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第六章 神社巡り
③うぉぉぉぉ!?
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「うん。もう熱は下がったみたい!やっぱりカッパには冷却が一番なのねー」
そう言うと、一之丞はチラチラとこちらを窺った。
「あの……サユリ殿?」
「うん?」
「私は……寝ている間に何か変なことを言わなかったであろうか?」
被っていた掛け布団を鼻まで引き寄せた一之丞は、恥ずかしそうにしている。
「変なことは言わなかったよ?」
「そ、そうであるか……うむ。そうか……」
「でも、《お慕いしておる》って言ってた」
「えっ」
掛け布団を勢い良く剥ぐと、一之丞は動かなくなった。
驚いた表情を浮かべ、時が止まったのか、というほどピクリともしない。
何をそんなに驚いているのかな。
私に対する敬意を口に出してしまったことで動揺した?
うん、それはわかるかも。
私だって、心の中に秘めていたことをうっかり洩らしてしまったら、途轍もなく恥ずかしい。
それが身近な人なら尚更よね。
その心中を察して、私が何も言わず微笑むと、固まっていた一之丞が口を開いた。
「そ、それを聞いて……サユリ殿は……どう、思われ、た?」
言ってすぐ、剥いでいた掛け布団をまた被り直す。
そして目から上だけを出して私をじっと見つめた。
……なんだろうな、この可愛い生き物は……。
小説のイグナティオスは、屈強で俺様で強引で絵にかいたようなヒーローだけど、もし、彼がこんな行動をとったとしたら、イグナティオスの魅力は半減するだろうか。
ーーーー否。
半減するどころか3倍増しになるだろう。
それは、世にいうギャップ萌えというやつだ。
瞳を潤ませながら、じっと言葉を待つ一之丞に、私は高揚する気持ちを押し隠しながら言った。
「すごく嬉しかったよ!」
すると、一之丞は掛け布団を顎まで下げ叫ぶ。
「それはっ!それは……あの、私の気持ちが嬉しいと、そういうことであるか」
「うん!」
私が大きく頷くと、一之丞はまた掛け布団を剥ぎ飛び起きて、ぐぐっと体を寄せてきた。
さっきまで病に伏せていたカッパとは思えない素早い動き。
その行動に対応出来ずにいた私は、迫り来る一之丞に成す術もなく抱きしめられていた。
「サユリ殿!!やはりっ……やはり、思いは同じであったのだな!なんと嬉しいことか!」
「うぉぉぉぉ!?」
一之丞のバリトンボイスに、私の腹の底からのダミ声が被さった。
え?一体何がどうなってる?
お慕いしておる→すごく嬉しかったよ!で、どうしてこんなことに?
巨大な壁のような一之丞にガッチリと抱え込まれ、何も見えず手は空を切る。
「いっ、いっ、一之丞!?何……」
なんとかその言葉だけを発すると、一之丞がより一層ギュウと抱きしめてきた。
「わかっておる!何も言わずともっ!我らの心は一つ!ずっと一つであるっ!」
「ちょっ……まず、一端落ち着こう……ね?落ち着こう……そして離れようか」
私は一之丞の背中をポンポンと叩いた。
「はっ、うむ!そうであるな。すまぬ、いきなりで驚いたであろう……」
そう言うと、やっと一之丞は体を離した。
驚いたも何も……。
御満悦な彼とは逆に、こちらは動揺しまくっているんですけど?
『尊敬してます!』『ありがとう!』の単純な会話のはずだよね?
それのどこに感極まって抱き締める要素が?
自身の剥ぎ飛ばした掛け布団を直し、ニコニコ笑顔の一之丞を見ながら、私はしこたま首を捻った。
が、いくら首を捻っても、わからないものはわからない。
やがて私は考えるのを止めた。
……面倒臭かったからよ。
「えーっと……お腹空いてる?お粥にでもする?きゅうりの糠漬けも付けて……」
私は出来るだけ自然に話を変えた。
困った時はこれに限るわ。
「おお!きゅうりの糠漬けっ!!サユリ殿はそのようなことも得意であるか!?」
きゅうりに反応したのか、一之丞が目を輝かせた。
「うん。糠床もあるし、きゅうりの他に茄子も漬けてるよ?」
「なんと天晴れ!まことに婦女子の鏡であるっ!サユリ殿ほど私の……に相応しいものはおらぬ!」
「えっ?ちょっと今、聞こえづらいところが……」
「うむうむ。三国一の花嫁になろう!」
一之丞は布団の上に胡座をかき、更に腕を組んだ。
うむうむ……じゃない。
一人で言って完結しないで欲しいわ。
三国一の花嫁って、褒めてくれるのは嬉しいけど、花嫁になる前に相手がいない。
そろそろ本当に尊敬する雇用主のために、どこぞのイケメン御曹司をつれてきてくれないかなー。
と、他力本願な私はカッパに頼ろうとするのであった……。
そう言うと、一之丞はチラチラとこちらを窺った。
「あの……サユリ殿?」
「うん?」
「私は……寝ている間に何か変なことを言わなかったであろうか?」
被っていた掛け布団を鼻まで引き寄せた一之丞は、恥ずかしそうにしている。
「変なことは言わなかったよ?」
「そ、そうであるか……うむ。そうか……」
「でも、《お慕いしておる》って言ってた」
「えっ」
掛け布団を勢い良く剥ぐと、一之丞は動かなくなった。
驚いた表情を浮かべ、時が止まったのか、というほどピクリともしない。
何をそんなに驚いているのかな。
私に対する敬意を口に出してしまったことで動揺した?
