溺愛された伯爵令嬢のその後

うめまつ

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翌日にはリリィの元を訪れた。

「初めまして、リリィ様。閨教育を担当いたしますラフィネ・リースです。」

「リース様、よろしくお願いします。」

ロルフの婚約者リリィは可愛らしい容姿をしていた。

落ち着いたプラチナの髪と薄い水色の瞳、小柄で華奢な体つきだが胸元や腰には女性らしい丸みがあった。

社交界の妖精の異名に納得する可憐さ。

特に優しく美しい声に魅力を感じた。

話していても目上の話をよく聞き、思慮深く穏やかと判断する。

17才という年齢の割には閨事に関してはかなり知識がない。

結婚した男女が何をするかは一切分かっていなかった。

ラフィネからしたらこんなに知識のない娘は珍しかった。

リリィとロルフは婚約して1年が経つ。

今まで対応した生徒でさえ、男女の交わりについて少なからず知識はあったし、婚約者同士で密かな秘め事を楽しむのが当たり前だった。

キスやハグ、多少の触れあいは許容範囲とされていた。

なのに婚約者と普段から何か触れあいはあるかと尋ねると、顔を赤らめ、隣同士に座って手を握ると答えた。

「でも、最近は。ロルフ様は側に寄るのを嫌がられますので。」

昨日はロルフに拒絶されたと俯きながら溢した。

予想外の情報に顔がひきつる。

噂では第四王子がデビューしたリリィに一目惚れして1年越しにやっと婚約したとか。

報告書に大人の女性を厭う傾向が記載されていたことを思い出す。

男が好きか少女が好きなのか。

王妃の懸念が脳裏を横切った。

そしてリリィからの証言。

大人に近づいた婚約者を遠ざけるなら、何か特殊な性癖が当てはまるのかもしれない。

このあとに面談をするロルフを見て判断せねばと次々に湧く疑問を頭から追い出した。


午後からはロルフとの面談に向かった。


第四王子の離宮。

通された応接室で第四王子の訪れを待つ。

第一、第二王子の離宮に比べれば質素だと聞くが、それでも充分な広さと豪華な調度品に包まれていた。

「待たせた。」

「お初にお目にかかります。」

「母から聞いている。リース夫人、よろしく頼む。」

一人訪れた第四王子に礼を取る。

互いの挨拶を済ませ、ラフィネは第四王子をつぶさに観察する。

緊張から少し顔色の悪さがあるが、平静さと穏やかな様相は崩さない。

緑がかかったヘーゼルの瞳、上品な狐色の髪。

婚約者と出会った頃は少年のようだったが、成長期を越えた今では、パレードなどで見掛ける第一王子達と変わらない立派な体格を得ている。

そして一切ぶれのない体幹から鍛えていることも伝わった。

少年のような第四王子と妖精と言われた婚約者の絵姿が可愛いと評判で1年がたった今でも巷では人気がある。

今の婚約者と並ぶと身長差があると分かる。

それでも二人の見目の良さは際立っていたし、結婚式後の新しい絵姿を国民は待ち望んでいるだろうと思いを馳せた。

会話はロルフに関する当たり障りのないことを尋ねた。

普段読む本、余暇の過ごし方、政務の量。

ある程度、本人の情報を得てから注意深く婚約者について尋ねる。

先程まで明瞭に答えていたのに、分かりやすいほどに口ごもり表情が暗くなる。

「この婚約に不満が?」

「ない。あるとしたら自分にだ。」

こちらの失礼な物言いを謝罪すると、穏やかに微笑む。

「よい。構うな。あなたも仕事だ。」

「寛大なご配慮に感謝します。」

「母に、あなたの助力を得るように言われている。自分自身も、助けがほしいと思っている。」

力なく微笑むロルフに、ラフィネは尽力いたしますと控えめに答えた。

ロルフとの面談後、その足で王妃へ会いに行く。

「リース夫人、二人と会ってどうだったかしら?」

「可愛らしいお二人と思います。そしてお二人とも他者へ優しい。」

お茶を飲みながら今後について語る。

「まだ分からない部分があるのではっきりとはもう申せません。リリィ様は知識がありませんが、ロルフ様を受け入れる覚悟はありそうに思います。ロルフ様は何か悩んでおられますが、解決したがっておられます。今日見た限り、そう感じました。」

お茶を一口すすり、はっと思い出す。

「大事なことを忘れておりました。ロルフ様の政務の量をしばらく減らして下さいませ。」

本人に指摘したが、真面目な性格のようで増やすことはしても減らすのは出来ないだろう。

王妃に頼むと、その場で陛下へ進言の手紙を書いた。

閨教育が上手くいかなくなると打ち消すように政務や剣の稽古にのめり込んでいたようだった。
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