるトロル達が鉄球を振り回して、他モンスターを伴い迫る様子があった。
 直後には各装甲戦闘車がそれを見止め、機関砲投射を開始。恐怖の体現なまでのトロル達をしかし易々と弾き屠り始める。
 が、片や。こちら側に四発目の隕石が飛来落下。散開していた隊員等の一部を襲い掠め、それを見た鷹幅や峨奈に冷や汗を掻かせる。
 さらに他のオークやゴブリンなどのモンスター達は、我武者羅なのか最早半ばパニックに陥っているのか。内のいくらかが、装甲小隊の火線の中を文字通り必死の姿で突っ込んで来る姿が見えた。

「ッ、なりふり構わずかよッ」
「少し、手が足りねぇな」

 それに対して射撃応戦しつつも、制刻等はそれぞれ忌々し気に、面白くなさそうに声を上げ零す。
 おまけに直後、その正面先に五発目の隕石が落ち。衝撃と熱波。破片が襲い来て掠めた。

「ッ――ヤロッ」
「ちょいと、ウゼぇな」

 それを凌ぎつつ、敢日と制刻はそれぞれまた声を零しながら。ネイルガンや小銃を突き出し、銃弾をばら撒きモンスターを迎え撃つ。

「ッ……――」

 その傍ら。ジューダは焦れる様子で周囲に視線を走らせる。それは現状を打開する手段を探す物。
 そして、背後へ視線を向けたジューダはあるものを見止める。
 彼の少し先の地面上に転がり落ちている、鉄の物体――12.7mm重機関銃。先に高機動車が横転転覆した際に、弾みで脱落してそこま滑り転がって来たものだ。

「彼等の重弩……あの威力なら……――ッ!」

 ジューダはここまでで、重機関銃の使用される場と効力も目にしていた。それを想い返し、何かを呟き零したジューダは、次の瞬間には瓦礫の影を飛び出していた。

「ジューダ!?」

 突然のジューダの行動に、振り向き驚きの声を上げるはサウライナス。しかしジューダはその声を背中に聞きつつも構わず駆け。そして先に落ちる12.7mm重機関銃を、その重量を物ともしない様子で掬い上げるように拾い持ち上た。

あんちゃん!?」

 そのジューダに、サウライナスに続き驚く言葉を飛ばしたのは敢日。
 その声を受けながらも、ジューダは拾い上げた重機関銃を手中で探り、少し難儀しながらも持ち構える様子を見せつつ。瓦礫の傍へと駆け戻る。

「私がやる――ッ!」

 そしてその場で。重機関銃をグリップと銃身交換ハンドルをそれぞれの手で持って支え、下げた腰だめの姿勢で構える姿を取り。
 発し上げると同時に、その太い指で押鉄に力を込め――撃ち放った。
 ジューダの手により操作され打ち放たれた12.7mm弾の火線は。その向こう、先にサウライナスが示した、隕石魔法の術者の潜むであろう家屋の上階へと注がれ。その壁を貫通して向こうへと飛び込んだ。

「――!術者の気配が……一つ消えた!」

 それを見、そして一拍置いて。驚き、そして知らせるようにサウライナスが言葉を上げる。それはすなわち今のジューダの行った射撃が、潜む隕石魔法の術者の一体を仕留めた事の証明であった。

「マジかッ」

 モンスターを相手取る戦闘行動を片手間に続けつつも、それを見ていた敢日からも驚く色の声が上がる。
 それはジューダが術者を仕留めた事はもちろん。重量38kgを越える12.7mm重機関銃M2を、オーク特有の体躯をもって単身で支え構え、見事に取り扱って見せた事に対する感嘆のものであった。