うん、それはわかるかも。
私だって、心の中に秘めていたことをうっかり洩らしてしまったら、途轍もなく恥ずかしい。
それが身近な人なら尚更よね。
その心中を察して、私が何も言わず微笑むと、固まっていた一之丞が口を開いた。
「そ、それを聞いて……サユリ殿は……どう、思われ、た?」
言ってすぐ、剥いでいた掛け布団をまた被り直す。
そして目から上だけを出して私をじっと見つめた。
……なんだろうな、この可愛い生き物は……。
小説のイグナティオスは、屈強で俺様で強引で絵にかいたようなヒーローだけど、もし、彼がこんな行動をとったとしたら、イグナティオスの魅力は半減するだろうか。
ーーーー否。
半減するどころか3倍増しになるだろう。
それは、世にいうギャップ萌えというやつだ。
瞳を潤ませながら、じっと言葉を待つ一之丞に、私は高揚する気持ちを押し隠しながら言った。
「すごく嬉しかったよ!」
すると、一之丞は掛け布団を顎まで下げ叫ぶ。
「それはっ!それは……あの、私の気持ちが嬉しいと、そういうことであるか」
「うん!」
私が大きく頷くと、一之丞はまた掛け布団を剥ぎ飛び起きて、ぐぐっと体を寄せてきた。
さっきまで病に伏せていたカッパとは思えない素早い動き。
その行動に対応出来ずにいた私は、迫り来る一之丞に成す術もなく抱きしめられていた。
「サユリ殿!!やはりっ……やはり、思いは同じであったのだな!なんと嬉しいことか!」
「うぉぉぉぉ!?」
一之丞のバリトンボイスに、私の腹の底からのダミ声が被さった。
え?一体何がどうなってる?
お慕いしておる→すごく嬉しかったよ!で、どうしてこんなことに?
巨大な壁のような一之丞にガッチリと抱え込まれ、何も見えず手は空を切る。
「いっ、いっ、一之丞!?何……」
なんとかその言葉だけを発すると、一之丞がより一層ギュウと抱きしめてきた。
「わかっておる!何も言わずともっ!我らの心は一つ!ずっと一つであるっ!」
「ちょっ……まず、一端落ち着こう……ね?落ち着こう……そして離れようか」
私は一之丞の背中をポンポンと叩いた。
「はっ、うむ!そうであるな。すまぬ、いきなりで驚いたであろう……」
そう言うと、やっと一之丞は体を離した。
驚いたも何も……。
御満悦な彼とは逆に、こちらは動揺しまくっているんですけど?
『尊敬してます!』『ありがとう!』の単純な会話のはずだよね?
それのどこに感極まって抱き締める要素が?
自身の剥ぎ飛ばした掛け布団を直し、ニコニコ笑顔の一之丞を見ながら、私はしこたま首を捻った。
が、いくら首を捻っても、わからないものはわからない。
やがて私は考えるのを止めた。
……面倒臭かったからよ。
「えーっと……お腹空いてる?お粥にでもする?きゅうりの糠漬けも付けて……」
私は出来るだけ自然に話を変えた。
困った時はこれに限るわ。
「おお!きゅうりの糠漬けっ!!サユリ殿はそのようなことも得意であるか!?」
きゅうりに反応したのか、一之丞が目を輝かせた。
「うん。糠床もあるし、きゅうりの他に茄子も漬けてるよ?」
「なんと天晴れ!まことに婦女子の鏡であるっ!サユリ殿ほど私の……に相応しいものはおらぬ!」
「えっ?ちょっと今、聞こえづらいところが……」
「うむうむ。三国一の花嫁になろう!」
一之丞は布団の上に胡座をかき、更に腕を組んだ。
うむうむ……じゃない。
一人で言って完結しないで欲しいわ。
三国一の花嫁って、褒めてくれるのは嬉しいけど、花嫁になる前に相手がいない。
そろそろ本当に尊敬する雇用主のために、どこぞのイケメン御曹司をつれてきてくれないかなー。
と、他力本願な私はカッパに頼ろうとするのであった……。
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