純喫茶カッパーロ

藤 実花

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第三章 怪・事件

①パン屋の息子とカッパ達

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次の日、石原家には微妙な雰囲気が漂っていた。
病院から帰る間、一之丞はだんまりを決め込み、次郎太や三左が話しかけても「うむ」しか言わなかった。
「夕飯のきゅうり貰ってもいい?」という三左の問いかけにも「うむ」と返すという始末。
それから一之丞は人型のままフラリと何処かへ出掛け、その夜は帰って来なかったのだ。
朝になって帰って来たけど、心ここにあらずで空気の抜けた風船のようになっている。
これは、今日は使い物にならないな。
ぼんやりとした一之丞を自室に残し、私は次郎太と三左を連れちょっと早めに店の準備を始めた。


開店準備が整って、営業中の看板を出している時、店の駐車場に白いバンが止まるのが見えた。

「石原!おはよう」

バンから降りて叫んだのは木本忠志、幼馴染みの同級生だ。
彼は麓のパン屋の息子で、4年くらい前からその店を継いでいる。
カッパーロでは、開店当初から「ベーカリーKIMOTO」の食パンをモーニングに使用していて、注文するとこうやって届けてくれるのだ。
忠志はバンのバッグドアを開け、食パンが三本入ったコンテナを抱えてやって来た。

「おはよう。忠志。ありがとね」

そう言って店の入り口ドアを開ける。
忠志は「おう」と言って入ってくると、カウンターにコンテナを置いた。

「わぁ、おっきいパンだねぇ?」

「わっ!!え?アンタ、だれ?」

背後から三左に話かけられて、忠志はカウンターに乗り上げるように後ずさった。
あれ?パン屋には三左や次郎太の噂は届いてないのかな?
彼の様子を見ると、カッパーロの従業員のことは知らなかったように見える。

「僕、三左!サンちゃんでいいよ?」

三左はいい慣れた台詞で自己紹介した。

「サ、サンちゃん?……は?石原、こいつ誰だよ?」

忠志は訝しげな顔をすると、私に向かって問いかけた。
うん、普通はそうだよね。
突然「僕、三左!」と言われても、加藤さんじゃあるまいし、混乱するに決まってる。

「うちの従業員その3。あと男の子が2人いるのよ。えーっと、次郎太ぁ!?どこー?」

トイレに向かって叫ぶと、ゴトンガタンという音がして次郎太が出てきた。

「なんだい?サユリさん」

髪を鬱陶しそうにかきあげながら、いつもの如くアンニュイなご登場である。

「はい、これ従業員その2。次郎太」

と言って忠志に紹介し、

「こちら、パン屋の木本さん。ちょくちょく来るから覚えてね?」

続いて次郎太と三左に忠志を紹介した。

「へぇ……2人とも古風な名前のわりにド派手な顔だな……」

忠志はつっけんどんに言った。
昔から、そんなに愛想が良くない彼は、当たり障りのない言葉を選べない。
良くも悪くも正直に物を言うので、誤解されることも多かった。

次郎太と三左は、忠志のつっけんどんな物言いにも全く動じず、穏やかに笑っている。
さすが、何百年も生きてる妖怪。
いちいちこんな下らないことで、腹を立てたりしないんだ、と、尊敬の眼差しで2人を見た私は、次の瞬間凍りついた。
三左は手に持った布巾を(笑顔で)ギリギリと絞め、次郎太は小さく(笑顔で)舌打ちをしたのだ……。

「じ、じゃあ、2人とも、店のお掃除宜しくね」

シャァーって飛びかからない内に、私は次郎太と三左を追い払った。
彼らは穏やかな仮面を張り付けたまま、微妙な動きで散っていく。
その姿を見ながら忠志が言った。

「不思議なヤツらだな……外国の人なのか?」

「そ、そうなの。遊びに来てて……」

忠志は会話を交わしつつ、コンテナからビニール袋に入ったパンを厨房の方に移した。

「ホームステイ?お母さんまだ入院中なのに大丈夫なのか?」

「うん……」

少し責めるように言う口調に、あーこれは心配されてるなぁ、と思った。
出来のいい学級委員だった忠志と、どんくさくて呑気な私。
小学生の頃からの関係は今でも続き、何かにつけて彼は私の心配をする。
きっと忠志の中では、まだあの頃の私のままなんだろう。

「あと1人いるんだろ?」

「え?」

「従業員。あ、もしかしてこの2人兄妹か?似てるし」

忠志は店内でテーブルを拭く三左と、ガラスの一輪挿しに花を生ける次郎太を振り返った。

「う、うん、そう。兄弟でね……」

「ふぅん。でもなぁ、女の子が1人いるとはいえ他に男が2人もいると……」

「ん?」

「え?何?」

ビックリしたような忠志を見ながら、私は彼が勘違いをしていることを知った。
三左の性別を女だと思っている!!
確かに、見た目はガッツリ女だけど、あれはちゃんと男だ。
いわゆる『男の娘』と言うやつである。
私はちゃんとお風呂でそれを見たんだから……あわわ……思い出してしまった。
顔を赤くしながら視点の定まらない私を、忠志が怪しそうに凝視する。
いかん、こいつをなんとか追い返さなければ……。
でも、何も良い手は浮かばない。
どんどん視線が厳しくなる忠志の前で、私は蛇に睨まれた蛙のようになっている。

厨房の中で暫く微妙な空気が流れ、たまらず私が言葉を発しようとした時、トントンと階段を下る音が響いて来た。























    
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