しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

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おっさん号泣す

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 「けほっ、けほっ……」
 人形のように項垂れていたシービーから、突然、かすれた咳がこぼれた。

 「……シ、シービーっ!?」
 思わず名を叫ぶ。俺の腕の中で、彼女の胸が小さく上下する。さっきまで冷たかった体温が、ほんのりと戻ってきていた。

 「……っは……はぁ……」
 喉を鳴らしながら必死に空気を吸い込む姿に、涙がまたこぼれた。

 「生きてる……! おい、シービー、生き返ったんだよな!?」
 俺は何度も揺さぶる。震える手を必死に抑えながら。

 シービーはゆっくりとまぶたを開け、焦点の合わない視線をこちらに向けた。
 「……おっさん……? あたい……」

 その声はか細く、弱々しい。けれど、間違いなく生きている証だった。
 俺はぐしゃぐしゃの顔で、声にならない笑い声をあげた。

 「よかった……ほんとに……よかったぁ……」
 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながらも、心から安堵した。

 シービーは少し首を振り、苦笑を浮かべた。
 「……おっさんの泣き顔……きもいって……」
 「うるせぇっ!」
 愛おしい憎まれ口に涙が止まらない。

 そのとき、大広間の空気が一変した。
 玉座から立ち上がったルクスが、低く響く声で告げる。

 「……ドルガス」
 凍りつくような一言に、場が沈黙した。

 「貴様、我が眷属を実験の玩具とした……命を軽んじ、魔王領を危うくした。その罪、万死に値する」
 魔王の纏う威圧は、重圧そのものとなって広間を支配した。幹部たちの呼吸すら止まる。普段の穏やかさは消え、そこにあったのは圧倒的な支配者の姿だった。

 「お、待ちください魔王様!」
 ドルガスが必死に両手を広げる。
 「これはすべて魔王領の未来のため! 兵器なくして我らがどうやって──」
 「黙れ、貴様が作った兵器とやらを、その身をもって思い知るがいい」
 ルクスの一声で空気が裂けた。ドルガスの喉が押し潰されるように声を失い、青ざめた顔で膝をつく。

 俺は歯を食いしばり、拳を握った。心臓がまだドクドクいってる。
 「待てよルクス。それだけは止めてくれ、頼むから俺の家電でそれ以上誰かを傷付けるようなことは……」
 ルクスの目が、かすかに揺らいだ。
 短い沈黙のあと、彼女は厳かに頷いた。

 「……よかろう。ドルガス、幹部の座を剥奪する。以後は軟禁とする。二度と勝手は許さぬ」
 「ま、待て……魔王様! 私は──」
 「逆らうか?」
 ルクスの冷たい視線が走った瞬間、ドルガスは口を噤み、石床に額を擦りつけた。

 その様子を見守っていた幹部たちが、ざわめき始めた。

 「使い魔のマナは完全に消滅していたはず……回復魔法も効かなかった……」
 「いや、今もあの娘からマナは感じられん……何で動いている?」
 「まさか……さっきの装置で失われたマナを補うように、あの男の……“電力”とかいうエネルギーが流れ込んだのか?」
 「電子? 死人すら蘇らせる力だというのか……」

 幹部どものひそひそ声が、俺の耳にまで届く。
 俺は唇を噛んだ。ああ、分かってる。今のはAEDのおかげだ。でも、この世界のやつらには“電子”だの“電力”だの、未知の怪物にしか見えねぇんだ。

 「……おっさん……」
 胸元でシービーがかすかに声を漏らした。
 「泣きすぎ……鼻水、すげぇ……」
 「……うるせぇ」
 涙と一緒に笑いが漏れる。
 こうしてまた、あの小生意気な声を聞けた。それだけで、全部報われた気がした。

 俺はシービーを抱きしめ直し、静かに息をついた。
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