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第二章 めたもるふぉーぜ!
⑬三匹の水の者
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「それで……店はどう?順調?」
「えっ!……あ、うん。順調よ。常連さんも来てくれるし、新規のお客さんも来てくれて」
「豆の焙煎は問題ない?」
「大丈夫。今のところ焦がしてないから」
そう答えると母は楽しそうに笑った。
何を思って笑ったのか。
それは簡単に想像出来た。
焙煎室で豆を焦がして慌てる父の姿だろう。
私もその姿には覚えがある。
きっと母にとっても、忘れ難い思い出なのだ。
「ごめんね……あなたにも迷惑かけて……仕事まで辞めさせてしまって……」
急にしんみりして母が言った。
「お母さん……謝らないでよ」
「だって……向こうに彼氏がいたりとかしたら申し訳ないじゃない?」
あれ……なんだか雲行きが怪しいぞ?これ、謝るフリして探ってるんじゃあるまいな?
と、思ったのは間違いではなかった。
「お父さんも孫を見たかったでしょうね……」
「ちょっと……それ、どういう意味?」
「誰かいい人と結婚して、出来れば店を一緒にやってくれると安心なんだけどなぁ……って意味」
母はもう隠そうともしない。
こういう話になると、体調が悪くて入院している人には見えないくらい覇気が溢れるのはどうしてだ。
だけど、どう覇気を溢れさせても、いい人はいない。
……いないものはいないのです、母よ。
「お母さん。あのね……」
私が面倒臭いなぁと思いつつ説明しようとした時、突然母が病室の扉に目を向けた。
「ハッ!!……妖気を感じる……」
「は……?」
「生臭い……これは、水の者。三匹か……」
母は眼光鋭く扉を睨み拳を握った。
「お母さん?ええと、何?扉?誰かいるの?」
私はカーテンを開け、母の「待って!」という声を背に扉を開けた。
……するとそこには、小さく座った(気がするだけの)一之丞達が団子状態になって聞き耳を立てていた。
「あっ!」
「えっ?」
「きゃっ!」
扉がいきなり開いたことに驚き、彼らは短く叫んだ。
妖気……生臭い……水の者……。
ああ、そうか。母が感じ取ったのは、カッパの妖気だったのか。
でも妖気を感じとるなんて、うちの母親ってほんと何者なんだろう。
「何してるのよ……」
私は怒気を孕んで言った。
「うっ、うむ。あの。すまぬ」
「すまぬじゃわかんない!待ってるって言ったでしょうが!」
「すまぬっ……」
一之丞は大きな体を屈めて頭を垂れた。
その様子を見て、次郎太と三左が兄を助けようと身を乗り出した。
「サユリさん!聞いて。待ってるって言ったけど、やっぱり一度挨拶をした方がいいんじゃないか、って話になってね?」
「そうなんだよぅ。一応置いてもらってるんだから、お礼をって兄さまが……」
必死で訴える兄弟の後ろで、一之丞は黙ったまま口を真一文字に結んでいる。
「そうだったの。一之丞、それ、先に言えばいいのに……」
「……いや、約束を違えたことは間違いないのでな……言い訳するのもどうかと思って……」
相変わらずクソ真面目な。
でも、一之丞のこういう真っ直ぐなところは嫌いじゃない。
むしろ好きかもしれない。
「ちょっとー?サユリ?」
病室から母が尋ね、私は今の状況をどう説明しようか悩んだ。
これ、ちょっと困ったことになっているわよね?
「は、はぁい」
一応返事を返しておく。
すると、母が鋭く切り返してきた。
「ねぇ……ひょっとして、その妖気の持ち主と知り合いかしら?」
なんと答えればいいのか。
知り合いなのだろうか?
居候……カッパの居候?
どう答えても、母が混乱するのは間違いない気がする。
「サユリ?……連れてきて」
「へ?」
「その水の者。どうも敵意は無さそうだし」
なんでわかるの!?