「サウライナス、次をッ!」

 そんなジューダ当人は、その厳つい顔に真剣な色を作りながら、サウライナスに続く敵の術者の位置を求める。

「ッ!次は――今の二軒奥ッ、その一階ッ!」

 それを受けたサウライナスは、ハッとする色を見せ。そして一瞬意識を集中する姿を見せた後に、次なる目標の位置情報を発して知らせた。
 情報を受けたジューダはすかさず身を捻りその向きを変え、重機関銃の銃口を指示された建物へと向け――再び押鉄に力を込め、撃ち放った。
 撃発の半端でない反動が発生するが、ジューダはその体躯をもってそれを受け止め、荒ぶる重機関銃を支えて見せる。そして撃ち放たれた火線はまた、指示された建物へと叩き込まれた。

「消えたッ。次――右側ッ、四軒目の二階!」

 サウライナスはまた術師の気配の現象を感じ取り、そして間髪入れずにまたさらなる術師の潜む位置を告げる。
 またそれを受け、ジューダは姿勢を変え、重機関銃を巧みに操り射撃。指示された建物へ、銃火を叩き込んだ。

「うん、消えた。次を――」
あんちゃんッ!左ッ!」

 またサウライナスが気配の消失現象を感じ取り、そして次の標的の位置を示し発想とうる。しかし、それを遮り敢日の荒げた声が上がったのその時だ。
 考える前に、ジューダは示されたその方向へ反射で視線を向ける。

「ッ!」

 その先、ほぼ眼前の僅か数mに見えたのは、ジューダに向かって突っ込んでくる一体の敵性オーク。それは敢日らの僅かな装填行動の、そしてカバー範囲の隙を突いて肉薄して来たもの。

「オラァァァッ!」

 そして一瞬後には、その敵性オークはジューダとのリーチの届く距離まで迫り。そして得物である大斧を、荒げる声と共に振り上げジューダへと襲い掛かった。

「――ギェァッ!?」

 しかし直後瞬間。それを受け防ごうと身構えたジューダの前で、その敵性オークは一転濁った悲鳴を上げ。そしてジューダの前から吹っ飛び消えた。

「邪魔をするな」

 そしてジューダが驚きつつ見れば、その横にはヤクザ蹴りを放った直後の姿勢の、制刻の姿が在った。
 敵性オークに肉薄の隙こそ与えたが、制刻はそこからすぐさま対応即応。ジューダへ襲い掛かった敵性オークを、蹴飛ばし退けて見せたのだ。

「クェッ――」

 蹴飛ばされたオークは、そこへ続く動作で踏み込んだ制刻に頭を踏み抜かれ、首の骨をへし折られて、妙な悲鳴を上げて絶命。
 その制刻からそのままジューダに向けて。その歪で禍々しい眼で、促すように視線が流し寄こされる。

「!」

 少し驚いていたジューダは、だがすぐにその意図を汲み取る。

「……っ!最後ッ――砦の最上階ッ!」

 同時に、ジューダを襲った事態に視線と意識を持って行かれていたサウライナスが。その意識を取り直し、最期に残る敵術者の位置を伝える。
 見れば崩壊した砦の最上階。壁を失いその内部フロア構造が剥き出しになって見えるそこに。事態に焦れ狼狽えたのか、そこに身を晒して立ち、こちらに手を翳す様子の一体の術者らしきオークが見える。おそらくこちらに向けて魔法現象を発動させ攻撃しようとする姿。
 しかしそれを行わせるよりも前に、ジューダが構え向けた重機関銃が火を噴いた。
 火線、銃弾群は砦の最上階に叩き込まれ。そして術者らしきオークの身を、貫き千切った。そして術者のオークの体は支えを失いフロアから落下、地面にその身をグシャリと落とす姿を見せた。

「――うん、気配は全部消えた……!」
「隕石は……収まったか……ッ?」

 サウライナスからは伝える言葉が上がり、敢日は視線を上げて、それ以上の隕石魔法の攻撃が無いかを伺う。

「嘘ダろ……!術師の先生がヤらレたぞ!」
「ミティアの助けが無くなっチまったのか……!?」

 それにご丁寧に答えてくれるかのように、近場に迫っていた敵性オーク始めモンスター達から、そんな声が上がり届いた。
 あからさまな狼狽の様子を見せるモンスター達、どうにも隕石魔法が今の抵抗の頼りだったのであろう。そしてモンスター達は一体二体と背を向けだし、それは全体に伝播。敗走を開始。

