34 / 130
スイラン選択す(スイラン視点)
しおりを挟む
あの日から、世界は静かだった。 トレスはもう僕に嫌がらせをしない。取り巻きも、何も言ってこない。 電次郎さんが来てからだ。トレスは変わった。少なくとも、表面上は。
それが……悔しかった。
あれだけ僕を笑い者にして、教室の道具みたいに扱って、今さら普通に笑って話してる。 誰も、何も言わない。僕だって、何も言えないまま、毎日を過ごしている。
……それで、いいの?
電次郎さんの家電を囲んで微笑むクラスメイトたちを眺めながら、心の底にずっと残っていた黒い焔が、またゆっくりと燃え上がる。 僕は──あいつらに、壊された。 でも今は、僕も、笑っている。……それが、許せなかった。
放課後、僕は一人、VRヘッドセットを手に実験室の隅にいた。 これは電次郎さんが貸してくれた道具だ。誰でも夢の中のような体験ができる、不思議な魔道具。
最初に使ったのはトレスだった。大笑いして、電次郎を「アニキ」とまで呼んでいた。 ……滑稽だった。
僕はそっとヘッドセットの内部を開き、画像が映し出される部分に幻覚魔法の印を書いた。 トレスがこれを使っている時に、魔法を発動すれば、自分の失態、過去の残酷な言葉、他者に投げつけた侮辱を再現させる。
それにより、地獄の門が開き、炎に包まれ、地の底へと落ちていく幻覚を見る。
「これで……気がつくかな。少しは」
でも、たかが幻覚……きっとすぐに気付き、誰の悪戯だよって笑って済まされるだけかもしれない。
でも、これで僕の黒い焔が少しでも鎮まってくれたら……きっと気が晴れる。
そのとき、背後から聞き覚えのある声がした。
「おっ、居た。スイラン悪い、それ貸してくれ。トレスの奴がうるさくてさ」
振り返ると、電次郎がドアにもたれていた。いつもと同じ、ちょっと気の抜けた顔。
「うん、いいよ。貸してくれてありがとう」
「そういやコレ。俺が触れてないと動かないのに、どうして欲しがったんだ?」
「構造が気になって、凄いよねこの魔道具。全然仕組みが分からないけど……」
「だろ? 俺もそう思うんだよ。やっぱ家電はすげぇんだ。電源ポチって押すだけでみんな幸せになっちまう。マジで人生捧げる価値あるもんなんだよな。そうか、スイランもその凄さを分かってくれたか。どうだ? トレスと一緒に実際に使ってみるか? 対戦もできるんだぞ」
電次郎さんは、声を弾ませた。
……本当に、人が喜ぶ姿が好きな人なんだ……それに比べて僕は……。
「どうしたぁスイラン? すげぇ悲しそうな顔してるけど、なんかあったか? おじさんで良かったら話し聞くぜ?」
僕は口を開けなかった。
「……まぁ、人に言えねぇことの一つや二つ、男なら持ってらぁな。気が向いたらいつでも相談してくれ」
そう言って、電次郎さんは去っていった。
……ズルい人だ。そうやっていつも誰かの心に寄り添おうとする。その行為に一体なんの意味があるというのだろう……理解に苦しむ。
ああ、急いで電次郎さんの後を追わないと……。
トレスが顔を歪めて慌てる姿を見なきゃ……。
それが……悔しかった。
あれだけ僕を笑い者にして、教室の道具みたいに扱って、今さら普通に笑って話してる。 誰も、何も言わない。僕だって、何も言えないまま、毎日を過ごしている。
……それで、いいの?
電次郎さんの家電を囲んで微笑むクラスメイトたちを眺めながら、心の底にずっと残っていた黒い焔が、またゆっくりと燃え上がる。 僕は──あいつらに、壊された。 でも今は、僕も、笑っている。……それが、許せなかった。
放課後、僕は一人、VRヘッドセットを手に実験室の隅にいた。 これは電次郎さんが貸してくれた道具だ。誰でも夢の中のような体験ができる、不思議な魔道具。
最初に使ったのはトレスだった。大笑いして、電次郎を「アニキ」とまで呼んでいた。 ……滑稽だった。
僕はそっとヘッドセットの内部を開き、画像が映し出される部分に幻覚魔法の印を書いた。 トレスがこれを使っている時に、魔法を発動すれば、自分の失態、過去の残酷な言葉、他者に投げつけた侮辱を再現させる。
それにより、地獄の門が開き、炎に包まれ、地の底へと落ちていく幻覚を見る。
「これで……気がつくかな。少しは」
でも、たかが幻覚……きっとすぐに気付き、誰の悪戯だよって笑って済まされるだけかもしれない。
でも、これで僕の黒い焔が少しでも鎮まってくれたら……きっと気が晴れる。
そのとき、背後から聞き覚えのある声がした。
「おっ、居た。スイラン悪い、それ貸してくれ。トレスの奴がうるさくてさ」
振り返ると、電次郎がドアにもたれていた。いつもと同じ、ちょっと気の抜けた顔。
「うん、いいよ。貸してくれてありがとう」
「そういやコレ。俺が触れてないと動かないのに、どうして欲しがったんだ?」
「構造が気になって、凄いよねこの魔道具。全然仕組みが分からないけど……」
「だろ? 俺もそう思うんだよ。やっぱ家電はすげぇんだ。電源ポチって押すだけでみんな幸せになっちまう。マジで人生捧げる価値あるもんなんだよな。そうか、スイランもその凄さを分かってくれたか。どうだ? トレスと一緒に実際に使ってみるか? 対戦もできるんだぞ」
電次郎さんは、声を弾ませた。
……本当に、人が喜ぶ姿が好きな人なんだ……それに比べて僕は……。
「どうしたぁスイラン? すげぇ悲しそうな顔してるけど、なんかあったか? おじさんで良かったら話し聞くぜ?」
僕は口を開けなかった。
「……まぁ、人に言えねぇことの一つや二つ、男なら持ってらぁな。気が向いたらいつでも相談してくれ」
そう言って、電次郎さんは去っていった。
……ズルい人だ。そうやっていつも誰かの心に寄り添おうとする。その行為に一体なんの意味があるというのだろう……理解に苦しむ。
ああ、急いで電次郎さんの後を追わないと……。
トレスが顔を歪めて慌てる姿を見なきゃ……。
27
あなたにおすすめの小説
神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~
於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。
現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!
の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては……
(カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています)
(イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる