婚約破棄と言われて困るのはどなた?私ではなかったようですね。

うめまつ

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いつも不機嫌な皇太子とテンション低めの婚約者

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「お前とは婚約破棄する」


どーぞ。


困りませんので。


私はね?


青ざめているのはあなたのご両親。

それと後ろにいる私の両親。

王家のあなたは我が家から潤沢な援助。

公爵家の我が家は王家の繋がり。

他国からの来賓も来られたこの大きなパーティーでわざわざ公言なさるなんて。

列席される各国の要人に知れ渡ってしまい、私の恥というよりも国の恥になりますわよ?

そんなことなさらなくても私はいつでもよろしかったのに。

恥をかかせようと頑張ったのかしら。

皇太子様ったら、足りない頭でいじましいこと。

初めて可愛らしいと思いましたわ。

素敵よ?

あら、遠目から見えます陛下が過呼吸を起こして王妃は倒れてしまったわ。

お父様とお母様も大変そう。

あなた達が私達の顔合わせもそこそこに王家の打診に飛び付くからよ?

陛下、おバカさんに育てた王家の教育係を叱責なさって?

甘言ばかりの役立たず達。

それに踊らされた皇太子様を見るのは忍びなかったわ。

でも頭は悪くても本当にお美しい方。

相変わらず、美しく輝く銀髪と夏の新緑のような深い緑の眼差し。

それなのに美しいお顔は私を見るたびにひどく歪んでお可哀想に。

私は深紅の薔薇に影を落としたような黒みがかった赤毛と濃い黒目がちな瞳。

とってもこのお色がお嫌いですものね。

固い表情ばかりで面白味のないこの私の顔も。

ごめん遊ばせ?

いつも私のお色をご覧になって、その美しいお顔立ちがひどく歪むのを見るのは、美しい壺や絵画が損なわれるような感覚で私も辛うございました。

でも今夜、皇太子様から仰って頂いて僥倖でございました。

お互いにもう見なくて済むなら私は何でもよろしいのですもの。

それに皇太子であろうが、婚約者であろうが。

私はこの方と結婚するのは悩ましく思っておりました。

だって、こんな大きくて我が儘で、可愛くない子供を育てる気ありませんのよ?

ふふ。

すぐに手に持っていました黒檀の骨組みにレースをあしらった扇子を開いてお顔を隠しました。

だって笑ってしまうもの。

「では慎んでお受け致します」

「り、理由も尋ねないのか?!」

「かしこまりました。敬愛する皇太子様、理由をお尋ねしてもよろしゅうございますか?」

扇で顔を伏せたままお尋ねしました。

声が弾まないように低く。

でも、だめね。

笑って震えてしまうわ。

「君より、愛しい人が出来た」

扇の隙間から勝ち誇った皇太子様のお顔が見えます。

歪んだ表情以外、初めて見ましたわ。

「まあ、さようでございますか」

どうぞ?よろしくてよ?

……それでどなた?

皇太子様の回りに女性が沢山、いらっしゃるのですが。

あちらは我が家と同格の公爵令嬢、あちらは隣国の末姫様、あちらは伯爵令嬢、あの方は、男爵令嬢?

その後ろにもずらりと並んでいらっしゃいます。

どなたにお礼をお伝えしたらよろしいのかしら。

首を軽くかしげていると、一人の女性が皇太子様の腕に手を添えました。

淡いベリーピンクの髪色と春の空のような澄んだ青い瞳をされた、優しげでとても美しい顔立ちの男爵令嬢。

熱い眼差しと喜びに溢れて、きっとこの方だわと納得し、私も笑みを浮かべて頷きました。

「では改めて。慎んでお受け致します。愛しいお方と末長くお幸せに。皇太子様とそちらのご令嬢の幸福を心からお祈りいたします」

型通りのカテーシーで場を納め、すぐに私は周囲の方へ体を向けました。

「お騒がせして申し訳ありません、皆様。これはお優しい皇太子様のお計らいでございます。私では次期王妃となるには少々荷が重うございました。次に現れますこちらのご令嬢なら、きっと皇太子様を支えて王妃という大役をお勤めをされることでしょう。今宵、列席された皆様からの祝福をいただきたく存じます」

