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番外編

4 クラムという男 ①

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「うーん」

 なかなか良い人が見つかりませんね~
 条件を下げてみたんですが…
 やはりもう少し妥協すべきでしょうか…

「クラム、お前は伴侶を迎えてどうする」

 資料を見てると王が妙な質問を私に投げ掛けました。

「一緒に暮らします」

「そうじゃない」

 それ以外ですか…

「衣食住を共にするですかね」

 フィグは大きなため息をついて話す。普段は城の事や仕事は何でも気がつきてきぱきこなせるが、自分の事になるとめっきりだめだった。

「お前は…肝心なところが抜けている。だから、誰も長続きしない」

 肝心な所…確かに私は今まで沢山の方と夜を共にしてきましたがこれと言って伴侶にしたいとは思いませんでした。では、なぜ伴侶が欲しいと思ったかと言うと正直、王とやまとさんを見たからです。
 二人が仲睦まじいのが羨ましくなって自分もそろそろ欲しいなと思った所です。それに、最近では松君さんとソルトさんが良い仲になり始めているのもあります。

 二人はお付き合いとはいってないもののいい雰囲気だと思いました。

「ですから今回は…」

「お前は伴侶とどうなりたいんだ。俺はやまとと一生添い遂げたい」

 そうでしょうとも。

「私もです」

「なら、歩み寄れ。お前には愛が足りない」

「あい…ですか?」

 前にやまとさんにも聞かれました。
 『あい』はわかりますか?と。

 ナグマには『あい』と言うものはありません。ですから王ややまとさんがおっしゃるのが何かはわかりませんが恐らく好きに近いものでしょう。

「クラム、やまとを探してくる」

「はい、こちらはお気になさらず」

 あい……そんなにも重要なものなのでしょうか。それがあると、どうなるのでしょう。王はそれを手に入れたのでしょうか。

 ナグマでは存在しない物を手にいれるのは難しいです。ただ、それを知っている人はいるかもしれません。聞いてみる価値はあります。

「失礼します」

私は今一番『あい』に詳しいのではないかと思いこの方を尋ねました。

「クラム様」

「ソルトさん、今お一人ですか?」

「はい」

 牢屋を改造したこの部屋はその雰囲気を多少残しつつもしっかりとした部屋に仕上がっています。最近は松君さんはこちらに来るのが主流でしてやまとさんの部屋からはあまり来なくなりました。ソルトさんと親密になってきた証だと思います。

「松君さんは最近はいらっしゃいますか?」

「はい、ほぼ週末と呼ばれる日は予定がない限り来てくださいます」

 なんと!?意外にも松君さんが定期的に来ていたなんてしりませんでした。やはり、親密度は上がっていますね。

「松君さんに聞きたい事があったのですが次に来た時お時間いただけないか聞いて貰えませんか?」

「はい、わかりました。クラム様、何を聞かれるんですか?」

「ええ、『あい』と言うのが何か聞きたくて。ナグマにはありませんから、松君さんならやまとさんより詳しいかと思いまして。ソルトさんは聞いた事ないですか?」

「『あい』ですか…」

 無いようですね。と言うことは親密ではあるが恋仲ではまだ無いと言う事ですかね。

「はい、それがあれば婚姻できるかもしれないのです」

「その『あい』が無いとクラム様は婚姻できないのですか?」

 今までの経緯を話すとソルトさんは大層興味を示されていました。そして松君さんへ話を通してくれると言ってくれましたので一安心です。

あとは、相手を見つけて『あい』を手に入れれば無事婚姻できそうですね。意外とわかれば簡単かもしれません。



…………………


「おい、やまとはどこだ」

「はっ、展望台に行かれました」

 展望台へ急いで行くも閉鎖されていた為近くの護衛にやまとの足取りを聞いた。次に訪れたのは食堂。

 ざわざわとなる中、フィグが到着すると一気に緊張が走った。さっと道が開かれ見渡すもやまとの姿は見られなかった。

「やまとを見なかったか」

「はい、王妃様は先程までこちらで皆とお話していらっしゃいました。その後は最高位護衛と出ていかれました」

「行き先は」

「申し訳ございません。わかりかねます。ただ、服飾担当の者と知り合いのようで席を共にしておりました」

「案内しろ」

 ビタは上司に呼ばれ驚いて腰を抜かした。王自らがこんな場所にしかも自分に会いに来てなにかをしでかしたと思った。思い当たる節はやまとと会話した事ぐらいだった。上司と一緒に頭を下げる。

「も、申し訳ございません」

「何に謝る」

「きょ、許可なく、や、やまと王妃様と会話を致しました」

「それは、お前からか」

「……い、いえ」

「なら、謝る必要はない。やまとと知り合いか」

「いえ…滅相もございません。以前、クラム様の面接の場で声をかけて頂いて今日またお会いし声をかけて下さいました」

「やまとはどこへ行くと言っていた」

「落ち込んでいらっしゃったので気分転換できる場所を教えました」

「どこだ、案内しろ」

 ビタは急いでフィグに教えた場所に案内をした。案内された場所に行くとちょこんと椅子に座っていた。

 護衛もビタも下がらせ二人だけになった。

 小さく縮こまって座るやまとを後ろから抱きしめた。

「ふ、フィグ!?」

「探した」

「ごめん」

 様子のおかしかったやまとにフィグは自分の事で聞きたいことがあるのではと言ったがやまとはいいと言った。

「世の中知らない方が良いこともある。何か俺らしくない行動したなって」

「やまとらしくないとは?」

「何て言うか…フィグの詮索するみたいな事。やな事したなって反省してた。俺、やな奴」

 フィグは考えたが考えは変わらなかった。

「俺は思わない。やまとがやな奴だとは」

「フィグのいない所でフィグの過去知りたくて聞いた。結果わからなかったけど後から考えたらスゲーやなだなって。知ってもフィグは変わらないのに。自分が嫌いになりそう」

「嫌いに思わなくていい」

 隣に座りやまとの拗ねたような怒ったような顔を見ていた。

「全く嫌いになる理由がない。やまとは俺のどんな過去を知りたかったんだ」

「言わない。知りたくないから」

「因みに俺も知りたいが知りたくない事はある。ただ言えるのは俺は恋の経験はほぼないからやまとに見合う伴侶か気にしている」

「そっか」

「小さい頃に1.2人あるぐらいだ。行為は王になってから何度かあるが好きと言う感情は生まれなかった」

「だから、聞いてない…けど…なんか…ヤリ○ンだったらちょっと嫌だなって」

「ふっ。それに忙し過ぎてそんな暇なかった」

「なら、何で皆が…フィグの経験聞いたら黙ったんだろ」

 そんな事聞いたのかと思ったが答えは簡単だった。

「王の経験なんて誰も知らないしそんな事話せば処罰されるからな」

「そなの?」

「ああ、だから皆話せなかったんだろ」

 少しホッとしたやまとを見てフィグは安心したのだった。自分の過去を知りたがったやまとが強がりで聞きたくないと言ったのが可愛いと思った。

横顔のやまとの視界に入りキスをした。

「フィグ…」

「なんだ」

「因みに俺の過去付き合った子は」
「聞きたくない」

「え?」

「言うなやまと」

「何で?」

「知りたくないからだ」

「何で、おあいこでしょ?」

「いい!必要ない!世の中知らなくていいことがあると言った!」

 フィグは聞くと間違いなく嫉妬心が沸き上がりやり場のない怒りが出そうで耳をふさいだ。

 こう言う時こそアイコンタクトがいる!っと思うやまとでした。
 
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