うちの妻はかわいい~ノンケのガチムチ褐色が食われる話~

うめまつ

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第一章※本編

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「…リトグリ公爵には、なんと?」

「は?」
 
「え?なんですって?」

顔色が変わった。

知らなかったようだな。

「…リトグリ公爵が、私の、後見人でございますので勝手は出来かねます。」

暗に報告すると伝える。

こいつは侯爵。

身分は下だ。

しかも潔癖で有名な旦那様だ。

効果はあったようだ

掴んだ髪をギリギリと引っ張られて呻いた。

投げるように床に捨てられる。

「ちっ。帰れ。」

「し、つれい、します。」

ふらふらしながら外へ出る。

残された俺の馬に乗って帰った。

馬を厩舎に繋いだら部屋に戻らず真っ直ぐ井戸へ向かう。

顔を洗って口をゆすぐ。 

洗っても臭かったので指を突っ込んで吐いた。

水を飲んで繰り返した。

それでも鼻も臭い。

むせながら桶に顔を沈め鼻で水を吸って吐く。

部屋に石鹸を取りに行くか悩む。

口の中に石鹸を入れて洗いたい。

先に上着とシャツを脱いで洗い、木にかけた。

しばらくそこに座ってぼーっとした。

肌寒かったが動く気にならない。

井戸に背中を預けて座っていた。

「疲れた。」

ぽつりと呟いた。

木や草の風にそよぐ音を聞いていた。

鬼ごっこした日もこんな音に包まれていた。

空の満点の星を眺めながらあの日々を思い出した。

山で野宿した時はこんな星を見た。

ドルとパウエルの従者が過酷で辛かった時もある。

盗賊に刺されて死にかけたことも。

だけど、身内が怖いと思ったことはなかった。

二人は強くて優しかった。

安心できた。

危険でもいつか報われると信じて領内を巡回して。

あの日、報われたんだ。

“私のチョコレート。だぁい好き。”

“兄弟子はスゴいですね!”

二人の顔がよく思い出せない。

あの弾む声もおぼろげだ。

でも、あのキラキラ宝石みたいな緑の瞳とヘーゼルの瞳。

綺麗な宝石みたいな瞳。

本当に綺麗だったんだ。

いまだに、夢に見るほど大好きだ。

側にいたかった。

なんで、ここにいるんだろう。

「…グズ、…ずすっ、」

泣けてきたのでまた桶に水をいれて顔を突っ込んだ。

「ムスタファか?」

「あ?」

誰か分からない。

「中庭からずっと水音がすると思ったら。帰りは明日じゃなかったか?」

「隊長。すいません。役立たずなもので帰されました。」

ざばざばと顔を濡らす。

そうか、と呟くのが聞こえた。

まだ顔を濡らした。

「お前、裏から入ったろ?」

「はい。厩舎が近いので。」

「表に回れ。イルザンが待ってるから。朝まで待つと言っていた。」

「あ?なんで?」
 
「うちの隊の一部のやつらはあの侯爵の洗礼は知ってる。」

ひゅっと喉が苦しくなった。

「俺が、何されたか知られ、てるんで、すか?」

声が震えて上擦った。

つっかえてまともに喋れない。

「落ち着け。言い方が悪かった。俺と副隊長、イルザンだ。他の奴等は詳しいことを知らん。奥方の相手をするだけだと思われてる。」

「イルザンが?」

「ああ。うちの隊で庶民出で顔が良い。」

ぼーっとする。

俺と、同じということか?

「他言無用だ。行け。」

促されて表へ向かった。  

玄関に行くと階段に座っていた。

「あれ?ムスタファ?何でそっちから?え?服は?」

「裏から来た。先に井戸に行きたかったから。」

「え?うら?」

隣に座った。

まだ中に入りたくなかった。

「役立たずだから帰された。」

「え?役立たず?え、え?うわ、びしょ濡れ。」

中へと腕を引かれて部屋に戻った。

「ここに座んな。頭拭いてやるから。」
 
黙ってしてもらう。
 
いつもなら自分でやる。

今の俺はいつもの俺じゃない。 

立っていたイルザンの腹に抱きついた。

「どうした?キツかったか?」

「ああ。キツかった。疲れた。」
 
頭をタオルで包まれる。 

こしごしとこする優しさが辛くなった。
 
「イルザン、嫌だった!すげぇ嫌だったんだ!ああ!うああ!」
 
しがみついて声を出して泣いた。

泣いてる間、何されてるかわからなかった。

抱き締められていた気もする。

いつの間にベッドに突っ伏して泣いていた。

椅子に座っていたはずなのに。

イルザンに抱きついていたのに。

なんでいないんだよ。

ドアの辺りでイルザンと他の奴等の話し声がする。

どうやら他の部屋の奴等が心配して様子を見に来たらしい。

明日、うるさそうだ。

必死で声をこらえる。

それでも泣いた。

疲れたんだ。

帰りたいんだ。

緑とヘーゼルの瞳に会いたい。

ドルやパウエル達に会いたい。

彼らの前なら子供らしく俺らしくいられた。

枕元にイルザンが座った。

「ムスタファ、あいつらが冷たい水を持ってきてくれたよ。」

「…ああ。」

まだ泣きすぎて息がうまく吸えない。

這いつくばってイルザンの腰にしがみつく。

「まだキツい。」

「はいはい。」

「…帰りたい。」

「ずっと言ってたね。緑の瞳のお嬢様だっけ?小さいお姫様。」

「…もっと、何も気にせず患者の治療がしたい。パウエル達ならあの子の面倒を見た。」
 
「うん。領地じゃそうだったらしいね。」

「…死んで良い命はない。」

「うん。」

「気に食わんならさっさと喧嘩して終わらせたい。面倒だ。」

「だいぶ、脈絡がなくて分からないかな。でも言いたいことはわかった。」  

「身分も、肌のことも。全部嫌いだ。ここも嫌だ。」

手をさ迷わせた。

イルザンの手を握りたかった。

「イルザン、手が欲しい。」

「はいはい。」

両手をくれた。

唇を当てて抱き締めた。

「顔色が悪いね。もう寝なよ?」

こくっと頷く。
 
逃げないように強く握った。

「こうしてるから安心しなよ?側にいるよ。」

じっと目をつぶって休んだ。

今日はもう、精根尽き果てた。
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