前を向いて高らかに宣言いたします。

皇太子様の婚約者として場を納める最後のお勤めを果たそうと思ったものでして。

少々、癇癪持ちで突飛な皇太子様と唐突に現れたご令嬢では苦労されると判断いたしました。

それに私自身騒がれるのは性に合いませんし、最後に婚約破棄という私の望みを叶えてくださった皇太子様へお礼のつもりでした。

「待て!勝手なことを言うんじゃない!」

「あら、何か?それとも差し出がましいことでしたでしょうか?」

首だけ振り返って呼び止めた皇太子様へ視線を送ります。

あら、また美しいお顔が。

そんなに歪んでしまって悲しいわ。

扇で顔を伏せて、損なわれた美に眉をしかめました。

「そちらのご令嬢と、国の発展と貢献に尽力されてくださいませ?私は陰ながら応援し、あっ!」

無理やり肩を引かれて扇を落としてしまい、乱暴な扱いは初めてでしたので驚きました。

「嫌だ!どうしてすぐ君は私の馬鹿な言葉に従うんだ!」

「皇太子様?まあ、」

どうしたことなのか、すがるように膝をついた皇太子様が私の両手を掴み泣きながら、それを抱き締めていらっしゃいます。

どうして分かってくれないとお怒りになるから私も困ってしまいました。

冷たくて辛いと号泣されても、私は私なりに接しておりましたもの。

周囲を見渡すと年配の方々は、皇太子はまだお若いからと呆れたような、でもとても暖かい眼差し。

先ほど皇太子様を囲っておられたご令嬢方は奇声を発して倒れていきました。

可愛らしい男爵令嬢は春の日差しのように優しげで可憐だと思ったのですが、怒るとそんなお顔になるのですね。

こぼれそうなほど目を見開いて歯はむき出しに眉をつり上げていらっしゃる。

まあ、すごい形相。

唾が飛ぶので怒鳴るのは控えて欲しいものです。

この男爵令嬢のようにメンタルが頑丈な方は私の手にしがみつく皇太子様を引き離そうと服を掴んで、今にも破ってしまいそう。

「あっ、」

そうこうしているうちに、間に割り込んだご令嬢に突き飛ばされてしまい、引き離された皇太子様はまた一段と激昂して衛兵に令嬢方の片付けを命じますし。

ああ、本当にこの方はお顔だけ。

こんな騒動にしてしまうなんて、本当におバカさん。

さすがにお相手することに疲れてしまいました。

私は婚約者のままだとご命令されますが、私はとても真面目で頑固者です。

「皇太子というお立場がございます。口に出したからには実行なさいませ」

何を仰っても、ぴしゃりと返すだけです。

赤子のように号泣する皇太子様を残して会場を去りました。

国内の騒ぎに辟易しましてので、隣国の親戚を頼ってあちらで静養しようとするのに、王家の指示で関所の検問は通してもらえませんし、新しい縁談も禁止されて驚きましたわ。

乱暴なやり方にこちらがもっと意地になるだけです。

父と母も私の頑固はよく存じてますから、私があれ以来屋敷から一切出ない生活をすることも諦めています。

それと、皇太子様と陛下から毎日書状が届きます。

皇太子様は幼少期から私の黒い瞳に恋をされている。

緊張していつも私の前で馬鹿なことをした。

そんな内容です。





そうですか。

これからもおバカさんならご遠慮しますわ。

読んでもため息が出るだけです。

『王族たる者、宣言されたからには実行なさいませ』

お返事は毎日同じです。

ひと月もたつと手紙ではなく本人が参られます。

謝っても脅しても泣いても答えは同じ。

「どうしたら、許してくれるんだい?」

めそめそ男泣きの皇太子様を見つめて笑みを浮かべました。

私は何も怒ってはいませんのに。

また勝手な誤解をなさって。

本当におバカさん。

そのおバカさんが治るのが先か、皇太子様が諦めるのが先かどちらでございましょうか。

私はどちらでも構いませんもの。

恋して欲したのはあなた。

私はあなたの美しい顔の造形が好ましいだけですもの。

恋などではありません。

……まあ、でも。

こうやって足りない頭をふり絞って泥臭く必死になるお姿は嫌いではありませんわ。

可愛らしいような、いじましいような?

でもまだまだでございます。

地の底より深く反省されませ?
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