「ヒ――ギャッ!?」
「ビェッ!?」

 しかし当たり前だが、そんなモンスター達の背を襲ったのは、装甲小隊からの各種銃砲火であった。
 各個射撃や機銃掃射が、逃げるモンスター達の背に喰らいつき。装甲戦闘車の機関砲が飛び込みモンスターを弾き。さらには後方に配置している迫撃砲班からの砲撃が、固まっているモンスター達へと落ちて炸裂、巻き上げた。

「押し上げろ、潰せ。後退再編成をさせるなッ」

 そして峨奈から、指示命ずる声が上がり響く。
 それに呼応し、各分隊各員は遮蔽物を飛び出して展開。押上げ、攻勢行動を開始した。

「――兄(あん)ちゃん、やるじゃねぇか」

 方や。その光景を一瞥してから、制刻はジューダに向けてそんな言葉を掛けた。それは、今のジューダの機転と戦闘行動を評するものだ。

「スゲェな。そいつは本来は一人で構えて、ましてやマトモに扱えるモンじゃ無いぜ」

 さらに敢日が警戒の意識を保ちつつも。12.7mm重機関銃を一人で扱って、敵を退けるという離れ業を成して見せたジューダに。驚きそして少し囃す色で、評する言葉を掛ける。

「あぁ……すまない。咄嗟に思いつき、見様見真似で断りなく使用してしまった……」

 対するジューダは、少し申し訳なさそうな様子でそんな謝罪の言葉を返す。

「何を謝る事があるよ、ナイスだったぜ」

 そんなジューダに、敢日がまた評する言葉を向ける。

「そいつは、良ければそのまま兄(あん)ちゃんが持ってるといい」

 そして制刻は、ジューダの構える重機関銃を指し示しながら促す。

「いいのか?」
「そいつが、色々有益そうだ。注意点は教える」

 少し戸惑い尋ねるジューダに、制刻は端的に発し肯定。
 そんな制刻等の向こう近くへ。突っ込み退避していた家屋よりまた出て来た89式装甲戦闘車が停止配置。各分隊を援護するために位置した装甲戦闘車は、その砲塔を旋回させて、同軸機関銃の発砲を開始。

「んじゃ、俺等も再開しようぜ」

 それを向こうに見つつ、制刻はジューダ等各々へ促し。自分等も行動を再開した。



「――薩来、それ以上はいい。分隊が出張る」

 89式装甲戦闘車の上、車長用キューポラ上で。髄菩が指示の声を発する。

《了。フフ――》

 それに了解と不気味な呟きが砲手の薩来から寄こされ、唸っていた同軸機関銃の射撃が停止する。
 その変化を聞きつつ、髄菩は視線を眼下の先に向ける。
 そこには讐の指揮の元、押上げ砦へと接近する14分隊の様子が見えた。
 内。携帯放射器射手の藩基が、歩み砦へ距離を詰めつつ。上向きに構えた発射筒のノズルより、炎を数度吹かす姿が目立つ。
 一方、砦側の元に視線を向ければ。ちょうどその出入り口から、複数体のオークが慌て狼狽え、臆しているまでの様子で並び飛び出て来る姿が見えた。
 思慮するまでもなく敗走のそれ。そのオーク達に向けて、ちょうど位置に付いた藩基の携帯放射器が、火炎を盛大に吹いた。
 飛び出て来たオーク達は諸に火炎を浴びせられ、綺麗なまでに包まれる。
 そして火炎放射が止み、そこに現れたのは火達磨になって、阿波踊りのように暴れのたうち回るオーク達。オーク達の野太い声での、しかし高く泣き叫ぶまでの悲鳴が聞こえ届く。

