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第六章 神社巡り
①一之丞、熱を出す
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銅山から帰ってきた次の日、私は早速浅川神社の宮司さんと湯ヶ浦神社の祖父に連絡を取り付けた。
もちろん水神の玉の情報を得るためである。
豆狸達の話にあった、水神様と四尾に関する古い資料を探す、それが一番の近道だと感じたからだ。
幸いどちらの神社にも大きな神事は入っておらず、カッパーロ定休日に宮司と祖父に会えることになっていた。
約束の定休日は明日。
銅山での疲れもなんのその、一之丞達は今日も変わらず喫茶店で働いている。
今はちょうどランチ前でお客さんが途切れた時間だ。
いつもこの時間に一之丞は日替わりスイーツを作るのだけど、今日は少しだるそうに生クリームを混ぜている。
それでも、ファビュラスな顔面は美しさを損なわない。
逆にその気だるさが色っぽく、こっちが赤面してしまいそうで、私は目を背けた。
が!その時あることに気付いたのである。
「一之丞!?オーブンのスイッチが入ってないけど?」
スポンジ生地はだいぶ前からオーブンに入っていたけど、全く膨らんでない。
そりゃそうだ、スイッチが入ってないんだから!
いつもなら生地が焼き上がる時間に合わせて生クリームを混ぜる一之丞なのに、どうやら今日は何かがおかしい。
「……へ?……はっ!す、すまぬ。私としたことが!」
「どうしたの?らしくないね?疲れが溜まった?それとも悩み事?」
近寄りながら尋ねると、一之丞はカッと顔を赤くした。
これは……。
熱があるんじゃない!?
「ちょっと!!調子悪いの!?」
駆け寄りおでこに手を当てようと背伸びをした。
だけど、悲しいかなこの身長差。
150センチちょうどしかない私は、体を逸らされた一之丞のおでこに、全く手が届かなかった。
「……避けないでよね……」
空しく宙を切った手が恥ずかしく、拗ねたように言うと、一之丞はまたいつものようにすまぬ!と繰り返す。
すまぬ、ではすまない。
体調不良の従業員を働かせることは雇用主として出来ないのだ。
「調子が悪いなら休んで?店は次郎太も三左もいるし大丈夫だから」
「いや、違うのだ!大丈夫であるっ!心配無用……」
真っ赤な顔をして叫んだ一之丞は、グラッと体をよろめかせた。
「あぶないっ!」
咄嗟に支えようとした私は、一之丞の体に押し潰される形になり倒れ込んでしまった。
どうして自分の倍ほどもある体を、支えられると思ったのか……。
悔やんでみても後の祭り。
漬け物石に乗っかられた茄子かきゅうりの如く、私は身動ぎ一つ出来なかった。
「おーい、一之丞ーー?起きて?」
私は彼の腕を掴みガクガクと揺すってみた。
この体勢はいろいろとまずい。
何がまずいって、イグナティオスに押し倒されている気がするからだ!
こんな状況にも拘わらず、私の心臓はバクバクと煩く、それが一之丞にばれないかと心配した。
だけど、その心配はなかった。
ぐったりとした一之丞は、そのまま意識をなくしたのかピクリともしない。
ただその体からは燃えるような熱を感じた。
熱がある、と思ったのは間違いじゃなかった。
早く2階で寝させないと……。
そう思っても、うんともすんとも言わない漬け物石をどうやって退ければいいのかわからない。
考えを巡らせていると、厨房のただならぬ気配を感じ取った三左がフロアから顔を覗かせた。
「どうしたのぉ?問題発生?」
間延びのする声で問いかけた三左は、私達を見てすぐに異常事態に気付いた。
「キャーーー!……兄さまがぁ!兄さまがーサユリちゃんを襲ってるぅ!」
「違う違う!よく見て、一之丞が倒れたのっ!」
必死に訴えると、三左はジリジリと近付いて、一之丞を人差し指でつついた。
「あちゃー……高熱だねぇ。もともと僕たち熱には弱いんだよねー」
何の反応も示さない一之丞を見て、三左は困ったように呟くと、フロアの次郎太に大声で助けを求めた。
「次郎兄ーー!兄さまが倒れたよぅ!」
「え?兄者がどうしたって……?」
フロアで片付けをしていた次郎太はすぐに厨房を覗きこんだ……が!中の様子を見て、ぴたっと動きを止めた。
「なんてこった……サユリさんが兄者に手込めに……」
「されてないされてない」
私は2回目なので至極冷静に答えた。
全く、どうして兄弟で同じ反応をするんだろう。
いくらなんでもこんな目立つところで押し倒す馬鹿はいない。
半ば呆れながら、私は次郎太と三左にお願いした。
「熱があるみたいだから、2階に連れていってくれない?布団敷くから……」
すると、兄弟は顔を見合わせた。
「うーん。できるかなぁ……ほら、僕たち、兄さまよりもずっと小柄だしぃ」
「俺が頭で、三左が足……だな」
「えーー!!僕が足!?」
「文句言うなよ。頭の方が重いんだぞ?」
次郎太と三左は、一之丞の頭と足、それをどちらが持つかのくだらない争いを始めた。
……どっちでもいいから早くして。
私に掛かる重量は時間が経つ度どんどん増して行っている。
これ以上待ってると、漬け物のようにじんわり体から水分が出てきそう……。
「ど、どうでも……いいがら、早ぐ……動がじでぇー……!」
言い争っていた兄弟はビクッとして口を閉じた。
濁点多めな私のダミ声は、次郎太と三左に底知れぬ恐怖を与えたらしい。
結局次郎太が足、三左が頭を持ち2人は怯えた表情のまま、淡々と一之丞を2階へと運んだのである。
もちろん水神の玉の情報を得るためである。
豆狸達の話にあった、水神様と四尾に関する古い資料を探す、それが一番の近道だと感じたからだ。
幸いどちらの神社にも大きな神事は入っておらず、カッパーロ定休日に宮司と祖父に会えることになっていた。
約束の定休日は明日。
銅山での疲れもなんのその、一之丞達は今日も変わらず喫茶店で働いている。
今はちょうどランチ前でお客さんが途切れた時間だ。
いつもこの時間に一之丞は日替わりスイーツを作るのだけど、今日は少しだるそうに生クリームを混ぜている。
それでも、ファビュラスな顔面は美しさを損なわない。
逆にその気だるさが色っぽく、こっちが赤面してしまいそうで、私は目を背けた。
が!その時あることに気付いたのである。
「一之丞!?オーブンのスイッチが入ってないけど?」
スポンジ生地はだいぶ前からオーブンに入っていたけど、全く膨らんでない。
そりゃそうだ、スイッチが入ってないんだから!
