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おっさん考察す
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シービーが息を吹き返してから一晩。
ようやく落ち着きを取り戻した俺たちは、救護室の片隅で向かい合っていた。
真新しいシーツの上に腰を下ろすシービーは、手を膝にぎゅっと握りしめ、どこか怯えるような顔をしている。
「なぁ、おっさん……あたい、なんか変なんだけど……」
ぽつりと、声が落ちた。
「……変って?」
「魔法が出ねぇんだ。火も、氷も。回復魔法だって……」
唇をかみしめ、悔しそうに俯くシービー。
小さな手を開き、魔力を集めようとする仕草は確かに空振りで、以前のような元気もない。
「……これじゃあ、魔王様のために働けねぇよ。どうしたらいいんだよ、あたいは居る意味ないんじゃねぇか……」
その言葉に胸が痛んだ。
こいつは、ずっと俺のそばで支えてくれていた。口は悪いが、いつも隣に立って、俺の背中を押してくれた。そんなシービーが、自分の存在を否定するような顔をしている。
「安心しろシービー、俺だって魔法は使えない」
俺は立ち上がり、彼女の手を包んだ。
「でも、火も氷も、回復も……全部、家電でいけるから大丈夫だ」
「……は?」
ぽかんと口を開けるシービー。
「火はIHヒーターや電子レンジがある。氷は冷蔵庫、飲み物だってすぐにキンキンにできる。回復魔法は……まぁ、家電じゃまだ追いつけねぇけど、体を助ける道具はいっぱいある。AEDだってそうだろ?」
俺が笑いながら言うと、シービーの眉がぐいっと寄った。
「でもよ……おっさんが近くにいないと、あたい、家電は使えねぇんだろ? じゃあ一生、おっさんに付いて回らなきゃなんねぇってのか?」
吐き捨てるように言ったくせに、その声の奥にはかすかな迷いがあった。
俺は少し考え込んでから、あっさりと言った。
「俺は構わないぜ。お前と一緒にいると、楽しいからな」
「っ……ふざけんなよ」
シービーが顔を真っ赤にして立ち上がる。
「つーか、おっさんよぉ、どさくさにまぎれてあたいの胸、見たよな? それに……その、あたいの唇まで……責任取ってくれんだろうな?」
「せ、責任って……あれは、不可抗力だろ!」
思わず声が裏返る。
「お前、死ぬとこだったんだぞ! AEDのパッド貼るときに服を外したのも、人工呼吸で唇触れたのも、全部緊急事態だったんだ!」
「それはそれ、これはこれだろ」
シービーは腕を組み、勝ち誇った顔で言い放つ。
「いやいやいや……! じゃあ俺はどうすりゃいいんだよ!?」
「責任とって、あたいの面倒を一生見ろって言ってんだよ! そうすりゃ家電だって使いたい放題だろ」
口調は乱暴だが、声の端が震えている。照れ隠しだってのは分かる。
俺も顔が熱くなった。
俺はルクスと結婚しなきゃなんない。
あいつはドルガスを追放した。幹部を追い込むってことは、本気で魔王領を立て直したいってことだ。力じゃなく、笑顔でここを平和にしたいって思っているんだ。
だから俺は、どんなことでも協力する。
……まてよ、シービーはルクスから生まれたんだよな?
ということは、ルクスの子供ってこと?
で、俺がルクスの夫になるんだから、つまりシービーは俺の子供ってことだ。
「俺がお前のことを、この先一生面倒見るのは当然のことだ。任せろ!」
「えっ……」
シービーがビックリした顔で固まった。
「でもよ、おっさんには魔王様って婚約者がいるじゃねぇか」
「ああ、ルクスもお前も、なんなら他のメイドも全員まとめてかかってこいってんだ」
「……最低だな」
「なんでだよ」
「うるせぇ、この“すけこまし”」
「はぁ?」
シービーの機嫌が悪くなったことに戸惑い気味でいると、部屋をノックし救護室の先生が入ってきた。
「診察結果が出ました」
カルテっぽい資料を見ながら、先生は淡々と告げる。
シービーの体からは、マナが検出されなかった。
魔法が使えなくなったのは、それが原因だろう。
この世界のマナの消滅は、イコール”死”だとも言った。
では、なぜシービーが生きているのか。
それは、ドルガスが残した研究結果から導き出されたらしい。
マナに代わる粒子。
“電子”
つまり、俺と一緒、元の世界の住人と同じ構造になったってことか?
なんでだ?
AEDのせいか?
それとも人工呼吸?
一体何がどうなってんだ……。
待てよ、マナが電子に変わったってことは、電気が使えるってことじゃないか?
もしかして、俺が出した家電をシービーも単独で使える?
