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第11話 女王の娘
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「イアルさん、何描いてるの?」
クレスの言葉に私は顔を上げる。
「新しい神話の絵本だよ。可愛いでしょ?」
「へー、本当に可愛い。でも、どうして絵本?普通に記事にすればいいのに。」
「記事は書いてるよ。でも、絵本なら子供も読めるでしょ?これを読んだ子達が大人になって、またその子供にこの優しいお話を伝えるの。そうして、神話の形が変わっていく。」
「おもしろいね。俺も何か描いてみようかな!」
「いいんじゃない?時間はたっぷりあるし。」
私はため息混じりに呟いた。
ここは列車の中。向かい合った席にはクレスが笑顔で座っている。
車両の両端には、監視の精霊術士達。無言でこちらを睨みつけている。他の乗客はいない。
私達の目的地は王都。
継承の儀式の後、アラヤミの言葉を誰もが聞いた、あの奇跡の朝の後の話。
眠るクレスを庇いながら、私は必死に訴えた。
アラヤミの望みは聞いての通りで、贄を必要とはしていないこと。
それは燃え盛る山アラヤザも同じであること。
かつて王の娘が、アラヤミとアラヤザの伝言役として行き来していたこと。
今はクレスがその役目を任されたこと。
誰もが戸惑いながらも耳を傾けた。
なにしろ、自分たちの目で、耳で、確かに認識したのだから。
凍てつく海アラヤミの姿を。
それでも、即座に儀式を止めよう、とはならなかった。
その伝統はあまりにも長く、重い。
そして奇跡を起こしたのは得体の知れない少年、しかも今は夢の中。
その場が収まったのは、二人の協力者のおかげ。
ひとりはアミルの母親。
彼女は皆の前で、クレスをこう呼んだ。
精霊の愛し子ヴィオン・ユラフィスの後継者、と。
「そういえば、ちゃんと言わなくて良かったのかな?」
クレスは監視を気にしながら、小声で呟く。
「俺ただの弟なのに、しかも本当は血も繋がってないのに、後継者とか大袈裟じゃないかな。大体兄さん、ちょっと家出しただけなのに、『今は亡き』みたいな扱いされてて可哀想なんですけど。」
「いいの、その大袈裟な肩書きのお陰で助かったんだから。」
儀式の次の日クレスが目覚めた時には、彼は英雄の後継者として至れり尽くせりの待遇を受けていた。
ぽかんとしていた彼に、慌てて口止めをしたのは私だ。せっかく儀式を終わらせる口実ができたのだ。潰したくはない。
その時、隣の車両へと続く扉が開いた。
私とクレスは音のした方へ顔を向ける。
監視の精霊術士達は相変わらず私達を注視している。
その横に立っているのは、上等な緑のドレスを着た少女と、それに付き従う長身の女性。
私は立ち上がり、頭を下げる。
クレスも少し遅れて、私の真似をした。
「気分はどう?」
首を傾げると、ダークブラウンの髪が軽やかに舞う。
青い瞳は楽しそうにこちらの様子を伺っていた。
彼女こそ、私達を助けてくれたもう一人の協力者。
エコテト女王の第二王女、サラ姫だ。
女王の勅使として儀式に参列していた彼女が、その権限を以って、儀式の延期を宣言してくれたのだ。
「ちょっと疲れてます。」
正直に答えるクレス。
「あらあら。温かいお飲み物でもいかが?夜には王都に着きますからね。もう少しの辛抱です。」
柔和な笑みを浮かべ、私達を労うサラ王女。
「議会はいつなのでしょうか?」
私達が王都に向かう理由。
それは、議会での証言のためだ。
今回の騒動を受けて、継承の儀式に関する緊急の議会が招集されることとなったのだ。
「明日の午後に開かれます。儀式反対派はこの勢いに乗りたいと思っていますから。」
サラ王女は口に人差し指を当てて、声を顰める。
「ちなみに、私も反対派です。非人道的ですし、近隣国からは野蛮と非難されますし、裏付けとなる神話を否定する文書も見つかっていますし。でも、信仰篤い人々の心は変えられませんでした。」
サラ姫は頭を下げる。
「感謝しています。あなた達の奇跡のお陰で、転換期を迎えることができそうです。」
それではご機嫌よう、と花のように可憐な姫は車両を後にした。
優雅な立ち振る舞いに、思わず見惚れる。それはクレスも同じだったようだ。
しばし余韻に浸った後、クレスが口を開く。
「俺、お姫様って高飛車で横暴で口が悪いと思ってたけど、あんな素敵な人もいるんだね。」
「どうしたのその偏見は。」
「いや、兄さんが前に一緒に旅したお姫様がそうだったって。えらい酷い目にあったらしくて。」
「英雄っぽくお姫様と恋とかしてて欲しかったな。」
