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四葉のクローバー
一流
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いよいよ夕方の買い物の時間。特段やましい事をするわけでもない。しかし、日が暮れるにつれ緊張感は増す。質問をして期待する答えが無いというのはいつ以来だろうか。分かっているのに質問をする。そして、答えてくれたら凄くタメになったという表情をする。社交辞令みたいなものだ。相手とのやり取りをスムーズにする為の手段みたいなもの。今回はそれが無い。
「まーちゃん、行こうかね」
ばーちゃんが言った。勝負の時だ。ザシコからのアドバイス通りに言うべきなのか、それとも自分で考えて言うべきか、未だに悩んでいた。とりあえず返事だけはしとこう。
「は~い、今から直ぐ着替えますんで、ちょっと待ってて~!」
服を着替えている最中、鋭い視線を感じた。ザシコだった。僕はザシコが失敗をするのではないかと心配していると思ったので
「大丈夫、失敗してもまたトライするまでさ。あまり心配しないで」
と虚勢を張って言った。しかし、ザシコは
「本当はこういう事は言うべきではないのは承知しておる。ただ、婆様に『嘘』をつくべきではなかろう。『嘘』は恐らくバレる。どんな『嘘』でも。相手は婆様じゃ。お主が一番分かっておろう?」
と忠告気味な口調で言った。図星だった。昨日の会話のやりとりで何となく察している。全てお見通しだけれども、相手を気遣って敢えて聞かない。それが僕の自慢のばーちゃんだ。ザシコと目を合わせ、頷き
「じゃあ、行ってくる」
と笑顔で言った。ザシコは何も言わず、頷くだけだった。
「それじゃあ行ってきます!」
両親とじーちゃんと兄貴に言って家を出た。歩きながらばーちゃんに質問した。
「ねぇ、ばーちゃん。聞きにくい事なんだけどさ、『死』ってなんだと思う?」
ばーちゃんは顔色変えずに答えた。
「そうねぇ、ご先祖様にご報告しに行く機会……かねぇ~。」
「え?ご先祖様にご報告?」
「そうたい。もう死んでしまったから会えんて。ね?だから死んだらご先祖様に色々ご報告せにゃね」
「何を報告しにに行くの?」
「元気に過ごすことができましたよって!」
「それだけ?」
「それだけたい!ここまで生きてこれたけん、それだけでよかよ」
「なるほど……確かに、元気でいることが普通の様に思えてる事こそが有り難いのかもね!」
「そうたい!なんでも元気じゃなきゃ出来んとよ。まーちゃん達も、これからも元気に過ごせますようにって拝まにゃいかんよ?」
「そうだね!これからも僕達が元気で過ごせますようにってお祈りしとかなきゃね!」
「あははは。じゃあ、まーちゃんの願いを叶えるためにあの世に行かんとね」
「いやいやいや(笑)そしたら願いが叶わんて」
「それもそうね(笑)」
スーパーに行って帰ってくるまでの時間は決して長いものではなかった。でも、とても濃厚で、穏やかで、温かかくて、幸せだった。
帰ってからザシコにこの事を報告した。ザシコは窓から見える夕日を眺めながら嬉しそうに
「そうか……流石じゃな。『格』が違うわい」
と呟いた。ザシコがどういう気持ちかは分からなかったが、同じ思いだったと思う。
「うん、『格』が違った」
僕も夕日を眺めるザシコを見つめ、ゆっくり言った。
「まーちゃん、行こうかね」
ばーちゃんが言った。勝負の時だ。ザシコからのアドバイス通りに言うべきなのか、それとも自分で考えて言うべきか、未だに悩んでいた。とりあえず返事だけはしとこう。
「は~い、今から直ぐ着替えますんで、ちょっと待ってて~!」
服を着替えている最中、鋭い視線を感じた。ザシコだった。僕はザシコが失敗をするのではないかと心配していると思ったので
「大丈夫、失敗してもまたトライするまでさ。あまり心配しないで」
と虚勢を張って言った。しかし、ザシコは
「本当はこういう事は言うべきではないのは承知しておる。ただ、婆様に『嘘』をつくべきではなかろう。『嘘』は恐らくバレる。どんな『嘘』でも。相手は婆様じゃ。お主が一番分かっておろう?」
と忠告気味な口調で言った。図星だった。昨日の会話のやりとりで何となく察している。全てお見通しだけれども、相手を気遣って敢えて聞かない。それが僕の自慢のばーちゃんだ。ザシコと目を合わせ、頷き
「じゃあ、行ってくる」
と笑顔で言った。ザシコは何も言わず、頷くだけだった。
「それじゃあ行ってきます!」
両親とじーちゃんと兄貴に言って家を出た。歩きながらばーちゃんに質問した。
「ねぇ、ばーちゃん。聞きにくい事なんだけどさ、『死』ってなんだと思う?」
ばーちゃんは顔色変えずに答えた。
「そうねぇ、ご先祖様にご報告しに行く機会……かねぇ~。」
「え?ご先祖様にご報告?」
「そうたい。もう死んでしまったから会えんて。ね?だから死んだらご先祖様に色々ご報告せにゃね」
「何を報告しにに行くの?」
「元気に過ごすことができましたよって!」
「それだけ?」
「それだけたい!ここまで生きてこれたけん、それだけでよかよ」
「なるほど……確かに、元気でいることが普通の様に思えてる事こそが有り難いのかもね!」
「そうたい!なんでも元気じゃなきゃ出来んとよ。まーちゃん達も、これからも元気に過ごせますようにって拝まにゃいかんよ?」
「そうだね!これからも僕達が元気で過ごせますようにってお祈りしとかなきゃね!」
「あははは。じゃあ、まーちゃんの願いを叶えるためにあの世に行かんとね」
「いやいやいや(笑)そしたら願いが叶わんて」
「それもそうね(笑)」
スーパーに行って帰ってくるまでの時間は決して長いものではなかった。でも、とても濃厚で、穏やかで、温かかくて、幸せだった。
帰ってからザシコにこの事を報告した。ザシコは窓から見える夕日を眺めながら嬉しそうに
「そうか……流石じゃな。『格』が違うわい」
と呟いた。ザシコがどういう気持ちかは分からなかったが、同じ思いだったと思う。
「うん、『格』が違った」
僕も夕日を眺めるザシコを見つめ、ゆっくり言った。
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