逆デスゲーム

長月 鳥

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執行

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 「何を差し出すか? はぁ? 何を言ってんだ」
 音声だけのアバターに困惑するホンマ。でも確かにまったく意味が分からない。

 「え? ゲーム? はい、そうなんですか、分かりました」
 モニターの向こう側ではホンマの母親が誰かと会話しているみたいだ。
 「じゃあ、私はけいちゃんに夕飯を差し出そうかしら……これでいいんですか?」
 母親はモニターに写っていない誰かに目線を移したまま会話を続けた。
 「なんだか、けいちゃんとゲームしてくれって頼まれちゃった、ちょっとだけならいいでしょ? 悪い人達じゃないみたいだし、賞金も出るらしいわよ」
 人達……このゲームの関係者数人がホンマの家に入り込んでいるのか? だとしたら最悪な状況だ。
 「けいちゃんはどうするの? 何を出してくれるのかしら」
 だけど、ここの状態を知らないホンマの母親は楽しそうにソファに座った。

 「なんもやんねぇよ、バカらしい、いいからそいつらを家から追い出せ、警察呼んでもいいから早くしろ」
 警察……。俺とアカネちゃんは顔を見合わせてホンマの所へ走り、
 「すみません、警察を呼んでください。俺たちは監禁されているんです。助けて下さい」
 モニターに向かって手を振りながら叫んだ。

 「あら、けいちゃんのお友達? なんだか楽しそうね」
 「お母さん、遊びじゃないんですよ、助けて下さい」
 「やめとけ、あいつの天然は尋常じゃねぇ」
 ホンマは不貞腐れた表情で俺とアカネちゃんを引き留めた。
 「でも、ここから抜け出せるチャンスかも……」
 「巻き込みたくねぇんだよ」
 ホンマは俯いたまま叫んだ。
 確かに、向こう側にいる奴らが、この理不尽なゲームの関係者だとしたら気が気ではいられないかもしれない……けど今はみんなの命が……。

 『宣言を受諾しました。
 判定を行います』
 アバターの声が俺の決断を鈍らせる。判定?

 『生かし合い判定の結果が出ました。
 最初の刑を執行します』
 刑? 執行?

 「ぎゃあぁぁぁっぁぁぁ」
 耳をつんざく叫び声がモニターから大音量で放出された。
 「お、おふくろ?」

 「ひぃぃ、なんでこんな、けいちゃん、助けて」
 いつの間にかホンマの母親は、数人の黒服に囲まれて腕や肩を掴まれている。あれじゃあ身動きできない。

 そして、黒服の一人が、ホンマの母親の左手をカメラに向けた。
 
 モニターには、あらぬ方向へ曲がった小指が映し出され、アカネちゃんが目を背けた。

 「くそっ、くそっ、くそっ、くそがぁぁぁぁ」
 ホンマは、ただただ叫んだ。

 最悪だ。
 今回ばかりはホンマに、同情することしかできない。

 『では、どんどん行きましょう。
 次に差し出すものを宣言してください
 制限時間は10分です』
 アバターの声が無慈悲に響いた。
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