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松編 ③

28 ソルト城 ①

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 何だか知らないがソルトの実家に身辺報告をしに行く羽目になった。ナグマで役職をもらいソルトの監視役という名目で城に行く。大まかな報告としては何で刑が軽くなったのかと俺がどんな刑を執行したかの説明。それと重要なのはソルトがナグマ城で俺の側近として生活をする報告。これさえ納得してもらえればすぐに帰ってくる予定。

全くもって不必要かつ面倒しかないが今後安心してソルトが過ごせるようにするには仕方ない。報告して欲しいと言われたがぶっちゃけたかだか式を邪魔しただけで追放までして魔物送りとかしようとしたくせに報告とか意味がわからない。まぁ、俺もあの時は河口君を侮辱されて頭にきたんだけど。反省してんならそれでいいきがする。だから俺的にはソルトをここまで追い込んだ家にお礼参りでいいと思ってる。

「とら様、ご機嫌が悪いのですね」

「当たり前だ」


 この準備を始めてからとら様はずっとご機嫌斜めです。わかっています。

 重い事や面倒事が苦手なとら様に無理をいって私の城にきていただくのです。お怒りは当たり前なのです。

 やまと様の進めもあり城に帰ることになったのですが私も実際気が重いです。あの事件以来一度も城に帰ってないわけですからどうなっているか分かりません。やまと様の配慮で我々に危険があるといった事は無さそうでが実際どうやって自分の事を説明するのが良いか悩んでいます。

「とら様、すみません。せっかくのお休みを…」

「別に成り行きだから仕方ない」

「それでてすね、とら様の紹介は私に一任してもらえないでしょうか」

「いいけど」

「ありがとうございます。改めて言いますと、とら様の地位は王→やまと様→とら様→クラム様の順になります」

「え、クラムさんより上でいいの?」

「はぃ、元々私達もそのように接してましたのでそれについての変更はないです。あと、やまと様の友人と言う事も話して構いません。新しく付いた役職でとら様を異世界人ではなくナグマ民としての扱いになります」

「でも俺、アイコンタクトも文字も魔法も無理だぞ。あの時みたいにバレないか?」

「それについては私が居ますので大丈夫です。特殊な職業ゆえにと言えば相手も納得すると思います。それに位の高いかたへのいきなりのアイコンタクトや文字は禁止ですからもしそんな事が起こりましたら私が全て対象致しますので仰ってください」

「わかった」

「異世界人というのは伏せるようにと言うのは伝えましたしそれと付き合っていると言うことも話さなくていいです。年齢はそのままで大丈夫です。後は…とら様を上手く説明できるように考えなければ」

 とら様に迷惑はかけれません…問題は父上です。

 恥知らずの私をどう思っているでしょう…

 皆にも謝らなければなりません
 許して…もらえるのでしょうか

「おい、ソルト」

「はぃ」

「あんまり思い詰めるなよ。報告だけだろ、なんとかなるって。思いっきり顔に不安ですってかいてあるぞ」

「文字は書いてないつもりでしたが」

「そうじゃない。何かあればアイコンタクトで話せばいいし傷一つつけない約束もしてくれただろ?それに俺に何かあればお前が何とかするし謝るなら一緒に頭下げてやるよ」

「とら様…。ありがとうございます」

 そうです、りく様もご自身に向き合ってがんばったのです。私も自分の過ちを謝罪しナグマでの生活を認めてもらいます。とら様といればきっと上手く行きます。

「とら様、こちらです」

 初めてナグマの城の外に出る松。乗り物はナグマではお馴染みだが松にはとてつもなく新鮮だった。大きな列車に窓、フィグの領土のカラーと紋章がついていた。

 立派な乗り物に最高位護衛が荷物を詰め込んでいた。ソルトが自分達の乗る両の扉に手を掛けドアを開けた。中は自分のアパートの部屋より少し広めのスペースが広がっていた。ソファーにベッド、家具にシャワーしてまで。中も暖かくなっている。

「ヤバい!凄い~!」

「とら様がお気に召されて良かったです。どうぞ中に入って下さい」

 護衛二人が荷物を詰め終わると自分達より前に繋がれた別の両へ入っていった。そして灯りがつけられ前を照らす。窓を見るとやまととフィグがお見送りに来ていた。

「松君、旅行いいな~!手紙も書いたから心配しないで楽しんできて!」

「ありがとう、河口君」

「あと、お土産はいいからね!ついでにやっぱり俺も行き…「却下だ。ソルト、松君さんを頼んだぞ。それと報告でき次第ナグマ城に戻れ」

「かしこまりました。出発してください」

 扉が閉まると乗り物がゆっくり動き出す。ゲートが開き大きな扉が開き氷道が現れる。フィグにがっしり抱えられながら手を振るやまとが小さくなる。

 明日にはソルトの城に着く予定。初めてナグマ城をでる松はやまとが言う通り旅行感覚で楽しもうと思った。椅子に座り窓の外を眺める松はソルトにもどことなく楽しげに見えた。

「とら様のマントはこちらに掛けます。あとお風呂は狭いですがこちらに。一通りの物は最小限ですが揃ってますので何かありましたら仰ってください」

「ベッドもあるし、机も椅子もある。初めて乗る乗り物は…列車?でも線路ないよな。ソリ?」

「あちらで言う列車のくくりに近いです。動力は魔石ですね。最高位護衛二人が交代で運転する予定です。といってもナグマ国内の移動ですから複雑な動きはしませんから安心してください。この列車は一般的な物より大きめで来賓用と同じぐらいでしょうか。今回は少人数なので三両ですが繋げることもできます。王とやまと様が乗る物だと更に両と広さは倍はあると思います」

「凄い…」

「とら様、数十時間はかかります。寛ぎ下さい。それと、こちらはやまと様からの戦利品だそうです。今回の職業には欠かせないそうなので肌に離さずお持ちください」

「わかった」

 俺は黒い包みたいな短めの棒を受け取った。

「何これ?」

「鞭だそうです」

 河口君!!

 思わず俺は床に叩きつけた。するとポロっとキャップみたいなのが取れてほどけた鞭が出てきた。ソルトがそれを拾う。

「とら様、ここを押すと出た鞭が小さく収納されるようです」

「説明すんな!」

 こうして何時間も揺られ次の日、ソルトの城に着いた。
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