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松編 ①
松 4
しおりを挟む婚儀前日、衣装を身にまとい御披露目会場へと歩く。昨日とはうってかわって賑わっていた。
「凄いですね」
「はい、危険の無いようお守りします」
護衛は緊張した面持ちで人を近づけないようにした。周りはそれに気が付き松に視線がいく。最高位護衛を5人も付けていれば誰もが王に近しい者だと気が付つく。しかも誰一人松の知り合いは当たり前だがおらず、見慣れない顔に不思議に思う周りからはあれがうわさの王妃ではとの囁きもあった。
「注目の的過ぎる。俺は河口君じゃないけどな~」
「はい、そうなんですが知らぬ人達にはそう見えるのかもしれないですね」
「とりあえず、端の方に座ってようかな」
「はい、ではあちらへ」
座って居るとすかさず誰かが話しかけてきた。
「失礼ですがお名前を聞いても?」
「はぁ、松永です」
この光る模様みたいなのは例の文字?
それともアイコンタクトか?
「あの、この光る文字は読めません。すみません」
護衛がすぐに反応した。
「松君様へのアイコンタクトの一切を禁止する。王の命によりこれより先は処罰する」
「も、申し訳ございませんでした」
「常識ある選ばれし者のみ儀式の参加が認められている。邪な者は今後【最強のナグマ】が相手するとの事だ」
一斉に人が引いていった。
男は同じ服装の人に叱られながら席を外した。
「松君様、私共には今の文字は見えていませんので今のがアイコンタクトになります。アイコンタクトをこのような場所で知らない人にいきなりするのは無礼な事なので気にしないで下さい」
「わかりました」
最強のナグマってフィグさんの事だよな~またの名はみたいな感じかな。
「ちなみに、文字は手をかざします。こんな感じです」
「おぉ~!綺麗ですね」
「ありがとうございます。なので動作でわかると思います。今はアイコンタクト禁止と書きました」
「へぇ~」
聞いてはいたが異世界っぽい~
アイコンタクトも便利そうでいいな~
もらったお酒を飲みながら周りを見ていると護衛の一人が走りよってきた。
やまとが松と一緒にいたいから呼んで欲しいと頼まれたとの事。別の部屋に移動することになり松は席を立ち案内される道を護衛達と進んだ。
その先にやまととフィグが見えた。近寄ろうとしたら後ろから声を掛けられる。
「異世界人!!」
松が振り向くと護衛がさっと松を庇った。
「誰だお前は!!」
一人の護衛が気が付く。
「貴方は…元王妃のソルト様!?」
「いかにも、異世界人に王を取られたソルトです。その異世界人を私に渡しなさい!!」
「それ、俺じゃないです」
「嘘言わないで下さい!!その護衛の数に身なりもナグマ国最強の男と親しい証!王を寝とり私をつま弾きにした報いは受けてもらいます!」
「だから…」
「松君~!どうしたんですか?」
「河口君、何かこの人フィグさんの元許嫁らしいです」
「えー!?」
フィグも驚いていた。
何故ならばしっかりと後日謝りの伝言とそれに対する返事も了承したと返ってきたからだ。
「フィグ本当?」
「ああ…なんの用だ。断りとその了承の返事もきている」
「わかっています!勝手に周りがしたことです!何故私じゃ駄目なんですか!!何年も待ち続けたんです!!そんな異世界人のどこがいいんですか!」
かなりご立腹の様子。
護衛はフィグが来たため横にそれた。
「やまとが好きだからだ」
「答えになってません!なら私を好きになっても良いではないですか!!誰でもいい!」
「やまとがいい」
フィグの冷たい言い方にやまとはおろおろする。
「何年も待ち続けた私はどうすればいいんですか!」
「時間ではない」
「決められた相手と婚儀すべきです!」
「お前は決められた事しかしないのか」
「しません!」
「では、死ぬと決められたら死ぬのか」
「勿論です!」
「やはりお前は一生好きになれない」
「こんなにも従順で役にたつ妃のどこがいけないんですか!」
「必要ない」
「あ、あの。もし良ければ今からでもお返し致しますが」
フィグがピクリとなる。
(河口君、フィグさんの顔みてよ)
「貴方は関係無い!」
「でも、彼がフィグさんの結婚相手ですよ。俺は違います。河口君の友人です」
「あ、そうなんですか。なら、そこの異世界人!寝取った罪は重い!私に大人しく捕まり、一生部屋で可愛がってやる!」
「ソルト、魔物送りにされたいのか」
フィグの声が低くなる。
「王も異世界人も許せない!!」
「だからなんだ」
魔物を仕留める雰囲気に似ていて護衛が思わずおののく。
「あ、あの!!本当は優しい、いい子なんです!ちょっと口下手で無表情で無愛想で筋肉が過ぎるだけなんです!」
「……。」
「だから、フィグは許してやってください!もしかしたら今からフィグも好きになってくれるかもしれないですし。横取りしたのなら俺帰りますから!あと、松君は関係ないから部屋に帰していいですか?」
(河口君、フィグさんの顔見て!完全に元妃殺る気まんまんだから!)