「――ハァッ」

 阿鼻叫喚の後継に、しかしここまで最早散々見て来た光景に。キューポラ上の髄菩は、見飽きたとでも言うように悪態と倦怠感交じりの溜息を吐き。
 同時に、手元に置いておいた折り畳み銃床方の小銃を、取り構える。

「――ギャゥッ」

 そして引き金を引いて発砲音を響かせ。近場の地上、こっそりと這い逃げようとしていたオークを撃ち抜き、悲鳴を上げさせて仕留めた。



 上空を旋回する無人観測機は、装甲小隊が進入し展開する分岐路を捉え映している。展開する各分隊各員や、配置布陣する各装甲戦闘車。そしてそれに追われ逃走を試み、しかし屠られて行くモンスター達の姿が、高い上空からでも見える。

《――ホロウストーム・イーストより各隊各所。当隊は先一報の敵火点陣地を排除制圧、無力化。現在再編成中、完了次第進行を再開する》

 そこへ、通信上に上がるは装甲小隊、峨奈の声での知らせの言葉。分岐路の砦一帯の制圧を完了し、現在の状況を伝えるもの。

《オープンアーム・コントロールよりホロウストーム・イースト、ならば少し待機せよ。そちらより西方、大通りと思われる町路上に、また多数の敵性部隊を確認している》

 しかしそこへ、差し止める言葉を割り入れたのは、無人観測機の操縦室からの声。
 それと同時に無人観測機のカメラは、角度を動かし変えてその映す先を移動。
 カメラ映像は装甲小隊の居る分岐路より西にスライド。その先でカメラが捉え映したのは、大きな町路だ。
 南北に延び、分岐路から伸びる町路とは合流交差している。明かせばこの町一番の町路、メイン通り。
 そしてしかし現在その上を行進するは、多種多数の無数のモンスター達。
 巨大なマンモス型モンスターのライマクや、大型触手獣が合わせて8~9体。それに隊伍を組んで随伴する、オークやゴブリン、トロルから成るモンスターの部隊がひしめいていた。

《推測中隊、いや大隊規模。このまま直接ぶつかるのは危険と見る、先に航空投射を行う、これより実施する》

 続く操縦室からの説明。それは観測したそれを大きな脅威と判断し、航空攻撃を先行実施する事を伝えるもの。
 無人観測機操縦室はその特性上。砲撃や航空攻撃等の火力投射に関するいくらかの主導、調整の権限役割を与えられていた。