いつもなら生地が焼き上がる時間に合わせて生クリームを混ぜる一之丞なのに、どうやら今日は何かがおかしい。
「……へ?……はっ!す、すまぬ。私としたことが!」
「どうしたの?らしくないね?疲れが溜まった?それとも悩み事?」
近寄りながら尋ねると、一之丞はカッと顔を赤くした。
これは……。
熱があるんじゃない!?
「ちょっと!!調子悪いの!?」
駆け寄りおでこに手を当てようと背伸びをした。
だけど、悲しいかなこの身長差。
150センチちょうどしかない私は、体を逸らされた一之丞のおでこに、全く手が届かなかった。
「……避けないでよね……」
空しく宙を切った手が恥ずかしく、拗ねたように言うと、一之丞はまたいつものようにすまぬ!と繰り返す。
すまぬ、ではすまない。
体調不良の従業員を働かせることは雇用主として出来ないのだ。
「調子が悪いなら休んで?店は次郎太も三左もいるし大丈夫だから」
「いや、違うのだ!大丈夫であるっ!心配無用……」
真っ赤な顔をして叫んだ一之丞は、グラッと体をよろめかせた。
「あぶないっ!」
咄嗟に支えようとした私は、一之丞の体に押し潰される形になり倒れ込んでしまった。
どうして自分の倍ほどもある体を、支えられると思ったのか……。
悔やんでみても後の祭り。
漬け物石に乗っかられた茄子かきゅうりの如く、私は身動ぎ一つ出来なかった。
「おーい、一之丞ーー?起きて?」
私は彼の腕を掴みガクガクと揺すってみた。
この体勢はいろいろとまずい。
何がまずいって、イグナティオスに押し倒されている気がするからだ!
こんな状況にも拘わらず、私の心臓はバクバクと煩く、それが一之丞にばれないかと心配した。
だけど、その心配はなかった。
ぐったりとした一之丞は、そのまま意識をなくしたのかピクリともしない。
ただその体からは燃えるような熱を感じた。
熱がある、と思ったのは間違いじゃなかった。
早く2階で寝させないと……。
そう思っても、うんともすんとも言わない漬け物石をどうやって退ければいいのかわからない。
考えを巡らせていると、厨房のただならぬ気配を感じ取った三左がフロアから顔を覗かせた。
「どうしたのぉ?問題発生?」
間延びのする声で問いかけた三左は、私達を見てすぐに異常事態に気付いた。
「キャーーー!……兄さまがぁ!兄さまがーサユリちゃんを襲ってるぅ!」
「違う違う!よく見て、一之丞が倒れたのっ!」
必死に訴えると、三左はジリジリと近付いて、一之丞を人差し指でつついた。
「あちゃー……高熱だねぇ。もともと僕たち熱には弱いんだよねー」
何の反応も示さない一之丞を見て、三左は困ったように呟くと、フロアの次郎太に大声で助けを求めた。
「次郎兄ーー!兄さまが倒れたよぅ!」
「え?兄者がどうしたって……?」
フロアで片付けをしていた次郎太はすぐに厨房を覗きこんだ……が!中の様子を見て、ぴたっと動きを止めた。
「なんてこった……サユリさんが兄者に手込めに……」
「されてないされてない」
私は2回目なので至極冷静に答えた。
全く、どうして兄弟で同じ反応をするんだろう。
いくらなんでもこんな目立つところで押し倒す馬鹿はいない。
半ば呆れながら、私は次郎太と三左にお願いした。
「熱があるみたいだから、2階に連れていってくれない?布団敷くから……」
すると、兄弟は顔を見合わせた。
「うーん。できるかなぁ……ほら、僕たち、兄さまよりもずっと小柄だしぃ」
「俺が頭で、三左が足……だな」
「えーー!!僕が足!?」
「文句言うなよ。頭の方が重いんだぞ?」
次郎太と三左は、一之丞の頭と足、それをどちらが持つかのくだらない争いを始めた。
……どっちでもいいから早くして。
私に掛かる重量は時間が経つ度どんどん増して行っている。
これ以上待ってると、漬け物のようにじんわり体から水分が出てきそう……。
「ど、どうでも……いいがら、早ぐ……動がじでぇー……!」
言い争っていた兄弟はビクッとして口を閉じた。
濁点多めな私のダミ声は、次郎太と三左に底知れぬ恐怖を与えたらしい。
結局次郎太が足、三左が頭を持ち2人は怯えた表情のまま、淡々と一之丞を2階へと運んだのである。
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