マジか、なんか急に心強い味方が増えた気がする。
ようやく落ち着きを取り戻した俺たちは、救護室の片隅で向かい合っていた。
真新しいシーツの上に腰を下ろすシービーは、手を膝にぎゅっと握りしめ、どこか怯えるような顔をしている。
「なぁ、おっさん……あたい、なんか変なんだけど……」
ぽつりと、声が落ちた。
「……変って?」
「魔法が出ねぇんだ。火も、氷も。回復魔法だって……」
唇をかみしめ、悔しそうに俯くシービー。
小さな手を開き、魔力を集めようとする仕草は確かに空振りで、以前のような元気もない。
「……これじゃあ、魔王様のために働けねぇよ。どうしたらいいんだよ、あたいは居る意味ないんじゃねぇか……」
その言葉に胸が痛んだ。
こいつは、ずっと俺のそばで支えてくれていた。口は悪いが、いつも隣に立って、俺の背中を押してくれた。そんなシービーが、自分の存在を否定するような顔をしている。
「安心しろシービー、俺だって魔法は使えない」
俺は立ち上がり、彼女の手を包んだ。
「でも、火も氷も、回復も……全部、家電でいけるから大丈夫だ」
「……は?」
ぽかんと口を開けるシービー。
「火はIHヒーターや電子レンジがある。氷は冷蔵庫、飲み物だってすぐにキンキンにできる。回復魔法は……まぁ、家電じゃまだ追いつけねぇけど、体を助ける道具はいっぱいある。AEDだってそうだろ?」
俺が笑いながら言うと、シービーの眉がぐいっと寄った。
「でもよ……おっさんが近くにいないと、あたい、家電は使えねぇんだろ? じゃあ一生、おっさんに付いて回らなきゃなんねぇってのか?」
吐き捨てるように言ったくせに、その声の奥にはかすかな迷いがあった。
俺は少し考え込んでから、あっさりと言った。
「俺は構わないぜ。お前と一緒にいると、楽しいからな」
「っ……ふざけんなよ」
シービーが顔を真っ赤にして立ち上がる。
「つーか、おっさんよぉ、どさくさにまぎれてあたいの胸、見たよな? それに……その、あたいの唇まで……責任取ってくれんだろうな?」
「せ、責任って……あれは、不可抗力だろ!」
思わず声が裏返る。
「お前、死ぬとこだったんだぞ! AEDのパッド貼るときに服を外したのも、人工呼吸で唇触れたのも、全部緊急事態だったんだ!」
「それはそれ、これはこれだろ」
シービーは腕を組み、勝ち誇った顔で言い放つ。
「いやいやいや……! じゃあ俺はどうすりゃいいんだよ!?」
「責任とって、あたいの面倒を一生見ろって言ってんだよ! そうすりゃ家電だって使いたい放題だろ」
口調は乱暴だが、声の端が震えている。照れ隠しだってのは分かる。
俺も顔が熱くなった。
俺はルクスと結婚しなきゃなんない。
あいつはドルガスを追放した。幹部を追い込むってことは、本気で魔王領を立て直したいってことだ。力じゃなく、笑顔でここを平和にしたいって思っているんだ。
だから俺は、どんなことでも協力する。
……まてよ、シービーはルクスから生まれたんだよな?
ということは、ルクスの子供ってこと?
で、俺がルクスの夫になるんだから、つまりシービーは俺の子供ってことだ。
「俺がお前のことを、この先一生面倒見るのは当然のことだ。任せろ!」
「えっ……」
シービーがビックリした顔で固まった。
「でもよ、おっさんには魔王様って婚約者がいるじゃねぇか」
「ああ、ルクスもお前も、なんなら他のメイドも全員まとめてかかってこいってんだ」
「……最低だな」
「なんでだよ」
「うるせぇ、この“すけこまし”」
「はぁ?」
シービーの機嫌が悪くなったことに戸惑い気味でいると、部屋をノックし救護室の先生が入ってきた。
「診察結果が出ました」
カルテっぽい資料を見ながら、先生は淡々と告げる。
シービーの体からは、マナが検出されなかった。
魔法が使えなくなったのは、それが原因だろう。
この世界のマナの消滅は、イコール”死”だとも言った。
では、なぜシービーが生きているのか。
それは、ドルガスが残した研究結果から導き出されたらしい。
マナに代わる粒子。
“電子”
つまり、俺と一緒、元の世界の住人と同じ構造になったってことか?
なんでだ?
AEDのせいか?
それとも人工呼吸?
一体何がどうなってんだ……。
待てよ、マナが電子に変わったってことは、電気が使えるってことじゃないか?
もしかして、俺が出した家電をシービーも単独で使える?
マジか、なんか急に心強い味方が増えた気がする。
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