《了解、任せたい。完了まで進行待機する》

 峨奈からは、それを了解する端的な返答が返される。

《ヘヴィメタル各ユニットへ。ホロウストーム・イーストは待機、航空投射に支障なし。そちらは準備よろしいか?》

 続け操縦室は、航空攻撃を実施する当人等である、F-1戦闘機隊へ呼びかける。すでに攻撃実施の旨は前もって伝えられ、現在は調整準備中であった。

《ヘヴィメタル2、シェンカーよりコントロール。こちらユニットは各機準備位置、いつでも進入投射できる》

 そのF-1戦闘機隊からは、代表して二番機の維崎が返答を。準備完了している旨を寄こした。

《了解、微細なタイミングは一任する。開始願う》

 それを受け、操縦室は補足を告げると同時に。要請の言葉、ゴーサインを発し告げた。

《了――》

 二番機の維崎から了解の言葉が寄こされる。
 無人観測機のカメラは、引き続き町路を。その上を蠢くモンスターの軍勢部隊を捉えている。
 そのカメラ映像の下方、方位関係では南東方向より。超高速の飛行隊――F-1戦闘機が飛来し現れ映ったのはその瞬間であった。
 緩降下の低高度で飛来したF-1戦闘機は、町路上空をX字を描くように交差通過。一瞬の後にはカメラの上方、画面外へと飛び抜け消える。
 ――直後。画面上でいくつもの爆炎が上がった。町路が、そして蠢くモンスターの軍勢が、いくつもの爆炎に包まれた。
 F-1戦闘機が進入から投下した、多数発のMk.82航空爆弾がそれを成し、死の炸裂を表現したのだ。
 程なくして爆炎は微かにだが晴れ、町路上の様子が露になり映像に映る。
 見えるは損壊四散し、あるいはまる焼けとなり沈んだ、ライマクや大型触手獣達。そして散らばる無数のモンスター達の死骸。そして、奇跡的に一撃を逃れ、しかしパニックに陥り逃げまどうモンスター達であった。

《ヘヴィメタルへ。効果を確認、打撃多大。しかし残敵を多数視認、もう一度再進入からの再攻撃が必要と見る。可能か?》

 逃げまどう多数のモンスター達を画面上に見て。操縦室が判断要請したのは、容赦の無いさらなる火力投射。

《ヘヴィメタル1、ヘイワードォ、了ォ。俺がヤらぁッ、突っ込むッ》

 それに独特な荒々しい声色で回答するは、一番機の推噴。
 一番機は一撃目の撃ち零しをカバーすべく、前もって別動準備状態を取っていた。

《2、シェンカー了解。こちらも旋回、再進入しての再攻撃を行う》

 続けシェンカーからも、態勢を立て直しての再攻撃を実施する旨が返される。
 そして一拍置き、今度はカメラ映像の左下。方位で言えば南側より、F-1戦闘機が飛来出現。
 推噴の操る一番機。町路を沿いなぞるように低空で進入して来たF-1戦闘機は、搭載のJM61A1 20mmバルカン砲を唸らせながら、高速で通過。
 飛び抜けざまに吐き出し叩き込まれた20mm機関砲弾の掃射は、町路上でパニックを起こし逃げ惑うモンスター達に問答無用で襲い掛かり。文字通り薙ぎ倒し、弾き、千切り四散させた。
 さらに追い打ちを掛けるように、一番機と同一の方向より二機目が。旋回を終えて再進入して来た、維崎の操る二番機が突入飛来。一番機と同様にバルカン砲を唸らせ、町路上の、奇跡的に無事であった残り僅かなモンスター達に止めの機関砲掃射を浴びせ。その奇跡を刈り取り没収するかのように、飛び抜けて行った。

《――ヘヴィメタル、投射効果を確認。敵部隊の大半の無力化沈黙を見止めた》

 無人観測機の捉え映す町路上には、先と一変。大小無数のモンスター達であった死骸肉片で埋め尽くされていた。わずかに残り動くものと言えば、死ぬことが敵わず瀕死の体で彷徨いうろつくモンスター達のみ。
 それを映像上に見止め、操縦室は投射打撃の効果確認を判断した。

《装甲小隊の進行の障害レベルに無し、これ以上は不要と見止める。ヘヴィメタル各機は、別途指示あるまでまた上空監視、遊撃願う》
《了解。要請の態勢に移行する》

 これ以上の攻撃の必要は必要ないと判断し、操縦室は戦闘機隊にその旨を伝え、指示を送る。それに二番機の維崎の声で了解の返答が寄こされる。

《ホロウストーム・イースト。西方、そちらの進行方向上の脅威は排除された。進行に重大な障害無し》
《了解、飛行隊に感謝する。こちらは再編成を完了している、進行を再開する。終ワリ》

 操縦室から今度は装甲小隊に向けて、進路先の敵部隊が排除無力化された事が知らさせる。それに峨奈の声で、了解と礼の声が上がり寄こされ、同時に装甲小隊側の準備は完了している報が上がる。
 そして無人観測機のカメラが再びスライドして、先の分岐路に戻り移せば。再編成を完了した装甲小隊の、その隊員等や装甲戦闘車が再び動き始める様子が見えた――
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