【完結】さがしびと〜英雄の弟とまつろわぬ姫〜

よもぎ大福

文字の大きさ
14 / 34

第11話 女王の娘

しおりを挟む
「イアルさん、何描いてるの?」

 クレスの言葉に私は顔を上げる。

「新しい神話の絵本だよ。可愛いでしょ?」

「へー、本当に可愛い。でも、どうして絵本?普通に記事にすればいいのに。」

「記事は書いてるよ。でも、絵本なら子供も読めるでしょ?これを読んだ子達が大人になって、またその子供にこの優しいお話を伝えるの。そうして、神話の形が変わっていく。」

「おもしろいね。俺も何か描いてみようかな!」

「いいんじゃない?時間はたっぷりあるし。」

 私はため息混じりに呟いた。

 ここは列車の中。向かい合った席にはクレスが笑顔で座っている。

 車両の両端には、監視の精霊術士達。無言でこちらを睨みつけている。他の乗客はいない。

 私達の目的地は王都。

 継承の儀式の後、アラヤミの言葉を誰もが聞いた、あの奇跡の朝の後の話。

 眠るクレスを庇いながら、私は必死に訴えた。

 アラヤミの望みは聞いての通りで、贄を必要とはしていないこと。

 それは燃え盛る山アラヤザも同じであること。

 かつて王の娘が、アラヤミとアラヤザの伝言役として行き来していたこと。

 今はクレスがその役目を任されたこと。

 誰もが戸惑いながらも耳を傾けた。

 なにしろ、自分たちの目で、耳で、確かに認識したのだから。

 凍てつく海アラヤミの姿を。

 それでも、即座に儀式を止めよう、とはならなかった。

 その伝統はあまりにも長く、重い。

 そして奇跡を起こしたのは得体の知れない少年、しかも今は夢の中。

 その場が収まったのは、二人の協力者のおかげ。

 ひとりはアミルの母親。

 彼女は皆の前で、クレスをこう呼んだ。

 精霊の愛し子ヴィオン・ユラフィスの後継者、と。

「そういえば、ちゃんと言わなくて良かったのかな?」

 クレスは監視を気にしながら、小声で呟く。

「俺ただの弟なのに、しかも本当は血も繋がってないのに、後継者とか大袈裟じゃないかな。大体兄さん、ちょっと家出しただけなのに、『今は亡き』みたいな扱いされてて可哀想なんですけど。」

「いいの、その大袈裟な肩書きのお陰で助かったんだから。」

 儀式の次の日クレスが目覚めた時には、彼は英雄の後継者として至れり尽くせりの待遇を受けていた。

 ぽかんとしていた彼に、慌てて口止めをしたのは私だ。せっかく儀式を終わらせる口実ができたのだ。潰したくはない。

 その時、隣の車両へと続く扉が開いた。

 私とクレスは音のした方へ顔を向ける。

 監視の精霊術士達は相変わらず私達を注視している。

 その横に立っているのは、上等な緑のドレスを着た少女と、それに付き従う長身の女性。

 私は立ち上がり、頭を下げる。

 クレスも少し遅れて、私の真似をした。

「気分はどう?」

 首を傾げると、ダークブラウンの髪が軽やかに舞う。

 青い瞳は楽しそうにこちらの様子を伺っていた。

 彼女こそ、私達を助けてくれたもう一人の協力者。

 エコテト女王の第二王女、サラ姫だ。

 女王の勅使として儀式に参列していた彼女が、その権限を以って、儀式の延期を宣言してくれたのだ。

「ちょっと疲れてます。」

 正直に答えるクレス。

「あらあら。温かいお飲み物でもいかが?夜には王都に着きますからね。もう少しの辛抱です。」

 柔和な笑みを浮かべ、私達を労うサラ王女。

「議会はいつなのでしょうか?」

 私達が王都に向かう理由。

 それは、議会での証言のためだ。

 今回の騒動を受けて、継承の儀式に関する緊急の議会が招集されることとなったのだ。

「明日の午後に開かれます。儀式反対派はこの勢いに乗りたいと思っていますから。」

 サラ王女は口に人差し指を当てて、声を顰める。

「ちなみに、私も反対派です。非人道的ですし、近隣国からは野蛮と非難されますし、裏付けとなる神話を否定する文書も見つかっていますし。でも、信仰篤い人々の心は変えられませんでした。」

 サラ姫は頭を下げる。

「感謝しています。あなた達の奇跡のお陰で、転換期を迎えることができそうです。」

 それではご機嫌よう、と花のように可憐な姫は車両を後にした。

 優雅な立ち振る舞いに、思わず見惚れる。それはクレスも同じだったようだ。

 しばし余韻に浸った後、クレスが口を開く。

「俺、お姫様って高飛車で横暴で口が悪いと思ってたけど、あんな素敵な人もいるんだね。」

「どうしたのその偏見は。」

「いや、兄さんが前に一緒に旅したお姫様がそうだったって。えらい酷い目にあったらしくて。」

「英雄っぽくお姫様と恋とかしてて欲しかったな。」

 そうこうしている内に、温かい飲み物が運ばれてきた。

 私は席に座り直し、手元の絵を見直す。

 時代の転換期。ここからすべて変わるのだ。もう悲劇などないように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない

よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。 魔力があっても普通の魔法が使えない俺。 そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ! 因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。 任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。 極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ! そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。 そんなある日転機が訪れる。 いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。 昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。 そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。 精霊曰く御礼だってさ。 どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。 何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ? どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。 俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。 そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。 そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。 ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。 そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。 そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ? 何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。 因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。 流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。 俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。 因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

処理中です...