そうこうしている内に、温かい飲み物が運ばれてきた。
私は席に座り直し、手元の絵を見直す。
時代の転換期。ここからすべて変わるのだ。もう悲劇などないように。
クレスの言葉に私は顔を上げる。
「新しい神話の絵本だよ。可愛いでしょ?」
「へー、本当に可愛い。でも、どうして絵本?普通に記事にすればいいのに。」
「記事は書いてるよ。でも、絵本なら子供も読めるでしょ?これを読んだ子達が大人になって、またその子供にこの優しいお話を伝えるの。そうして、神話の形が変わっていく。」
「おもしろいね。俺も何か描いてみようかな!」
「いいんじゃない?時間はたっぷりあるし。」
私はため息混じりに呟いた。
ここは列車の中。向かい合った席にはクレスが笑顔で座っている。
車両の両端には、監視の精霊術士達。無言でこちらを睨みつけている。他の乗客はいない。
私達の目的地は王都。
継承の儀式の後、アラヤミの言葉を誰もが聞いた、あの奇跡の朝の後の話。
眠るクレスを庇いながら、私は必死に訴えた。
アラヤミの望みは聞いての通りで、贄を必要とはしていないこと。
それは燃え盛る山アラヤザも同じであること。
かつて王の娘が、アラヤミとアラヤザの伝言役として行き来していたこと。
今はクレスがその役目を任されたこと。
誰もが戸惑いながらも耳を傾けた。
なにしろ、自分たちの目で、耳で、確かに認識したのだから。
凍てつく海アラヤミの姿を。
それでも、即座に儀式を止めよう、とはならなかった。
その伝統はあまりにも長く、重い。
そして奇跡を起こしたのは得体の知れない少年、しかも今は夢の中。
その場が収まったのは、二人の協力者のおかげ。
ひとりはアミルの母親。
彼女は皆の前で、クレスをこう呼んだ。
精霊の愛し子ヴィオン・ユラフィスの後継者、と。
「そういえば、ちゃんと言わなくて良かったのかな?」
クレスは監視を気にしながら、小声で呟く。
「俺ただの弟なのに、しかも本当は血も繋がってないのに、後継者とか大袈裟じゃないかな。大体兄さん、ちょっと家出しただけなのに、『今は亡き』みたいな扱いされてて可哀想なんですけど。」
「いいの、その大袈裟な肩書きのお陰で助かったんだから。」
儀式の次の日クレスが目覚めた時には、彼は英雄の後継者として至れり尽くせりの待遇を受けていた。
ぽかんとしていた彼に、慌てて口止めをしたのは私だ。せっかく儀式を終わらせる口実ができたのだ。潰したくはない。
その時、隣の車両へと続く扉が開いた。
私とクレスは音のした方へ顔を向ける。
監視の精霊術士達は相変わらず私達を注視している。
その横に立っているのは、上等な緑のドレスを着た少女と、それに付き従う長身の女性。
私は立ち上がり、頭を下げる。
クレスも少し遅れて、私の真似をした。
「気分はどう?」
首を傾げると、ダークブラウンの髪が軽やかに舞う。
青い瞳は楽しそうにこちらの様子を伺っていた。
彼女こそ、私達を助けてくれたもう一人の協力者。
エコテト女王の第二王女、サラ姫だ。
女王の勅使として儀式に参列していた彼女が、その権限を以って、儀式の延期を宣言してくれたのだ。
「ちょっと疲れてます。」
正直に答えるクレス。
「あらあら。温かいお飲み物でもいかが?夜には王都に着きますからね。もう少しの辛抱です。」
柔和な笑みを浮かべ、私達を労うサラ王女。
「議会はいつなのでしょうか?」
私達が王都に向かう理由。
それは、議会での証言のためだ。
今回の騒動を受けて、継承の儀式に関する緊急の議会が招集されることとなったのだ。
「明日の午後に開かれます。儀式反対派はこの勢いに乗りたいと思っていますから。」
サラ王女は口に人差し指を当てて、声を顰める。
「ちなみに、私も反対派です。非人道的ですし、近隣国からは野蛮と非難されますし、裏付けとなる神話を否定する文書も見つかっていますし。でも、信仰篤い人々の心は変えられませんでした。」
サラ姫は頭を下げる。
「感謝しています。あなた達の奇跡のお陰で、転換期を迎えることができそうです。」
それではご機嫌よう、と花のように可憐な姫は車両を後にした。
優雅な立ち振る舞いに、思わず見惚れる。それはクレスも同じだったようだ。
しばし余韻に浸った後、クレスが口を開く。
「俺、お姫様って高飛車で横暴で口が悪いと思ってたけど、あんな素敵な人もいるんだね。」
「どうしたのその偏見は。」
「いや、兄さんが前に一緒に旅したお姫様がそうだったって。えらい酷い目にあったらしくて。」
「英雄っぽくお姫様と恋とかしてて欲しかったな。」
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