【色々な短編集】

花より団子よりもお茶が好き。(趣味用)

文字の大きさ
4 / 6
文芸

君が死んでくれと僕に言うから僕は死んだのさ。

しおりを挟む



           ◇


 君が死んでくれと僕に言うから僕は死んだのさ。
 君が死んでくれとあの日言うから僕は死んだのさ。

 君が死んでくれと僕に言うから僕の見る景色は消えていった。
 君が死んでくれと僕に言うから僕の世界は白くなっていった。

 僕が見たもの見てきたもの関わった全ての記憶と感情、その全てが消えていく。
 君が死んでくれと僕に言うから僕はなかった事になるのさ。
 君が死んでくれと僕に言うから僕の全ては跡形もなく消えて、誰の記憶にも僕の記憶にも君の記憶からも死んでいく。
 君がそう望むから、死んでくれと望むから。
 
 僕はなかった事になっていく。
 君が望むから僕は望み通りに死んでいく。

「別にそれが嫌な訳じゃないんだ。僕は初めから最後まで君の為に存在したのだから、君が泣きながら僕を必要として、君が泣きながら僕に死んでくれと頼むのなら、それは僕にとって喜ばしい事だから」

 君が死んでくれと僕に言うから僕は君の事を忘れたのさ。
 君が死んでくれと僕に言うから僕はもういないのさ。

『お願いだからお願いだからお願いだからもう私から死んで! お願いだから死んでよ!』

 鏡の前で頭を抑えて泣き崩れ、嗚咽しながら君は何度も何度も何度も僕にそう言うから。

 もう僕の存在は君には必要なくなったのだから。
 僕はもう死ぬのさ、死んだのさ。

 君が死んでくれと僕に言うから僕はもう直ぐ、僕を忘れる。文字通り本当に死ぬのさ。

 けれどもしまた君が傷付いて挫けそうになった時は、きっと僕はまた現れる。
 僕は君の為に生き返る。
 僕は君の為に存在する。
 あぁ僕の最愛の人、大丈夫僕は〝君〟を愛しているよ。

 君は僕だけで僕は君だけだから。
 苦しくなったらまたおいで、悲しくなったらまた呼んで、ツラくなったらここに来るといい。
 心の深い深い深いところで僕はずっと死んでいるから。
 君が助けを求めるその日まで。

 あぁもうすっかり何も見えない、意識も―――。

 ◇◇◇

 ゆっくりと瞳を開けた。
 すると真っ先に真っ白な天井が眼にはいる。
 いつの間にか私の身体はベッドに沈んでいた。
 ぼーと眺めていると何かが頬を伝う。
 触ると指先が濡れた。

 涙だ。

「……終わったんだ」

 起き上がり、手足を動かす。
 手を開いて閉じて、動くのを実感する。
 ふと、壁にある姿見を……確かにそこには私が映っている。
 久々に見た気がした。いや実際久々だ。

「ただいま」

 久々に表に出た。

 私はいつもの生活へと溶け込んでいった。
 最初は人が変わったようだと言われたが、昔から私を知る者は元に戻ったのかとも言った。
 けれどそれも時が立つにつれ、誰も言わなくなった――。
 
 今の私が私になったから。
 これが本来あるべき姿だから。

 そしていつしか私は私の中にいる存在さえも忘れていった。


『君が僕を必要としなくなったから僕は本当に、死んだのさ』

 ― 完結 ―
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。 そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。 夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。 それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになるのでご安心ください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

処理中です...