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第一章《滴る絵》
7、漆原さんの違和感
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「そういえば、何か聞きたいことがあったんじゃなかった?」
思い出したように社長がいい、私はハッとした。
そうだった!
今日漆原さんに付いてきた最大の目的をすっかり忘れていた。
「馬鹿め!」と言うヨキの声が聞こえる気がするわ。
「そ、そうなんです!あの絵の作者の情報が、何かあればと思いまして……何でもいいんですけど……」
尋ねたものの、答えはもうわかっていた。
社長はあの絵に対して、興味もなければ関心もない。
これでは、作者なんてわかるわけないし、ましてや、絵の場所なんて知っているはずがない。
一応聞いてみたのは「忘れずに聞きましたよ?」という私の免罪符のようなものだ。
「あの絵について?すまないけどあまり知らなくてね」
「ですよねー……」
「あ、でも……そういえば妻が言っていたな。亡くなった遠縁の人は、旧姓が四宮っていう元華族様だったって」
「えっ!」
いきなり出てきた重要情報に、私は身を乗り出した。
「全く興味がなかったから今まで忘れていたよ。別に妻の遠縁の人のことなんて話されても、ね?」
社長はハハッと笑いながら、続けて言った。
「それなのに、妻はやたらとその話をしたがるんだ。四宮さんはどうとか、どこに住んでいたとか……」
「どこに住んでいたんですか!?」
これは、かなり有力な情報になるのでは!?
と、私は更に身を乗り出し、社長との距離を詰めた。
「い、いや。だから……覚えてないよ。興味ないから」
「あー……そうですか」
乗り出した身を戻しつつ、心の中で舌打ちをした。
身重でナイーブになっている妻の話を聞いてあげないなんて、夫としてどうなのよ!
と、本件とは関係ない悪口も添えて。
すると、私の据わった目を見て慌てた社長は、すかさず代替案を出してきた。
「ど、どうしても知りたいなら、妻に聞くといいよ」
「あっ!なるほど、そうですね!聞いてみてもいいですか?」
それもそうだ。
興味のない人間にいくら聞いても無駄である。
「う、うん。家の方にいると思うから行ってみればいい。どっちにしろ漆原くんも、彩子に会いに行くだろう?」
「ええ。奥様に判を頂かなくてはならないので。では、円山さんも御一緒に」
漆原さんはにっこり笑って私を見た。
それから社長室を出て、私達は舘野社長の自宅に向かった。
漆原さんは売却の段取りで何度か訪問したことがあるらしく、自宅まではそんなにかからないことを教えてくれた。
「円山さん、どう思います?」
「は、はぃぃ?」
突然の問いかけに、私は間抜けな声を出した。
どう思う?も何も、質問の意味がわからない。
「実はね、舘野建設、経営が危なかったんですよ」
「え……えっ?そうなんですか?」
「はい。でも、奥さんの遠縁の資産家夫人が亡くなってから、会社が突然持ち直して……」
その話を聞いて、漆原さんが眉根を寄せた原因を理解した。
「ひょっとして、そこに事件性があると思ってるんですか?たとえば……たとえばですよ?会社を立て直す為に、資産家夫人を殺害し遺産を横取り、とか?」
自分で言って怖くなった。
今私とヨキは絵の謎について調べている。
その件に殺人事件が絡んでいるとなると、ヨキの言う残滓には恨みや憎しみが籠っているのでは?
絵の中に入れること自体オカルトなのに、更なるオカルトは勘弁して貰いたい。
私は呪われたくはないのよっ!
「そこまでは勘繰ってませんけど。実際調査しましたがクリーンなものです。資産家夫人……樫村八重さんは末期ガンで……最後は病院で亡くなってますし」
「えっ!?」
いきなり殺人事件の線は消えた。
つまり、更なるオカルトはない。
私は少しホッとした。
「でも、どうしても、何かあるのかな?って考えてしまうんですよねー」
「いきなり羽振りが良くなったら、誰だって疑いたくなりますよね。でも、やっぱり考え過ぎですよ!」
「そうですよね?うん。そうだ。うん」
漆原さんは、自分を納得させるように何度か頷くと、運転に集中した。
舘野建設を出てしばらくすると、車は高台の住宅地へとやってきた。
そこは敷地の広い閑静な住宅街で、上流層が住んでいる所のようだ。
「着きました」
車が止まった家は、白い可愛い家で、表札に舘野と書いてある。
漆原さんと私は、車を降りてインターフォンを鳴らした。
しかし、二度三度と鳴らしてみても、中からは物音一つしない。
「あれ?お留守かな?」
漆原さんは併設されたガレージを覗き込んだ。
「軽自動車がないな。お出かけみたいだ」
「大きなお腹で運転を!?大丈夫なんですか?」
「いや、僕に聞かれても……逆に円山さんに聞きたいくらいなんですが」
漆原さんは、困ったようにこちらを見た。
いや、私に聞かれても困る。
妊婦になったことはないし、その辺の知識は皆無だ。
「経験ないのでわかりませんけど……でも、いないというのは事実ですから、出直した方が良さそうですね」
「そうですね。あー、失敗した!電話してから来るべきでしたね」
漆原さんは頭を抱えた。
それもそうだ。
パーフェクト営業職にあるまじき失態ですね?
普段ならそうツッコミをいれるところだけど、今回は便乗しただけなので余計なことは言わない。
「じゃあ今日は帰りましょう。次はちゃんとアポとりますから。是非また円山さんもご一緒に!」
「はい。よろしくお願いします」
最初よりも打ち解けてきた漆原さんに、私はにっこり微笑んだ。
思い出したように社長がいい、私はハッとした。
そうだった!
