しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

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スイラン選択す(スイラン視点)

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 あの日から、世界は静かだった。  トレスはもう僕に嫌がらせをしない。取り巻きも、何も言ってこない。  電次郎さんが来てからだ。トレスは変わった。少なくとも、表面上は。
 それが……悔しかった。
 あれだけ僕を笑い者にして、教室の道具みたいに扱って、今さら普通に笑って話してる。  誰も、何も言わない。僕だって、何も言えないまま、毎日を過ごしている。
 ……それで、いいの?

 電次郎さんの家電を囲んで微笑むクラスメイトたちを眺めながら、心の底にずっと残っていた黒い焔が、またゆっくりと燃え上がる。  僕は──あいつらに、壊された。  でも今は、僕も、笑っている。……それが、許せなかった。

 放課後、僕は一人、VRヘッドセットを手に実験室の隅にいた。  これは電次郎さんが貸してくれた道具だ。誰でも夢の中のような体験ができる、不思議な魔道具。
 最初に使ったのはトレスだった。大笑いして、電次郎を「アニキ」とまで呼んでいた。  ……滑稽だった。

 僕はそっとヘッドセットの内部を開き、画像が映し出される部分に幻覚魔法の印を書いた。 トレスがこれを使っている時に、魔法を発動すれば、自分の失態、過去の残酷な言葉、他者に投げつけた侮辱を再現させる。
 それにより、地獄の門が開き、炎に包まれ、地の底へと落ちていく幻覚を見る。
 「これで……気がつくかな。少しは」
 でも、たかが幻覚……きっとすぐに気付き、誰の悪戯だよって笑って済まされるだけかもしれない。
 でも、これで僕の黒い焔が少しでも鎮まってくれたら……きっと気が晴れる。
 
 そのとき、背後から聞き覚えのある声がした。
 「おっ、居た。スイラン悪い、それ貸してくれ。トレスの奴がうるさくてさ」
 振り返ると、電次郎がドアにもたれていた。いつもと同じ、ちょっと気の抜けた顔。
 「うん、いいよ。貸してくれてありがとう」
 「そういやコレ。俺が触れてないと動かないのに、どうして欲しがったんだ?」
 「構造が気になって、凄いよねこの魔道具。全然仕組みが分からないけど……」
 「だろ? 俺もそう思うんだよ。やっぱ家電はすげぇんだ。電源ポチって押すだけでみんな幸せになっちまう。マジで人生捧げる価値あるもんなんだよな。そうか、スイランもその凄さを分かってくれたか。どうだ? トレスと一緒に実際に使ってみるか? 対戦もできるんだぞ」
 電次郎さんは、声を弾ませた。
 ……本当に、人が喜ぶ姿が好きな人なんだ……それに比べて僕は……。

 「どうしたぁスイラン? すげぇ悲しそうな顔してるけど、なんかあったか? おじさんで良かったら話し聞くぜ?」
 僕は口を開けなかった。

 「……まぁ、人に言えねぇことの一つや二つ、男なら持ってらぁな。気が向いたらいつでも相談してくれ」
 そう言って、電次郎さんは去っていった。
 ……ズルい人だ。そうやっていつも誰かの心に寄り添おうとする。その行為に一体なんの意味があるというのだろう……理解に苦しむ。
 
 ああ、急いで電次郎さんの後を追わないと……。
 トレスが顔を歪めて慌てる姿を見なきゃ……。
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