婚約破棄騒動を起こした廃嫡王子を押し付けられたんだけどどうしたらいい?

うめまつ

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70※ルーラ

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二人でお茶を飲みながら便箋に絵を描いて絵本の模写。

それだけなんだけど私は楽しかった。

ふとノックの音に顔を上げた。

「はい?」

「ライオネル、いる?」

「開いてますよ」

どうぞ中へと促した。

「いいのよ、伝言だけ。ロシュフール様をご覧に陛下と皇太子が来られて午後はお休みだそうよ。あなたはルーラと夫婦水要らすで過ごしなさいって。出掛けるならそれでもいいって」

あとは私達が引き受けるからとドア越しにそれだけ告げると静かになった。

「おや、まあ。暇になりましたね」

「そのようですね」

「何しますか?」

模写を続けるのも飽きるでしょうと言われて否定できずに頷いた。

「……そうですねぇ」

何をしましょう。

「夕日でも見に行きますか?」

「連れていってくださるなら」

そうと決まればすぐさま支度をして外へ出掛けた。

報告すると奥様は時間があるならお菓子を買ってきてほしいとねだられた。

甘党の陛下も。

それから皇太子がお気に入りのお店を指定していた。

気をつけてと私にまで笑顔を振り撒く。

以前に比べて当たりが柔らかくなった。

不気味に思っていたらこっそり睨まれて“人のものを欲しがるあの女と一緒にするな”と釘を刺された。

表面上、雰囲気が和らいだだけで敏くて手厳しいのは相変わらず。

奥様を心底好いてらっしゃるけど兄君のリカルド王子のことも慕ってらっしゃる。

お二人の結婚式では号泣して嬉しいのと悲しいのでどうしたらいいかわからないと陛下に泣きついていた。

式のあとは寂しがりやがひどくなってしばらく奥様にべったりだったけど、リカルド王子と奥様の間で可愛がられて次第に落ち着いていった。

リカルド王子は奥様と成就されたら以前よりおおらかになられて、妻以外なら何でもゆずるといつも仰る。

どんなにワガママな振る舞いをしても今まで甘えられなかったからなぁとのんびりと。

でも私達使用人への乱暴や暴言はお許しにならなかった。

“私は使用人の躾が上手いんじゃない。守るから慕われるんだよ”

そして彼らに守られていることを忘れるなと諭した。

その後、リカルド王子と奥様のお役に立ったのなら少しだけ許すと私に仰った。

まだ嫌われているけど私の存在を納得しようとしていらした。

厩舎で二人、一緒に馬具を取り付ける。

馬の支度も慣れてきた。

「ルーラ、他に寄りたいところはありますか?」

馬上で尋ねられて少し考えた。

お使いを済ませても夕暮れの時間まで余裕がある。

「子供服を見たいですね」

もうすぐ一歳になるお二人のお孫さんのために。

手紙でやり取りをするようになってアリエッタさんと娘さんに親しくさせていただいてる。

「自分のものは?」

「必要なものがありませんから」

毎日の仕事着とこうやってたまに出掛ける時の服だけでいいもの。

「では気が向いたらどこか寄りましょう」

どこかに寄ると言いながら結局、お使いと子供服を選ぶだけで終わった。

丘に向かう途中、私達に声をかける男がいた。

「ご夫婦でデートっすかー?」

フォルクス様。

夕飯の買い出しらしく両手に野菜を抱えていた。

「休みになったんでね。お使いも兼ねて。それより奥方は元気か?」

「ちょっと具合が。つわりってやばいですね」

「前、薬を教えたが効かなかったか?」

「合わなかったみたいで」

「そうか、残念だな。買い出しなら息子の店に配達を依頼しとけ。私からも頼んでおくから」

世話焼きのご家族だからきっと気を回して良くしてくれると私も同意で頭を揺らした。

すぐに近くの伝達屋に寄って手紙をしたためた。

ライオネル様がラドさんに一筆書き付けてる間にフォルクス様がこっそり耳打ち。

「どんなよ?」

「何がでしょうか?」

「夫婦仲。あのおっさんがルーラと再婚すんの意外。若いあんたがおっさんを選ぶのも」

「そんなの、秘密です」

「……はは、だよね」

素っ気なく答えたけどへらっと笑って気にしてない。

「あー、てか二人は意外とお似合いよ?悪くないわ」

ちゃんと夫婦に見えるよと付け足した。

「ライオネルさん、このあとどこ行くんですか?この方向は遠回りでしょ?」

「丘に行く」

「この近くの?」

「ああ」

「こんな時間に?暗くなりますよ。まさかそこでイチャイチャですか?野外、しゅ、ぶふっ!いでぇ!」

「本っっ当に!こういうことに関しては下品だなぁ!」

ライオネル様が横っ面をひっぱたいた。

何を言おうとしたのか理解できた私も白い目を向けた。

本当に下品。

「てて、すいませーん。軽い冗談だったのに」

「やめろ」

「やめてください」

二人で睨むとゲラゲラ笑って似た者夫婦と喜び、お二人に良いものをとフォルクス様が首にかけた警笛を渡してくれた。


あとはいつも通り坂や階段を馬で登って黄色く染まってきた小高い草原に。

「思ったりより早く着きましたね」

「夕暮れが長くなってきましたから」

琥珀に染まるまでまだ時間がある。

馬上でゆったりと待つことにした。

「たまには違うところに行きたくありませんか?」

「いえ、ライオネル様はどこか他に行きたいのですか?」

尋ねると子供の頃からここで1日過ごすのが好きだったから構わないと言う。

「毎日、空の色が変わるのが楽しくて。同じ景色を見て何が楽しいのか分からないと言われますが。あなたも夕暮れを眺めるだけでは飽きるでしょう」

いいえ、全然。

飽きたことがありませんと心で答えた。

「私もここが好きですので」

「あなたが構わないのならいいですよ」

それだけでまたお互いに静かになる。

ライオネル様は会話がないことを気にする様子はなくゆったりと。

私もそれに合わせてのんびりとくつろぐ。

荒々しく情熱的な愛情は私には重荷だった。

こうやって背中を包む温もりが心地よくて気遣う優しさがいつも胸のつっかえを外す。

ゆっくりと移り行く景色を眺めながら背中に伝わる温もりに身を預けて自然と手綱を握る手に指をはせる。

私の動きに合わせてライオネル様の指は私の指に絡む。

優しく滑る指。

少し胸がきゅっと詰まってため息。

いつも。

それだけで緊張した。

少し顔をあげて下からお顔をのぞくとライオネル様は景色を眺めて私をご覧にならない。

「失礼」

「あ、」

じっと琥珀に照らされたお顔を眺めていたら、ふとこちらへ顔を向けて優しく唇を啄まれた。

いつも咄嗟で驚くけど離れるのが嫌で私も唇を追いかける。

お互いの唇を撫でるような優しいキスを少しだけ。

「帰りますよ」

「……もう少し」

抜けそうな指を捕まえて甘えてみた。

「……少しなら」

そう言って額や目尻にキスをするだけで唇にはくれない。

背伸びして追いかけるけどすぐに逃げて意地悪をする。

「……ライオネル様」

「何か?」

「……傷つきます」

「すいません」

いじけて睨むのにクスクスと笑う。

「帰りましょう」

「……キスをしてくださるなら」

「どこに?」

「……唇」

そう言うとすぐに顎に優しく添えられた手、ふわりと当たる唇。

目を閉じる前に見えた琥珀の景色。

私の心に静かなさざ波を広げた。






~終~
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