今日漆原さんに付いてきた最大の目的をすっかり忘れていた。
「馬鹿め!」と言うヨキの声が聞こえる気がするわ。
「そ、そうなんです!あの絵の作者の情報が、何かあればと思いまして……何でもいいんですけど……」
尋ねたものの、答えはもうわかっていた。
社長はあの絵に対して、興味もなければ関心もない。
これでは、作者なんてわかるわけないし、ましてや、絵の場所なんて知っているはずがない。
一応聞いてみたのは「忘れずに聞きましたよ?」という私の免罪符のようなものだ。
「あの絵について?すまないけどあまり知らなくてね」
「ですよねー……」
「あ、でも……そういえば妻が言っていたな。亡くなった遠縁の人は、旧姓が四宮っていう元華族様だったって」
「えっ!」
いきなり出てきた重要情報に、私は身を乗り出した。
「全く興味がなかったから今まで忘れていたよ。別に妻の遠縁の人のことなんて話されても、ね?」
社長はハハッと笑いながら、続けて言った。
「それなのに、妻はやたらとその話をしたがるんだ。四宮さんはどうとか、どこに住んでいたとか……」
「どこに住んでいたんですか!?」
これは、かなり有力な情報になるのでは!?
と、私は更に身を乗り出し、社長との距離を詰めた。
「い、いや。だから……覚えてないよ。興味ないから」
「あー……そうですか」
乗り出した身を戻しつつ、心の中で舌打ちをした。
身重でナイーブになっている妻の話を聞いてあげないなんて、夫としてどうなのよ!
と、本件とは関係ない悪口も添えて。
すると、私の据わった目を見て慌てた社長は、すかさず代替案を出してきた。
「ど、どうしても知りたいなら、妻に聞くといいよ」
「あっ!なるほど、そうですね!聞いてみてもいいですか?」
それもそうだ。
興味のない人間にいくら聞いても無駄である。
「う、うん。家の方にいると思うから行ってみればいい。どっちにしろ漆原くんも、彩子に会いに行くだろう?」
「ええ。奥様に判を頂かなくてはならないので。では、円山さんも御一緒に」
漆原さんはにっこり笑って私を見た。
それから社長室を出て、私達は舘野社長の自宅に向かった。
漆原さんは売却の段取りで何度か訪問したことがあるらしく、自宅まではそんなにかからないことを教えてくれた。
「円山さん、どう思います?」
「は、はぃぃ?」
突然の問いかけに、私は間抜けな声を出した。
どう思う?も何も、質問の意味がわからない。
「実はね、舘野建設、経営が危なかったんですよ」
「え……えっ?そうなんですか?」
「はい。でも、奥さんの遠縁の資産家夫人が亡くなってから、会社が突然持ち直して……」
その話を聞いて、漆原さんが眉根を寄せた原因を理解した。
「ひょっとして、そこに事件性があると思ってるんですか?たとえば……たとえばですよ?会社を立て直す為に、資産家夫人を殺害し遺産を横取り、とか?」
自分で言って怖くなった。
今私とヨキは絵の謎について調べている。
その件に殺人事件が絡んでいるとなると、ヨキの言う残滓には恨みや憎しみが籠っているのでは?
絵の中に入れること自体オカルトなのに、更なるオカルトは勘弁して貰いたい。
私は呪われたくはないのよっ!
「そこまでは勘繰ってませんけど。実際調査しましたがクリーンなものです。資産家夫人……樫村八重さんは末期ガンで……最後は病院で亡くなってますし」
「えっ!?」
いきなり殺人事件の線は消えた。
つまり、更なるオカルトはない。
私は少しホッとした。
「でも、どうしても、何かあるのかな?って考えてしまうんですよねー」
「いきなり羽振りが良くなったら、誰だって疑いたくなりますよね。でも、やっぱり考え過ぎですよ!」
「そうですよね?うん。そうだ。うん」
漆原さんは、自分を納得させるように何度か頷くと、運転に集中した。
舘野建設を出てしばらくすると、車は高台の住宅地へとやってきた。
そこは敷地の広い閑静な住宅街で、上流層が住んでいる所のようだ。
「着きました」
車が止まった家は、白い可愛い家で、表札に舘野と書いてある。
漆原さんと私は、車を降りてインターフォンを鳴らした。
しかし、二度三度と鳴らしてみても、中からは物音一つしない。
「あれ?お留守かな?」
漆原さんは併設されたガレージを覗き込んだ。
「軽自動車がないな。お出かけみたいだ」
「大きなお腹で運転を!?大丈夫なんですか?」
「いや、僕に聞かれても……逆に円山さんに聞きたいくらいなんですが」
漆原さんは、困ったようにこちらを見た。
いや、私に聞かれても困る。
妊婦になったことはないし、その辺の知識は皆無だ。
「経験ないのでわかりませんけど……でも、いないというのは事実ですから、出直した方が良さそうですね」
「そうですね。あー、失敗した!電話してから来るべきでしたね」
漆原さんは頭を抱えた。
それもそうだ。
パーフェクト営業職にあるまじき失態ですね?
普段ならそうツッコミをいれるところだけど、今回は便乗しただけなので余計なことは言わない。
「じゃあ今日は帰りましょう。次はちゃんとアポとりますから。是非また円山さんもご一緒に!」
「はい。よろしくお願いします」
最初よりも打ち解けてきた漆原さんに、私はにっこり微笑んだ。
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