怪訝な顔をした私の後ろでは、一之丞達が立ち上がり、スッと姿勢を正していた。
それを見て、私はカーテンを開けた。
母は身構えることもなく、真っ直ぐ私の背後の3人を見つめた。
視線はまず三左、そして次郎太へ。
そして一之丞へと目を向けたその時、母は一言呟いた。
「え?ダビデ?」
と。
「えっ!……あ、うん。順調よ。常連さんも来てくれるし、新規のお客さんも来てくれて」
「豆の焙煎は問題ない?」
「大丈夫。今のところ焦がしてないから」
そう答えると母は楽しそうに笑った。
何を思って笑ったのか。
それは簡単に想像出来た。
焙煎室で豆を焦がして慌てる父の姿だろう。
私もその姿には覚えがある。
きっと母にとっても、忘れ難い思い出なのだ。
「ごめんね……あなたにも迷惑かけて……仕事まで辞めさせてしまって……」
急にしんみりして母が言った。
「お母さん……謝らないでよ」
「だって……向こうに彼氏がいたりとかしたら申し訳ないじゃない?」
あれ……なんだか雲行きが怪しいぞ?これ、謝るフリして探ってるんじゃあるまいな?
と、思ったのは間違いではなかった。
「お父さんも孫を見たかったでしょうね……」
「ちょっと……それ、どういう意味?」
「誰かいい人と結婚して、出来れば店を一緒にやってくれると安心なんだけどなぁ……って意味」
母はもう隠そうともしない。
こういう話になると、体調が悪くて入院している人には見えないくらい覇気が溢れるのはどうしてだ。
だけど、どう覇気を溢れさせても、いい人はいない。
……いないものはいないのです、母よ。
「お母さん。あのね……」
私が面倒臭いなぁと思いつつ説明しようとした時、突然母が病室の扉に目を向けた。
「ハッ!!……妖気を感じる……」
「は……?」
「生臭い……これは、水の者。三匹か……」
母は眼光鋭く扉を睨み拳を握った。
「お母さん?ええと、何?扉?誰かいるの?」
私はカーテンを開け、母の「待って!」という声を背に扉を開けた。
……するとそこには、小さく座った(気がするだけの)一之丞達が団子状態になって聞き耳を立てていた。
「あっ!」
「えっ?」
「きゃっ!」
扉がいきなり開いたことに驚き、彼らは短く叫んだ。
妖気……生臭い……水の者……。
ああ、そうか。母が感じ取ったのは、カッパの妖気だったのか。
でも妖気を感じとるなんて、うちの母親ってほんと何者なんだろう。
「何してるのよ……」
私は怒気を孕んで言った。
「うっ、うむ。あの。すまぬ」
「すまぬじゃわかんない!待ってるって言ったでしょうが!」
「すまぬっ……」
一之丞は大きな体を屈めて頭を垂れた。
その様子を見て、次郎太と三左が兄を助けようと身を乗り出した。
「サユリさん!聞いて。待ってるって言ったけど、やっぱり一度挨拶をした方がいいんじゃないか、って話になってね?」
「そうなんだよぅ。一応置いてもらってるんだから、お礼をって兄さまが……」
必死で訴える兄弟の後ろで、一之丞は黙ったまま口を真一文字に結んでいる。
「そうだったの。一之丞、それ、先に言えばいいのに……」
「……いや、約束を違えたことは間違いないのでな……言い訳するのもどうかと思って……」
相変わらずクソ真面目な。
でも、一之丞のこういう真っ直ぐなところは嫌いじゃない。
むしろ好きかもしれない。
「ちょっとー?サユリ?」
病室から母が尋ね、私は今の状況をどう説明しようか悩んだ。
これ、ちょっと困ったことになっているわよね?
「は、はぁい」
一応返事を返しておく。
すると、母が鋭く切り返してきた。
「ねぇ……ひょっとして、その妖気の持ち主と知り合いかしら?」
なんと答えればいいのか。
知り合いなのだろうか?
居候……カッパの居候?
どう答えても、母が混乱するのは間違いない気がする。
「サユリ?……連れてきて」
「へ?」
「その水の者。どうも敵意は無さそうだし」
なんでわかるの!?
怪訝な顔をした私の後ろでは、一之丞達が立ち上がり、スッと姿勢を正していた。
それを見て、私はカーテンを開けた。
母は身構えることもなく、真っ直ぐ私の背後の3人を見つめた。
視線はまず三左、そして次郎太へ。
そして一之丞へと目を向けたその時、母は一言呟いた。
「え?ダビデ?」
と。
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