彼女が全てを信じてくれた日

みつきようか

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彼女が全てを信じてくれた日

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 俺の住む町には海がある。その海にはスナメリがいる。そこに生息しているわけではなく、この町から数十㎞ほど離れた静かな港から数頭、泳ぎ着く事があるのだそうだ。もちろん滅多にお目にかかれない。見る事が出来た人間は運が良いと言われる。俺も運は良い方だから見られるはずなのだが、まだ奴らは俺の前には現れない。親父が一度、この町の港に釣りに行った時に見たそうだ。俺はその話を聞いて素直に
「すげー!」
 と叫んだのだが、信じない奴もいる。
「うちの親父、この間釣りに行ったらスナメリ見たんだって」
 とあいつに言ったら
「スナメリって何やの」
 とあいつは言った。
 スナメリを知らない人間だってそりゃいるだろう。俺はそう思って説明した。
「イルカを小さくしたような奴で、海にいる」
「はあ?嘘やろ?」
「嘘じゃないって!」
 俺はスマホを取り出して検索した画像を見せた。
 あいつは画像をじっと凝視した後、
「こんなんおるわけないやろ」
 とスマホを俺に突き返した。
「いるって!」
「嘘言わんといて」
 画像を見せてもこの反応だ。本当に頭から信じていないのか、俺が遊ばれているのか全く分からない。
 そういえば以前、俺が
「この海の向こうに見える島はA市」
 と地理を説明したら
「信じられへん。あんなに近いわけないやろ」
 と言いやがった。
 そもそもあいつは俺をまともに相手にしていない。
 あいつとは同じ職場の同期として知り合ったのだが、あいつは関西から入社してきた。うちの職場にはいまだに、上役に年賀状を出すというめんどくさい習慣がある。そろそろその準備をしなければならないその時季に、あいつは俺に言ってきた。
「年賀状書かなあかんのやてね」
「そうだよ」
「年賀状の書き方知ってる?郵便番号って言うのを書くんだよ。相手と自分の住所と名前も書くんやで」
「知ってるわ!」
 全てにおいてこんな感じだった。それなのに何故今こういう関係になってしまったのだろう。ときめきとか愛おしさとか感じたためしもないのに何故かこうなった。自然体でいいじゃないと言ってくれる人もいるのだが、恋愛とはこういうものだっただろうか?
 お前を連れて俺の自宅に向かっている今もなお不思議だ。
 港通りを歩いている時、俺は忠告した。初めて俺の家族に会わせる前に注意喚起だ。
「あのさ、親父の前ではスナメリを否定するなよ」
「スナメリって何やの」
「だーかーら!」
「心配あらへん」
 お前は今日の晴天みたいな明るい笑顔を見せた。
「スナメリも信じてるし、この海の向こうがA市って言うのも信じてる。あなたが言った事や。信じて当たり前やろ」
 俺は拍子抜けしてしばらく言葉が出なかった。
 人をおちょくってるようで、決めるところは決めてきやがる。こいつを嫁にするのは多分正しい判断だし、だからやっぱり俺は運が良いのだろう。
「……信じてもらっても、今日もスナメリは見えないけどな」
 俺はそれだけ答えて、潮の香りを感じながら自宅への道をお前とのんびり歩いた。  
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