フィグと松の前に体を出して守った。
それを見たソルトは気に入らず口を滑らす。
「なぜ、そんな口づけに馴れた遊びの異世界人などがいいんですか!淫乱だと国でも有名です!誰にでも股を拡げ…」
「おい…」
その低くい声はフィグでも周りの護衛でもなく
松だった。
スタスタと元妃の前で立ち止まった。
クラムにもらった護身用の棒をソルトの顎に突き当ててそれ以上言わないように下から押した。
「てめぇ、さっきから頭の腐ったような発言ばっかりしやがって。河口君がそんな奴な訳ねぇだろ。フラられたのわかんねぇのかよ、気持ち悪りぃな」
「あ、あの、松君?」
「河口君、ちょっと待っててね」
ニッコリした顔をやまとにした松は隣のフィグを見た。フィグはすかさずやまとの耳を両手で押さえ二人一緒に後ろ向きになる。フィグは顔だけ松の方を見て二人の様子を伺う。
「おい、殺すぞ。河口君をあと一言でも侮辱してみろ俺が許さん。俺の大事な河口君が寝とるわけねぇだろ」
「っ…」
「おい、返事」
「…は…ぃ」
「式、ぶち壊してみろ。真っ先にお前殺しに行くから覚えておけ。あと、俺からしたらお前が異世界人だ。二度と下らないこと言うなよ」
「は…はぃ」
「返事できるじゃねぇか」
ぐっと首を更に上に上げさせニッコリ笑った。
「河口君に謝れ」
うんうん頷いた。
フィグに耳を押さえられ反対向きになっているやまとには何が何だかで頭を上に向けフィグの顔を見た。フィグはアイコンタクトで「大丈夫だ、二人の方が話しやすいだけだ」といい暫くしたら手を離し松の方に向かせてくれた。
「松君?あの…」
「申し訳ございませんでした!!」
両手をつきソルトは深々と謝った。
「え、え?どうしたんですか?」
「何だか勘違いしてたみたいだよ。もう二人の邪魔はしないってさ。ね?」
「はい!!一切致しません!」
「あの、でもフィグを返して欲しいんじゃ?」
「いりません!!全くいりません!!欲しくもないです!」
「ね、河口君」
「う、うん。あの、頭を上げてください。良かったらこれチョコレートだけど食べて下さい。俺もソルトさん傷つけてごめんね」
「いえ…あ、ありがとうございます。すみませんでした。お、お幸せに…」
ソルトはよろよろと帰っていった。
「フィグ、クラムさんに説明して。ソルトさんに気分悪いまま帰って欲しくないんだけど。何かいい方法ない?」
「クラムを呼べ」
「はっ!」
やまとは松に近寄った。
「松君~ありがとう。松君のおかげで何だかわからないけど解決したよ~巻き込んだのに助けてもらってすみません」
「いえいえ。河口君の誠意が伝わって良かったです」
「松君さん、ありがとう。最大の感謝をする」
「友達ですから」
「松君、俺の一番大好きな友達!」
「俺も河口君一番の親友だよ!」
二人はハグをした。フィグは嫉妬などせず寧ろ暖かい目で二人を見ていた。
するとクラムが駆け寄ってきた。
「王!事情はききました。元王妃様もこちらで確保しましたが詳しく聞きたいです」
「わかった」
四人は廊下を歩いて部屋に向かおうとしていたら急にやまとが足を止めフィグの腕を掴んだ。フィグも止まりやまとを見ると真剣な顔をしていた。
「フィグ、俺さ、フィグいるから。いらなくなんてないから。返すとかなくて…フィグが本当は欲しいから。だから許してもらえて良かった!」
フィグはビックリしていた。
「後、フィグ好きだから帰る事にならなくて良かった!」
やまとはニッコリと優しく微笑んだ。
ドドドドドドドド
(あぁ、河口君。今、最強のナグマの最後の砦が崩壊した音が俺には聴こえたよ)
「何か音が?」
「クラムさん、俺が詳しく話しますので別部屋案内してください」
「はい、それはいいですが……王?」
「あの二人は明日まで戻らないです」
「え!?明日…明日って式ですよ!王!」
「後はこっちでやるから~河口君安心して~」
フィグさんは河口君を抱き抱えあっという間に消えていった。
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